ボッチが駆使する過去と未来、彼女らが求める彼との未来〜ゲーム化した世界では、時間跳躍するのが結局はハーレムに近いようです〜
1章 現状は非情で……
声の方を見ると、どうやら女子生徒のようで、その彼女は手元に視線を落としている。
その手には横向けに持ったスマホが。
隣にいた友達だろう生徒がそれを覗き込む。
「――皆!! テレビ!! ニュースつけて!!」
今度は別の男子生徒が周囲に促すようにしてそう告げた。
彼も手元にスマホを持っていて、各人にニュースを見るよう言った。
それに釣られるようにして、周りは自分の、或いは近くの人のスマホに視線を落としだした。
……俺は、生憎とスマホは教室にある鞄に入れっぱなしだった。
「――火渡、恋君、私のを」
箱峰先生が、近くにいた俺と妹さんを傍に寄らせて、自らのスマホを操作した。
「すいません」
「ありがとうございます」
妹さんも手元に持ち合わせてなかったのか、先生の言葉に甘え、スマホに近づいた。
<――ご覧ください!! ただ今、謎の生物が都心を覆いつくさんばかりに出現し、周りの人々を襲っています!!>
先生が素早く切り替えたテレビ画面には『緊急放送』の文字とともに、現場を映し出している。
男性のリポーターが歩道上から、沢山のビルが立ち並ぶ大きな道路を見て騒いでいた。
<ああっと、危ない!! ――今、巨大な、蠅のような生物が、口から火を吐いて、周囲に甚大な被害をもたらしています!!>
リポーターの告げた通り、蠅を巨大化したようなモンスターが暴れていた。
その攻撃から逃げ惑う人々と、蠅とを交互にテレビカメラは撮っている。
<乗り捨てられた車も、一息で壊してしまう程のもので、大変危険です!! 皆さんは、決して、近寄らないでください!!>
『現場からは以上です』との言葉を受け、場面はスタジオへ戻される。
スタジオにいる壮年の男性キャスターは険しい表情を浮かべ、カメラに視線を向ける。
<――えぇ、ただ今○○さんも言っていたんですが、現れた生物は極めて危険で、近寄ると命の危険を伴います。決して、冗談半分だったり、興味本位で近寄らないでください>
そういって今度は別の場所からの中継に移り変わった。
<今、○○県庁前から中継しているんですが、つい先ほど現れた、この、大きな樹木のような生物が、県庁を始め、建物に次々と蔦を絡ませ、締め上げるようにしています!!>
木に一つ目が付いた妖怪のように見えるそれは、大きな体躯をしていて、映し出された県庁に取り着くようにして蔓を巻きつけていた。
そして次第に建物は軋み、悲鳴を上げるようにしてミシミシと音を上げる。
じわりじわりと寿命が縮められるように、砂礫がさらさらと落ちていた。
<ああっ、今、県庁内に残っていた職員たちが一斉に避難しています!! 建物内は危険だと判断したんでしょうか!!――あああ!! ダメだ、崩れる!?>
突如叫ぶような声を上げたリポーターの視線の先には、サバ折りされたように真っ二つになった県庁の姿が。
そうして切り取られた上半分は、凄い轟音をあげて傾き始め、地へと落下した。
その下には、まだ避難中の職員が――
<『しばらくおまちください』>
突如画面が切り替わる。
かわいいイラストの女性がにこやかな笑みを浮かべて頭を下げている。
その場違い感が、今の状況の異質さをより一層際立たせていた。
「…………」
先生は暫く茫然と画面を見つめると、すぐに我に返ったようにスマホを操作し、別のチャンネルへ変える。
<ご覧ください!! えっと、近くで輸送任務に就いていた、自衛隊が、果敢に戦闘を繰り広げています!!>
次に開いたチャンネルでは、偶然近くで撮影していた局のアナウンサーが興奮しながらその様子を実況していた。
