捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第5話 ナエとワンワンと新たな……?

「おっ、裁縫道具があった。布はいっぱいあるし、簡単な服くらい作れそうだぜ」


 ナエが小屋の中を調べた結果、家具だけでなく様々な道具がある事が分かった。数がそんなにある訳ではないが、調理道具や食器なんかもある。服もあるのではないかと思い、探してみたが残念ながらなかった。


 だが、布は沢山あるので、裁縫道具があればナエにとって充分だった。


 一方でワンワンはナエに言われてひたすら回収可能の一覧を見ていた。【廃品回収者】の力を知った彼女に言われて、ひたすら回収しているのだ。一度、一覧にあったものを全て回収したはずなのだが、少しずつではあるが回収可能なものが増えていた。


 ただ、腐った野菜や魔物の死体といった、使えなさそうなものばかりだ。だが、ナエにはある狙いがあった。回収できるものから、【廃品回収者】の有効範囲を調べようとしているのだ。


 ナエはワンワンより少し歳上……十歳くらいではあるが、一人で生きてきたおかげか頭が回った。既にレベルが上がる前の回収物から、レベル1は人が住んでいない場所で捨てられたもの、そしてレベル2では街で捨てられたものを回収できると推測していた。


 そして、より正確に【廃品回収者】というスキルを理解しようとナエは考え、ワンワンにひたすら回収をさせている。


「ねー! ナエー飽きたー!」


 だが、当人は自分のスキルに関してはそこまで興味がないようで、一覧から目を離して手足を投げ出し、床に横になっていた。


「我慢しろ! スキルを持ってるのに、ちゃんと使わねえと勿体ないだろ!」


 スキル。それは稀に生物に宿る神様から与えられた贈り物と言われている。魔族、人間、もしくは魔物にさえも宿る事さえもある。様々なスキルがあるものの、どのようなスキルであっても持っていれば生涯食うに困らない。


 だが、だからこそ、エンシェントドラゴンが懸念している力を悪用する者も居る。違法な手段を用いて奴隷にして強制的にスキルを使わせるという事もあり得るのだ。


 ナエとしては正しく自身のスキルをワンワンに理解させる事で、自分の身を守る事に繋がるとも考えていた。その為、【廃品回収者】に関して調べようと思っているのだが……。


「だってーつまんないよー! 遊ぼうよー!」


 ワンワンにとって、この作業はつまらないものだった。それよりもナエと遊びたかったのだ。


「お前の為でにあるんだよ。私だって、服を作ったりして忙しいんだ」


 既にボロ布と裁縫道具で服を作り始めたナエは手元を見ながらそう言うが、ワンワンはすっかり機嫌を損ねてしまっていた。


「うううう……嫌だ! 休む!」
「おいっ! 裸で外に出るな……って、まあ今更か。まず、あいつの服を作ってやんねえとな。布を繋ぎ合わせた簡単なものだが、まあ何も着ないよりかはいいだろ」


 裸で飛び出して行ってしまったワンワン。これまでも裸だった事、周囲に人は誰も居ない事からナエは気にしないでいた。そう気にしないでいたのだが……小屋の開け放たれた扉から美しい金髪が僅かに見えていた。そして度々顔を覗かせるのだ。


 顔を覗かせては、構って欲しそうな目をナエに向けるワンワン。それに気付きながらもナエは作業を続けた。だが、ワンワンはその行為をやめる様子はなく続け、やがてナエは我慢の限界を迎えるのだ。


「少しだけだからな! 少しだけ遊んだら、また回収するんだぞ!」
「うんっ!」


 ナエの言葉に満面の笑みを浮かべて頷くワンワン。彼女も心の底ではワンワンと遊びたかったようだ。


 そして小屋の外で遊ぶ事になる。しかし遊ぶといっても二人だけしかおらず、遊び道具もない。そう思ったサラだったが、ワンワンから外に並べていた骨の一部を手渡される。


「投げて!」
「…………」


 突然骨を渡され投げてと言われてナエは一瞬理解する事ができなかった。だが、とりあえず言われたままに骨を投げた。


「わうっ!」


 すると骨を投げると同時にワンワンは駆け出した。弧を描いて飛んで行く骨を素早い動きで追い駆け、最後は地面に落下する寸前にキャッチする。そしてナエのもとに戻って、再びナエに骨を手渡すのだ。


「投げて!」


 そしてワンワンの要求に応えて、ナエは再び骨を投げる。それを繰り返して遊ぶのだった。
 ワンワンは楽しそうだが、ナエはこれを楽しんでいるかというと……楽しんでいた、というより癒されていた。


 投げた骨を追い駆け、揺れる長い美しい金髪のせいか、まるで犬のような耳と尻尾が揺れているように見えてしまう。そして、骨をキャッチして戻って来ると、褒めてとばかりに満面の笑顔を向けて来るのだ。


 数回は特に何もせず、骨を受け取って投げた。だが、いつの間にか骨を受け取りながらワンワンの頭を撫でている事にナエは気付き、自分自身に驚く。


「お、終わりだ! 終わり! ほら、約束通り回収をしろよっ!」
「えーもう終わりー?」
「また、遊んでやるから。今はさっきの続きをやってくれ」
「うぅ……分かった。約束したもんね」


 多少まだ遊びたいと言うが、しっかりと約束を守って再び小屋の中で回収を始めるワンワンであった。一方でナエも服作りに戻る……が、先程遊んでいた時の、ワンワンの可愛さに頬が緩み、慌てて表情を引き締めたりと忙しく、集中力を欠き、あまり進まなかった。


