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異世界へ行く準備をする世界~他人を気にせずのびのびと過ごします~

山口五日

第5話 なんとか拠点に到着しました

「…………んっ? あれ……ここは?」


 見知らぬ場所で目が覚めた。


 床には柔らかな赤い絨毯。天井にはシャンデリアがあり、他にはグランドピアノや1メートルはありそうな観賞魚が優雅に泳ぐ巨大水槽など置かれている。まるで高級ホテルのエントランスのようだ。


「ん? 確かホテルに行くつもりだったような……」


 そうだ。ここのホテルは職場に近い場所にある高級ホテルだ。一度会社の創立記念パーティーで利用した事があるから覚えてる。


 だけど……どうして……あれ? ここに向かっていたような…………あ。


 慌てて俺は首に手をあてて、くっついているかを確認した。
 全てを思い出した。拠点になるこのホテルに俺は向かっていた。その途中でミノタウロスと遭遇してしまい、首を斬られて…………あの死ぬ感覚は嫌だな……。


 斧で首を斬り落とされた感覚は思い出しただけで鳥肌が立つ。


「それにしても本当に死なないんだな……服は血だらけだけど」


 神様の言っていたように、生命活動が停止するとこうしてホテルに転送されるようだ。


 無傷の体を見ると、先程の事が嘘のようだが、服に付着した大量の血が決して夢ではないと言っている。


「あのミノタウロスはヤバいな……たぶんあれがDランクだよな。創造神の言ってたように、あれは異常だ」


 猛スピードで車に突っ込まれて微動だにしない魔物。ゴブリンとは比べものにならないほど強い事が分かる。いったいどれだけ魂を強化すれば、あのような化物を相手にできるんだろうか。


「それにしても、あれでDランクって……。それ以上のランクの魔物ってどうなってるんだよ……。異世界に行く前に強くなる必要があるのはよく分かったけどな」


 魔物の強さに呆れながらゆっくりと立ち上がると、俺はホテルの中を散策する事にした。創造神はここに異世界の武器を揃えておいたと言っていた。何処かにあるはずなので、それを探す事にする。


 今すぐという訳ではないが、あのミノタウロスにリベンジするつもりだ。
 ミノタウロスという化物を相手にして、魔物と戦う事、異世界へ行く事が嫌になったとは不思議と思わなかった。


 今、俺は恐れではなく、あれほど強い奴を倒したら爽快だろう。そんな戦闘狂じみた思いがあった。自分はこんな性格だっただろうかと自問自答するが、分からない。ただ、周囲に合わせていたせいで、自分でも気付かなかったのかもしれない。


「とりあえずFランクの魔物を相手にして強くなるか。それぞれのランクの魔物について聞いておけば良かったな……」


 頭を掻きながら魔物の詳細を聞かなかった事を反省する。
 異世界の武器の中に、魔物の情報が載っている図鑑などがある事を祈りながらホテルの散策を続けた。


 高級ホテルなだけあって探すのに苦労するかと思ったが、幸いな事に30分も掛からず見つける事ができた。


 このホテルにはパーティールームやミーティングルームがあるのだが、その中のターコイズという名前のパーティールーム。そこに数々の武器、また武器ではない道具が数多く置かれていた。


 赤い絨毯が敷かれ、各所に丸テーブルの置かれた結婚披露宴でも行われそうな室内。そこにテーブル上に置かれていたり、壁に掛けられていたり、床に落ちていたりとファンタジーで溢れかえっている。


「これは凄いな……」


 多くの異世界のものが置かれた壮観な光景に、足を踏み入れるのを躊躇ってしまった。まるで、ここだけが異世界になってしまったようだ。


 だが、いつまでも中に入らない訳にはいかない。意を決して中に入り一つ一つを見ていく。博物館や美術館の展示品を見るよりも、ここに置かれたもの全てに好奇心が刺激され、時間を掛けて見て回る。


 いかにも聖剣と思われる、神々しさを感じさせる床に突き刺さった黄金の剣。
 試しに持ってみようと思ったが、俺に資格はないようで床から抜けず駄目だった。ここに置かれていても、使えるとは限らないようだ。


 また、それとは正反対に禍々しい雰囲気を漂わせる黒い剣があった。こちらは床に刺さっているうえに、なぜか鎖が巻き付いている。触れたら意識を乗っ取られたり、呪われるのは嫌なのでスルーした。


 ちなみに槍や弓など剣以外でも神々しかったり、禍々しいものがあった。どれも同じように床に刺さっていたり、鎖が巻き付いていた。同じシリーズの武器なのだろうか。床に刺さっているような武器は、どれも一度は抜けないか試してみたが駄目だった。残念だ。


 創造神が俺に特別な能力を与えられなかったのと同じ理由で、魂が成長しないと使えないのだろうか。


「最初から強い武器は装備ができない……ゲームのようだな。まあ、とりあえずゴブリン相手なら普通の剣でも問題ないか……ん?」


 俺は床に置かれた大きな箱の存在に気付いた。漆のような美しい光沢を放つ黒塗りの箱。


 パーティールームに元々あったというわけではなさそうだ。おそらく創造神が用意したものの一つに違いない。中にはいったい何が入っているのか好奇心が疼く。だが、大きさと形からして、俺はそれが棺桶のようにも見えてしまった。


 吸血鬼なんか入っていないだろうか……開けた瞬間に封印が解けて襲われる。そんな悪い予想が脳裏を過ぎった。


 だけど鎖が巻き付いた武器と違って禍々しい気配が感じられない。


「…………開けられるな」


 蓋に手を掛けて少しだけ持ち上げてみると何も抵抗はなかった。このまま持ち上げれば開けられるだろう。


「……よし、開けてみるか!」


 俺は蓋を持ち上げた。創造神の事だから本当に危険なものはここに置いていないはず……禍々しい剣とかは怪しいが、信じて俺は箱の中身を確かめる。


「いったい何が……………………」


 俺は声も出さずに、固まってしまう。


 箱の中身。それは横たわる一人の少女。
 それだけなら驚くなりして声を上げるところだが、この少女は目を開けていて、俺はがっつり目が合ってしまう。


 蛇に睨まれた蛙という訳ではないが、何も感じさせない無機質な瞳に見つめられて、声を上げる事すらできず、そのまま固まってしまった。

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