近くには乱雑に置かれた天気のフリップ、晴や曇りをモチーフにしたキャラクターのマグネットが。
アナウンサーかと思ったが、どうやら天気予報士らしい。
彼女にとっては突然のアドリブを求められた形になったが、意外にうまく状況を捉えて報じてくれていた。
<うわっ、凄い!! 近くにあった棒状のもので対抗してます!!>
確かに見た所、若年の自衛隊員と思われる人物が何か長い竿のようなもので突きを放っていた。
それに対するは、上半身しかないにもかかわらず、自由自在に動き回る石造。
いうなればゴーレムというところか。
ゴーレムの背後に隠れるようにして見えるのは、無残にも横転して火の粉をあげる車。
迷彩のような色を帯びた布から出火し、車の正面は見事に凹んでいる。
<見事に攻撃を当て、謎の動く物体を――え?>
女性の情けないような声が洩れた。
隊員のリーチを活かす、顔を目がけた渾身の突きは、ゴーレムの体まで届くことはなかった。
ゴブリン達と同じように、ゴーレムの前に出現した謎の透明な膜が、隊員の攻撃を遮ってしまう。
そして……。
ゴーレムは背後から回り込んだもう一人の隊員を、振り向きざまの腕の動きだけで吹き飛ばした。
その際にグチャッ、と何かつぶれたような、砕けたような嫌な音を拾う。
それに気を取られた竿を持つ若い男性は、硬直し、決定的な隙を与えてしまった。
同じく<『しばらくお待ちください』>との画面に切り替わり、そこから先が放送されることはなかった。
他のチャンネルを見ていた者もいたようで、「嘘っ……自衛隊でも、歯が立たないって」「重火器全部、受け付けない……」「こんなの、もう、無理じゃん……」など悲観的な声が漏れ聞こえて来た。
「…………」
「…………」
「…………」
そうして或る程度現状を放映する緊急ニュースを見尽した。
外からはゴブリン達が体育館を壊して侵入しようとしているのか、叩くような音が断続的に響いて来る。
だが体育館自体は現代の建築技術に基づく強固な作りで、意外にゴブリン達の攻撃を耐え続けていた。
体育館の中を、圧倒的な沈黙が支配する。
誰も彼も、声を発さない。
いや、発せない。
悲鳴ですら、上げられないでいた。
ここで何を言えばいいのか、何をいったらこの状況が好転するのか、その場にいた誰もが分からなかった。
――そんな中、声を上げた者がいた。
「――皆、大丈夫!! 落ちついて、みんなで協力して乗り越えましょう!!」
教師も生徒も来校者もみんなが沈黙し、不安と恐怖に飲み込まれそうになる中。
声を上げたのは、一人の生徒だった。
「水谷……」
「水谷君……」
「英治……」
彼の声に応えるようにして、俯いていた顔を上げる周りの生徒。
彼と親しい者たちは、希望の光を見出したかの様に、表情を綻ばせる。
水谷英治――勇実や聖川が女子の人気者ナンバーワンだとしたら、コイツは男子におけるそれだ。
クラスは勇実と同じで、俺や聖川とは違う。
だが、彼女らと同様に、コイツに関することは噂、真実の別なく溢れている。
そうして聞く気がないのに、誰かの話題となって言葉にされ、俺の耳にさえ入って来るのだ。
成績優秀、所属するテニス部以外のスポーツも万能、背も高く、月9に出てても不思議じゃない爽やかイケメン。
当然女子からは絶大な人気を誇る一方、その人柄のために男子からも厚い信頼を置かれるという完璧超人。
ちなみに。
コイツはしっかり周りから“英治”と間違えられずに呼ばれる。
……一方の俺は何かの折、クラスメイトの一人から名前を呼ばれる機会があったが――
『え~っと……“影時”君、だよね』
と呼ばれた。
……誰だよ、“かげとき”って。
武将にいそうだけど、違ぇよ。
テメェの大好きな水谷と同音だよ、佐藤(女)!!
