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山口五日

第13話 ゴブリンの大群との決着

「スキル? 【道化師】?」


 よく分からないが、それが自分の中にあるというのが自覚できた。そしてこのスキルを上手く使えば、この苦境を切り抜ける事ができると俺は不思議な確信があった。


「よし、やってみるか……」


 俺はスキル【道化師】に意識を集中し、迫り来るゴブリンの一体を斬りつけた。
 その斬撃はこれまでと比べて格段に速い。斬られたゴブリンもろくに剣筋は見えなかったに違いない。


 左肩から右脇腹へと斬りつけたゴブリンの体が、剣が通過したところを境に、二つに分かれて地面に落ちる。悲鳴を上げる間もなく絶命し、魔石を残して消えていった。


「……軽いな」


 俺は確かめるように盾と剣を軽く上げた。そして【道化師】の力を実感する。


「次は……こっちを試すか。ラピス、俺の盾を貸すから矢が飛んで来たら、これで防げ」


「何をするつもりですか?」


 ラピスは坂の上に待機するゴブリンたちから目を離さずに尋ねる。だが、俺は答えずに盾を手放して地面に落とす。そして剣を握り締めて再び【道化師】に意識を傾け、地面を蹴った。


「ギッ!?」


 次の瞬間、少し離れたところにいた一体のゴブリンに剣を突き刺していた。胸から背中へ剣が貫通し、確実にその命を摘み取る。


 それだけでは終わらない。剣を抜くとすぐに別のゴブリンに攻撃をしていく。


 首を斬り、あるいは胸に突き刺すなど一撃で確実に命を奪う。


 確実に、そして極限までに無駄を省いて殺す。まるで暗殺者の気分だ。ゴブリンは突然動きが速くなった俺についていけず、当初近接戦闘を繰り広げていたゴブリンは全て倒す事ができた。


「今度は剣が重いな。まともに振れない……っ!」


 剣の重さを確認していると、ふと離れたところにいる弓を構えるゴブリンたちに気付いた。


 近くに仲間がいなくなった事で、再び矢を放とうとしているようだ。坂の上にも一瞬目を向けてみると、そちらのゴブリンたちも示し合わせたように弓を構えている。このままでは矢の雨が降り注ぐだろう。


「ラピス! その場でしゃがめ! 矢は俺がどうにかする!」


「かしこまりました!」


 俺の言葉に素直に従うラピス。おそらく普段の彼女であればマスターである俺を危険に晒す事はしない。だが、俺の変化に気付き、そうする事が最適な行動であると判断したのだ。


「ラピス! 盾を!」


 俺はしゃがみ込むラピスのもとへと向かい、彼女を守るように傍に立つ。預けていた盾を受け取ると、今一度【道化師】に意識を向ける……今度は防御だ。


 やがて力いっぱい引いた弦を震わせ矢を放った。


 百近い矢が俺たちの命を狙って迫って来る。俺は落ち着いて両側の矢の軌道が見やすいように、両方向のゴブリンに対して身体の側面をむけるように立つ。


 左右から迫り来る無数の矢。


 一方向からであればなんとか防げる。だが別方向からもとなると、通常であれば防ぐのは難しい。


 だが、今はそう難しいものではないと、俺は二方向から迫る矢を見て思った。


 矢がそこまで速く感じなかった。それに盾と剣を持つ手が自分の意思よりも速く反応していて、当たりそうな矢を防いでいく。動体視力と条件反射が向上していると思われる。


 スキル【道化師】の能力、それは様々な能力の特化。ここまで順番に攻撃、速度、防御といった具合に切り替えてみた。その効果は明らかで、ゴブリンの戦力を削ぎ、矢から身を守る事ができている。


 攻撃特化にしてみた時には腕力が上がったらしく、盾と剣の重さがまるで感じなかった。
 速度特化では体が軽く、また地面を蹴る力が強くなったようだ
 そして防御特化では相手の攻撃を見切り、適確に攻撃を防げるようになっていた。


 その反面、デメリットもある。能力を特化した分、他の能力が低下する。速度特化にした時には剣が重く感じてよく分かった。


 だが、デメリットは上手く特化する能力を切り替えていけば充分戦える。そう俺は自分たちに降り注ぐ全ての矢を防ぎ切って思った。


 どうやら確実に俺たちを仕留めようと全ての矢を使ってしまったようだ。弓を構えるゴブリンはいなかった。また、全ての矢を防がれてしまった事に驚き、戸惑っているように見える。


「それじゃあ反撃開始といくか。ラピス向こうのを任せられるか? 俺は坂の上の奴等を相手する」


「かしこまりました。あれぐらいの数であれば問題ございません」


 そして俺たちはそれぞれの方向へと駆け出した。


 俺は引き続き【道化師】を駆使してゴブリンを倒していく。
 盾を投げ捨てると速度特化で距離を詰め、攻撃特化で剣を振るう。坂の上には弓以外にも剣など手にしているゴブリンが多くいたので、危険を感じたら防御特化で攻撃を防ぐ。そのように何度も特化する能力を切り替えて全てのゴブリンを倒した。


 ラピスの方も弓を持ったゴブリン以外は全て倒していたので、大した武器を持っていない様子で、俺が受け持ったゴブリンたちを掃討した時には彼女も戦闘は問題なく終了していた。


 戦いの後には光沢のある黒い石、五十以上の魔石が残されていた。その数の多さが相手にしたゴブリンの数を示している。


 長く息を吐きながら、戦いが終わった事を、そして不利な状況を覆してゴブリンの大群に勝利した事を噛み締めた。


「終わったな……ラピス、傷は大丈夫か?」


「はい。魔石を吸収した事で成長とともに、傷は塞がりました。残りの魔石は拠点へ戻ってから吸収させていただきます」


 こちらに近付いて来るラピスの手には数個の魔石があった。すると水が地面に染み込むように、魔石はラピスの手へと吸い込まれていく。言葉通り魔石を吸収し、彼女は成長していくようだ。


 あまり数が多いと吸収するのに時間が掛かりそうなので、ラピスの言うようにホテルに戻ってから残りは吸収してもらおう。


 地面に散らばった魔石を手早く回収すると、俺たちはホテルへと戻る事にする。
 さすがに【道化師】のスキルを得て、そのうえ多くのゴブリンを倒して魂は強化された。だが、想定外の戦闘に疲労困憊だ。


「ところで、マスターの動きが突然変わったように見えました。もしかしてスキルを獲得したのではございませんか?」


「ああ。【道化師】っていう……」


 ホテルまでの帰り道、俺はラピスに娯楽神から【道化師】のスキルの事を話した。


 それから今回の魔石でどれだけラピスが成長できるか、向こうの世界で魔石を換金したらどれだけの値になるか……そんな事を話していた気がする。


 正直、疲れ果てていてよく覚えていない。ホテルに戻るとすぐに寝てしまうほどだ。


 ただ、戦闘に勝利したという爽快感が、俺の心を満たしていたのは覚えている。

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