 ワンワンとは毎日のように遊んでいたので、服作りの作業はなかなか進まず、結局自分とワンワンの二着が完成するまでに数日掛かったのだった。


 それからナエが来た事により、一つ大きく変わった事がある。それは食だ。小屋にある調理道具、そして格納鞄(高級)の中にあった干し肉、それに世界樹に生えている野草を使って簡単なスープを作ったのだった。


 調味料がないが、干し肉の塩気で充分に味があり、加えた少量の野草によって風味が各段に良くなる。何杯でも飲みたくなるような食欲を刺激する香りを漂わせ、飲んでみると口いっぱいに野草と干し肉とは思えない、上等な肉でも入っているのではないかと疑ってしまうほどの濃厚な味わいだった。


 ちなみに事前に野草はナエがワンワンに頼んで、《シーカー・アイ》で調べている。ただ、ワンワンは美味しい草と言うだけで、その詳細は彼女もよく分かっていない。


 実はリーホ草という貴族ですら滅多に食べられない高級食材であり、また希少な薬を作る材料にもなる。更に継続的に食せば、魔力量が増大する効果もある。そういった情報をワンワンは《シーカー・アイ》で見ているはずなのだが……食べられるかどうかを重要視してしまい頭には入っていなかったようだ。


 ナエ自身もそんな効果を持っているとは全く知らず、ワンワンの言葉だけで判断して「そうか、食べられる草なのか」としか思わなかった。周囲に生えているリーホ草を毎日食べる分だけ採取し、料理に用いたのだった。


 そんな感じで二週間が経過しただろうか。継ぎ接ぎではあるが、服を二人は纏っていた。そして相変わらずワンワンは回収可能な一覧でポチポチ押しては回収をする。そしてナエは回収した壊れた鍬をなんとか補修して使い、畑を耕していた。


 腐った野菜の中には種が使えそうなものがあったのだ。土を耕して埋めてみると、実際芽が出始めた。収穫したものは格納鞄(高級)に入れれば、保存ができる。いくら作っても余って捨てる事をせずに済む。


 そう思ってワンワンも手伝いながら、畑を作ったのだった。
 このようにワンワンとナエの二人の生活は順調そのもの。だが、ある日の事、再び回収済みの一覧を見て首を傾げる。


「あれ? もしかして……ねえ、ナエ!」
「ん? どうしたワンワン?」
「これ! これ人だよね!」




・クロ(女性)




回収可能な一覧の中に、確かに女性の名前が記載されていた。


「そうみたいだな……」
「えっと回収して、と……」
「ちょっ、待て!」
「わうっ?」


 回収可能な一覧の“クロ(女性)”を押して、回収済みの方に移ったところでナエは待ったを掛けた。ワンワンを間一髪のところで止められたので安堵する。


 止められたワンワンは、どうして止められたのか分からないようで首を傾げている。


「どうしたのナエ?」
「いや、私も回収されといてなんだけど……危ない奴かもしれないぜ、そいつ」


 回収可能な人となる理由が未だに分かっていないなか、この場に出すのは危険だと考えるナエ。もしかするとスリなどで生活していた、ゴミみたいな自分だからこそ回収対象になったのではないかと思ってもいた。


 もし、そういった理由で回収の対象となったのであれば、回収した人をこの場に呼び寄せるのはワンワンの身が危ないかもしれない。


 不安に思うナエだったが、ワンワンは大丈夫と笑っていた。


「きっと大丈夫だよ! 僕、この人とっても良い人だと思うんだ!」
「だけどなぁ……」
「きっと良い人だよ、それにもう回収しちゃってるんだし……」
「うっ……」


 【廃品回収者】で回収すると、取り出すまでは別の場所で保管されるらしいのだが、これに関してはナエも未だによく分かっていない。自分が回収された時は意識を失っていたので回収された時の事は記憶にないのだ。


 だから回収したものをそのまま放置してどうなるかは未だに分からない。これまで色々回収してきたが、記載されたものが別のものに変化する事はなかった。しかし、検証の時間が短く、明確に時間の経過に伴う劣化については分かっていない。


 回収したものを保管する場所が格納鞄(高級)のように時間が停止される場合であれば、ナエのように死にかけていても死ぬ事はない。だが、そうでなければ治療は一刻も争うだろう。


 その不安がナエの中にはあり、警戒で固めた心が揺らぐ。それに加え、ワンワンのお願いだ。ワンワンの愛らしい容姿から繰り出されるお願いは、ナエにとって抗う事が難しい強力な魔法のようなものだった。


「ナエー、ねー、いいでしょー。回収しちゃったんだしさー。出してあげようよー。可哀想だよー。ね、お願い……ナエお姉ちゃん」
「…………分かったよ」


 ナエお姉ちゃん。その言葉で完全に心が屈した。
 ただし、エンシェントドラゴンから貰った魔法でいつでも身が守れるようにすること。そう何度も念入りにナエはワンワンに言うのだった。


 だが、本人は早く会いたいらしく、「うん!」「うん!」「うん!」と元気よく返事をするばかりで、話をちゃんと聞いているのか怪しかった。


 そして回収済みの一覧の“クロ(女性)”にワンワンは触れる。一覧から名前が消え、二人の目の前に、甲冑を身に着けた長い黒髪の女性が現れる。地面にうつ伏せの状態で倒れているものの、意識はあるようでゆっくりと顔をワンワン達へと向ける。


「こ、ここは……?」


 消えてしまいそうなか細い声をワンワン達は耳にした。

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