……ふぅ、落ち着いた。
やはり自分が冷静さを保てているかどうかのバロメーターの一つはどうでもいいことを思い浮かべられるかだな。
本当にヤバい時とかしんどい時は、何も考えられないもん。
俺が生まれ出る恐怖の鎮静化に成功している一方、彼の一声で、生徒の周りには明るい雰囲気が広がる。
「彼の言う通りだ!! 暗い考えの時にはいいことは思い付かない!! みんな、希望を持って行こう!!」
水谷に呼応するようにして校長が体育館内全員を鼓舞する。
その後も水谷は校長と代わる代わる中にいる人々を励ます言葉を紡ぎ続けた。
周囲には、この状況に絶望するよりも、何とかしようとする空気が生まれ出す。
主に生徒は水谷によって、教師は校長によって事態を前向きに解決するため顔を上げたようだ。
「――良い、生徒さんをお育てになってますな」
不意に、俺に、というよりは傍にいた箱峰先生に声をかける人が。
その手には横向けに持ったスマホが。
隣にいた友達だろう生徒がそれを覗き込む。
「――皆!! テレビ!! ニュースつけて!!」
今度は別の男子生徒が周囲に促すようにしてそう告げた。
彼も手元にスマホを持っていて、各人にニュースを見るよう言った。
それに釣られるようにして、周りは自分の、或いは近くの人のスマホに視線を落としだした。
……俺は、生憎とスマホは教室にある鞄に入れっぱなしだった。
「――火渡、恋君、私のを」
箱峰先生が、近くにいた俺と妹さんを傍に寄らせて、自らのスマホを操作した。
「すいません」
「ありがとうございます」
妹さんも手元に持ち合わせてなかったのか、先生の言葉に甘え、スマホに近づいた。
<――ご覧ください!! ただ今、謎の生物が都心を覆いつくさんばかりに出現し、周りの人々を襲っています!!>
先生が素早く切り替えたテレビ画面には『緊急放送』の文字とともに、現場を映し出している。
男性のリポーターが歩道上から、沢山のビルが立ち並ぶ大きな道路を見て騒いでいた。
<ああっと、危ない!! ――今、巨大な、蠅のような生物が、口から火を吐いて、周囲に甚大な被害をもたらしています!!>
リポーターの告げた通り、蠅を巨大化したようなモンスターが暴れていた。
その攻撃から逃げ惑う人々と、蠅とを交互にテレビカメラは撮っている。
<乗り捨てられた車も、一息で壊してしまう程のもので、大変危険です!! 皆さんは、決して、近寄らないでください!!>
『現場からは以上です』との言葉を受け、場面はスタジオへ戻される。
スタジオにいる壮年の男性キャスターは険しい表情を浮かべ、カメラに視線を向ける。
<――えぇ、ただ今○○さんも言っていたんですが、現れた生物は極めて危険で、近寄ると命の危険を伴います。決して、冗談半分だったり、興味本位で近寄らないでください>
そういって今度は別の場所からの中継に移り変わった。
<今、○○県庁前から中継しているんですが、つい先ほど現れた、この、大きな樹木のような生物が、県庁を始め、建物に次々と蔦を絡ませ、締め上げるようにしています!!>
木に一つ目が付いた妖怪のように見えるそれは、大きな体躯をしていて、映し出された県庁に取り着くようにして蔓を巻きつけていた。
そして次第に建物は軋み、悲鳴を上げるようにしてミシミシと音を上げる。
じわりじわりと寿命が縮められるように、砂礫がさらさらと落ちていた。
<ああっ、今、県庁内に残っていた職員たちが一斉に避難しています!! 建物内は危険だと判断したんでしょうか!!――あああ!! ダメだ、崩れる!?>
突如叫ぶような声を上げたリポーターの視線の先には、サバ折りされたように真っ二つになった県庁の姿が。
そうして切り取られた上半分は、凄い轟音をあげて傾き始め、地へと落下した。
その下には、まだ避難中の職員が――
<『しばらくおまちください』>
突如画面が切り替わる。
かわいいイラストの女性がにこやかな笑みを浮かべて頭を下げている。
その場違い感が、今の状況の異質さをより一層際立たせていた。
「…………」
先生は暫く茫然と画面を見つめると、すぐに我に返ったようにスマホを操作し、別のチャンネルへ変える。
<ご覧ください!! えっと、近くで輸送任務に就いていた、自衛隊が、果敢に戦闘を繰り広げています!!>
次に開いたチャンネルでは、偶然近くで撮影していた局のアナウンサーが興奮しながらその様子を実況していた。
近くには乱雑に置かれた天気のフリップ、晴や曇りをモチーフにしたキャラクターのマグネットが。
アナウンサーかと思ったが、どうやら天気予報士らしい。
