人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

契り

 攻撃後、ピシリと乾いた音がしてブレスレットにヒビが入った。
 同時に戦場を包み込むような黒いもやーー悪意も見えなくなった。
 ブレスレットは効力を失ったようで、もはや悪意を見ることはできないだろう。

「ゴルドちゃんを殺すなんて、やるわねェ」

「次はあんただけど……やる気あるか?」

「あらァ、あたしがやる気ないとでも?」

「そうだろ。さっきから攻撃もいまいち本気に見えない」

「お見通しだったのね。確かにあたしはやる気はないわ。だからもう撤退。ほら、みんな帰るわよ」

 今の魔国軍で最も立場の高いシビアがそう伝えると、魔国軍の兵士たちはだんだんと後退して撤退を始めた。

「あたしもこれで帰るけど……あなたの名前を教えてもらえるかしら」

「ミツキ。ソレル王国戦士団のミツキだ」

「ミツキちゃんね。あたしは魔国幹部のシビア。そうねェ……もし暇があったら魔国に来るといいわァ。歓迎してあげる」

「気が向いたらな」

「それじゃ、またね、ミツキちゃん」

 ヒラヒラと手を振ったシビアは、背中を見せてゆうゆうとその場を後にした。

 * * *

「この度は協力いただき、本当にありがとうございました!」

 戦争が終わると、クロードが深々と頭を下げて礼を言ってきた。

「特にミツキ様、このご恩は命にかえても返してみせます!」

「大袈裟ですって。それに、俺達もここを通りたかったし」

「おうよ。これでウナアーダに行けるな」

「それなのですが、1ついいでしょうか」

 ようやく道も開け、行く気満々となっているミツキ達にソレーユが口を挟む。

「どうした?」

「ミツキ様達はウナアーダの女王に会いに行かれるらしいですが、単刀直入に言うと……自殺行為です」

「俺らじゃ勝てねぇと?」

「緑の騎士である貴方は、それをよくわかっているのでしょう?」

「…………」

 思い当たるのか、ヨハンは黙り込む。

「率直に言うと、今ここにいるミツキ様達と私、5人で戦っても白に勝てる確率はほぼ0です」

「白はそんなに強いわけ?」

「私がまだ幼い頃、戦っている姿を1度だけ見ました。あれは理不尽の塊です。英雄の名は伊達ではありません」

 やはり、あの時自分と戦った時は本気ではなかったのだと、ミツキは確信を持つ。
 だというのに、全力を出してようやく退けられた。
 正面から戦うのは確かに自殺行為かもしれない。

「ならどうすんだ」

「鍛えます。この戦闘て皆さんの戦い方を見ましたが、1週間もあれば見違えるほど強くなれますよ。特にミツキ様と邪神さん」

「私があの白と戦えるようになるの?」

「はい。癪ですが、邪神さんは才能がありますから。それに、磁石さんと緑もまだ強くなれます」

「じゃあじゃあ、1週間鍛えたら私たち全員最強になるってこと!?」

「最強とまでは言いませんが……確実に強くなれますよ」

 ここまで断言されたとなれば、その話に乗らないわけがない。

「だったら、1週間鍛えるよ。俺は強くなりたい」

「では早速戻って、それぞれに合った鍛錬をしましょう」

 4人はソレーユに連れられ、法国の首都へと帰ることになった。

 * * *

「そもそも、戦闘スタイルには2種類あります。理性型と本能型です」

「考えるか考えないかの差か」

「はい。どちらが強いとは言いませんが、白はどっちか知りたいです。緑ならわかるでしょう」

「アランさんは多分、どっちも使う。手合わせをする機会が何回かあったんだが、読み合いも強ければ、たまに理解できない動きをすることもあったからな」

「マジで化け物かよ」

「そんな化け物に勝つためには、こちらも戦闘スタイルを磨くしかありません。この中で本能型なのはミツキ様と磁石さんでしょう。邪神さんと緑、私も理性型です」

 先程の戦場でちらりと全員の戦闘を見ていたソレーユは、4人の戦闘スタイルをわかっていた。

「実戦形式の鍛錬を多くして、手早く行きましょう」

「頑張るよー!」

「そうね、頑張らないと……」

 いつも通り元気いっぱいに返事するソフィアとは対象的に、メリアは少しうつむいている。

「では、これから言う場所にそれぞれ向かってください」

 4人はソレーユに向かう場所を伝えられ、その場で別れた。
 ミツキはソレーユと首都から少し離れた開けた場所に来ている。

「それでは……ミツキ様」

「ん?」

「私と契りを結んで頂きたいのです」

「契り?」

 てっきり模擬戦をすると思っていたミツキは、突然の申し出に困惑する。

「私の家系は代々、太陽神様に最も近づける存在として育てられてきました」

「だからすぐに俺が太陽神だってわかったのか」

「私の先祖は大昔に太陽神様と契りを結び、その力は私まで受け継がれていますが、その力も今では半分もありません。……ミツキ様、再び私と契りを結んでください」

「それはいいんだけどさ、なんでさっきの戦闘の前に言わなかったんだ」

 そんな簡単に強くなれる方法があるなら、ミツキと会った時真っ先に試せばよかった。

「契りを結ぶには、太陽神様からその資格があると認めてもらわなければいけません。そのために、今から模擬戦で私の全力を認めてもらいます」

「いや、そんなことしなくても俺はソレーユが強いって思ってるぞ」

「え……」

 鬼気迫る表情で剣を両手に構えたソレーユだったが、拍子抜けだったのか思わず固まる。

「あれは相性の問題だろ。そもそも、ソレーユが情報を集めてくれてなけりゃ俺も負けてたかもだし」

「ですが、私は……」

 活躍しようと先走り、結果的に返り討ちにあって醜態をさらした。

「自分で言うのもなんだけど、俺のために頑張ってくれたんだろ。そんなやつを信頼しないわけない」

 自分のため、というのは少し恥ずかしいが紛れもない事実だ。
 その姿は、ミツキから信頼を得るには十分だった。

「ありがとな。助かったよ」

「…………」

 しばらく固まっていたソレーユはやがて、大粒の涙を両目からこぼす。

「え、なんか俺やらかしたか?」

「いえ、いえ……嬉しいんです」

 しばらく泣いていたが、すぐに落ち着いたようで表情が戻る。

「で、契りってどうやるんだ?」

「簡単ですよ。私を燃やしてください」

「燃やすの? 俺が?」

「はい。心配しなくても怪我はしません」 

 言われるがまま、ソレーユに右手を向けて炎を出す。

「いくぞ?」

「はい」

 膝をつき、祈るようなポーズをとったソレーユに向けてその炎を放った。
 すると、一見燃えているように見えていたソレーユだったが、炎はやがて吸収されるようにその体の中へと消えていった。

「おお……」

「これで私とミツキ様は繋がりました。ミツキ様……改めて、不出来な信者ですがこの命尽きるまで貴方に付き従うと誓います」

「ああ、こっちからよろしく頼むよ」

「ふふ、はい」

 憧れ、信じ続けた神に認められたいという重圧から開放されたソレーユは、初めて屈託のない笑顔を見せた。

「早速模擬戦といきましょう」

「傷治ってないだろ」

「気分的には治っていますので」

「体がダメなんだよ!」

「んう……そうですか」

 しょんぼりと肩を落とすソレーユを見ていると、くすりと笑えてくる。

「今日はきっちり休んで、明日から特訓といこう。俺も疲れたしな」

「ミツキ様がそう言うのでしたら……わかりました」

 2人はその日、一日を傷や疲れを癒すための休養に当て、翌日からの特訓に向けて体を休めた。

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