人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

交代

(あの時確かに……もう一度)

 初見の敵、それもかなりの実力者相手にソレーユが選んだのは、先手必勝。
 防御する暇も与えないほど高速で1歩距離を詰め、首を落とさんと剣を振った、
 剣は吸い込まれるように首に向かい、いつものように切断

「やる気ねぇ。あたしも嬉しいわぁ」

 していなかった。
 剣は首に触れた瞬間にピタリと止まり、いくら力を入れても傷一つ付けられない。
 仕方なく1度下がり、一旦距離を取る。

「攻撃もいいけど、まずは自己紹介しましょうか。あたしはレビア。魔王軍の幹部よぉ」

「名乗る必要などありません」

「それは残念ねぇ。今から死ぬ子の名前も聞けないなんて」

 レビアは残念そうに肩をすくめると、一瞬で距離を詰め、岩のような拳を突き出した。

「意外と早いですね」

 ガタイの良さからは想像できないほど俊敏な動きだ。
 避けるのは諦め、後ろに受け流すことで回避する。
 足さばきで今の速度を出しているのだろうが、もしそうなら体術に関してはソレーユの何倍も上だろう。
 剣の通じない体に強力な体術、幹部の名は飾りではないと、警戒レベルを引き上げる。

「上手いわね。でも、守ってばかりじゃダメよぉ?」

「知ってます。炎舞《乱炎らんえん》」

 剣が効かないならば、魔法を使うまでた。
 まずは様子見のために、剣に炎を纏わせ剣を振ることで炎を飛ばす。
 炎は拡散し、いくつもの炎の塊となってシビアとその周りの魔族へ直撃する。

「……なるほど」

「何かわかったような顔をしてるわね?」

 触れた部分は焼け、灰となる高温の炎を見に浴びたシビアは周りでのたうち回る魔族とは違い、無傷だ。

「面倒だとわかりました。変な体をしているようですね。変体」

「不名誉な呼び方ね、躾がなってないみたい」

「貴方に相応しい呼び方です。来なさい」

「いいわ、周りの子はみんな手出し厳禁よ。私がやるわ」

 仲間に手出し無用の指示を出し、正面から突っ込んでくる。

「ふっ!」

「効かないのよぉ!」

 炎を纏わせ剣を振るも、シビアは意に介さず突き進んで来る。
 迷わず放たれるその拳は、避けても風圧で髪が乱れ、当たればどうなるか想像したくもない。
 それでも下がらず、攻撃は中断しない。

「あら、下がらないの?」

「当たる気はしませんから」

「言ってくれるじゃない」

 この距離で戦うのは確かに危険だが、ソレーユはそれでもシビアの頭の先端から足先まで、全身に攻撃を続ける。
 そして、

「っと」

「避けましたね」

 剣を目に向けて突き出した時、シビアは露骨に避けた。
 いくら剣も魔法も通じない体でも、弱点は存在するはず。
 そう考えての攻撃だったが、上手くいったようだ。

「ふーん、このためにあたしの距離で戦ってたわけね。少しはやるみたい」

「少しではありません。こうなれば、もう私の勝ちですので」

 狙う場所があるなら、勝機はある。
 これまで以上に剣の速度を上げたソレーユは、徹底してシビアの目を狙う。
 舞うような動きで繰り出される連撃に、シビアは防戦一方だ。

「くっ、なかなか、早いわねぇ」

「これ以上邪魔しないでください。早く先に行きたいんです」

「随分焦ってるみたいね。何かあるのかしら?」

「貴方には関係ありません」

 こう話している間にも、ソレーユの攻撃速度は上がっていく。
 そしてついに、シビアが体勢を崩した。
 この状態からの突きは、絶対に当たる。

「終わりです」

「ええ、そうみたいね。……貴女が」

 そう確信して放った突きは、シビアの目に当たる直前で止まった。

「っ……まさか」

「気付くのが遅かったわねぇ」

 既にシビアの拳は、カウンターとして完璧なタイミングで放たれていた。
 もはや避ける術はなく、ソレーユは攻撃後の無防備な状態でそれを受け、真後ろに吹き飛んだ。

「当たる瞬間、体を逸らして致命傷を避けたわね。だからこそ、残念だわ。ブラフも見抜けないなんて」

「ゲホッゲホッ、うっ」

 腹部の激痛に咳き込み、喉を上ってきた粘度の高い血をはき出す。
 肋骨が折れているのか、呼吸が苦しい。
 内蔵にも傷が入っているかもしれない。

(少し考えればわかったでしょう。ミツキ様に褒めてもらおうと、焦りましたか。合わせる顔もありませんね)