彼女にとっては突然のアドリブを求められた形になったが、意外にうまく状況を捉えて報じてくれていた。
<うわっ、凄い!! 近くにあった棒状のもので対抗してます!!>
確かに見た所、若年の自衛隊員と思われる人物が何か長い竿のようなもので突きを放っていた。
それに対するは、上半身しかないにもかかわらず、自由自在に動き回る石造。
いうなればゴーレムというところか。
ゴーレムの背後に隠れるようにして見えるのは、無残にも横転して火の粉をあげる車。
迷彩のような色を帯びた布から出火し、車の正面は見事に凹んでいる。
<見事に攻撃を当て、謎の動く物体を――え?>
女性の情けないような声が洩れた。
隊員のリーチを活かす、顔を目がけた渾身の突きは、ゴーレムの体まで届くことはなかった。
ゴブリン達と同じように、ゴーレムの前に出現した謎の透明な膜が、隊員の攻撃を遮ってしまう。
そして……。
ゴーレムは背後から回り込んだもう一人の隊員を、振り向きざまの腕の動きだけで吹き飛ばした。
その際にグチャッ、と何かつぶれたような、砕けたような嫌な音を拾う。
それに気を取られた竿を持つ若い男性は、硬直し、決定的な隙を与えてしまった。
同じく<『しばらくお待ちください』>との画面に切り替わり、そこから先が放送されることはなかった。
他のチャンネルを見ていた者もいたようで、「嘘っ……自衛隊でも、歯が立たないって」「重火器全部、受け付けない……」「こんなの、もう、無理じゃん……」など悲観的な声が漏れ聞こえて来た。
「…………」
「…………」
「…………」
そうして或る程度現状を放映する緊急ニュースを見尽した。
外からはゴブリン達が体育館を壊して侵入しようとしているのか、叩くような音が断続的に響いて来る。
だが体育館自体は現代の建築技術に基づく強固な作りで、意外にゴブリン達の攻撃を耐え続けていた。
体育館の中を、圧倒的な沈黙が支配する。
誰も彼も、声を発さない。
いや、発せない。
悲鳴ですら、上げられないでいた。
ここで何を言えばいいのか、何をいったらこの状況が好転するのか、その場にいた誰もが分からなかった。
――そんな中、声を上げた者がいた。
「――皆、大丈夫!! 落ちついて、みんなで協力して乗り越えましょう!!」
教師も生徒も来校者もみんなが沈黙し、不安と恐怖に飲み込まれそうになる中。
声を上げたのは、一人の生徒だった。
「水谷……」
「水谷君……」
「英治……」
彼の声に応えるようにして、俯いていた顔を上げる周りの生徒。
彼と親しい者たちは、希望の光を見出したかの様に、表情を綻ばせる。
水谷英治――勇実や聖川が女子の人気者ナンバーワンだとしたら、コイツは男子におけるそれだ。
クラスは勇実と同じで、俺や聖川とは違う。
だが、彼女らと同様に、コイツに関することは噂、真実の別なく溢れている。
そうして聞く気がないのに、誰かの話題となって言葉にされ、俺の耳にさえ入って来るのだ。
成績優秀、所属するテニス部以外のスポーツも万能、背も高く、月9に出てても不思議じゃない爽やかイケメン。
当然女子からは絶大な人気を誇る一方、その人柄のために男子からも厚い信頼を置かれるという完璧超人。
ちなみに。
コイツはしっかり周りから“英治”と間違えられずに呼ばれる。
……一方の俺は何かの折、クラスメイトの一人から名前を呼ばれる機会があったが――
『え~っと……“影時”君、だよね』
と呼ばれた。
……誰だよ、“かげとき”って。
武将にいそうだけど、違ぇよ。
テメェの大好きな水谷と同音だよ、佐藤(女)!!
……ふぅ、落ち着いた。
やはり自分が冷静さを保てているかどうかのバロメーターの一つはどうでもいいことを思い浮かべられるかだな。
本当にヤバい時とかしんどい時は、何も考えられないもん。
俺が生まれ出る恐怖の鎮静化に成功している一方、彼の一声で、生徒の周りには明るい雰囲気が広がる。
「彼の言う通りだ!! 暗い考えの時にはいいことは思い付かない!! みんな、希望を持って行こう!!」
水谷に呼応するようにして校長が体育館内全員を鼓舞する。
その後も水谷は校長と代わる代わる中にいる人々を励ます言葉を紡ぎ続けた。
周囲には、この状況に絶望するよりも、何とかしようとする空気が生まれ出す。
主に生徒は水谷によって、教師は校長によって事態を前向きに解決するため顔を上げたようだ。
「――良い、生徒さんをお育てになってますな」
不意に、俺に、というよりは傍にいた箱峰先生に声をかける人が。
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