 いつもより少しだけ、気分が高揚していた。
 その少しは致命的なミスへと繋がり、こうしてソレーユを追い詰めている。

「ごめんなさいね。炎姫ちゃんが私に勝てないの、わかってたの」

 ゆっくりと申し訳なさそうな顔をしながら、シビアが歩いてくる。

(ここで諦めればいっそ……)

 一瞬、そんな考えが頭をよぎり……ソレーユは頭を地面に打ち付け、立ち上がった。

「頭がおかしくなったのかしら?」

「正常です。頭も、体も」

 痛みは消えない。
 それでも、こんな所で諦めてしまえば本当にミツキに顔を合わせられない。
 今やるべきは、目の前の敵を打ち倒すことだ。

「やる気になってるところ悪いけど……時間切れみたいよ」

「時間切れ? っ!?」

 よくわからない発言に気を取られていると、突然足元から無数の鋭い骨が突き出す。
 咄嗟に両手の剣で受け流したが、傷のせいか技の鮮明さはなくなっており、所々かすって血が滴る。

「仕留めきれてないのか」

「言っておくけど、手は抜いてないわよ。炎姫ちゃんが強いだけ」

「知っている。だから貴様に頼んだんだ」

 この攻撃をした人物、幹部のゴルドが魔国軍の奥からやって来た。

「久しぶりだな、炎姫」

「臆病者の骨グモが、今更登場ですか」

「俺は骨は使うがクモではない。よくそんな口が叩けるものだな」

 ソレーユの状態を見たゴルドの声音には、若干驚きの色を混じっている。

「かなりダメージは与えたようだが、まだ動けるのか」

「普通なら立てないわよぉ。ねぇ、ゴルドちゃん。この子今殺すのは惜しいわよ。生かしちゃダメ?」

「私情を挟むな。敵だぞ」

「それはゴルドちゃん達の、でしょう」

「歯向かう気か?」

 共通の敵であるはずのソレーユを無視し、ゴルドとシビアが睨み合う。

「敵を前にして仲間割れですか」

「ちっ!」

 そうして2人が一瞬目を離した隙に、ソレーユは炎を纏わせた剣を振る。
 標的をゴルドに絞ったが、後ろに下がることで回避された。

「骨は折ったはずはのに、まだ足りないみたいね」

「死に損ないが、先にこいつをやるぞ」

「仕方ないわねぇ。炎姫ちゃん、恨まないで死んでちょうだい」

 左からゴルドが鋭い骨を無数に突き出し、右からシビアの重い拳が放たれる。
 幹部に対して2対1、それも既に重傷を負ってしまっている。

「こんな状況でもミツキ様なら……いえ、私がやるんです。《幻楼げんろう》」

 こうしていれば、などと後悔するのは一旦やめる。
 まずは目の前の状況に対応してようと、陽炎で歪ませた剣を振り、骨と拳を受け流す。
 その後も攻撃は絶え間なく続くが、1度もソレーユに当たることなく、それどころか反撃させ始めている。

「おい、おい、おい、瀕死じゃねぇのかよ!」

「すごいわぁ。まるで別人ね」

 イラついたように声を荒らげるゴルドと、感嘆の声を漏らすシビア。
 特にゴルドは、反撃を受けないためにかなり後退している。
 代わりに、シビアがほぼゼロ距離まで詰めることでソレーユの動きを制限してくる。

「ゴルドちゃんは頼りにならないし、あたしがやらないとね」

「随分接近してきますけど、ここなら私でも当たりますよ」

「剣は当たっても無駄……っ!」

 今更攻撃を当てても意味が無いとわかっているはずなのに、とシビアが疑問に思っていると、剣を地面に刺して体を浮かせたソレーユの上段蹴りが繰り出された。
 当たっても大したダメージにはならないはずだが、反射的に蹴りを左腕で防いでしまった。

「今の、ブラフじゃありませんね」

「今更遅いわよ?」

「死ね、炎姫!」

 後方から、これまでで最大規模のゴルドの骨魔法が放たれる。

(もし私の考えが正しいなら、この魔法もオカマには効きませんよね)

 大量の骨の攻撃を弾き、受け流して捌いていると、案の定シビアが魔法に巻き込まれながらも無傷で拳を繰り出してくる。

「それも予想通、んっ!?」

 迫る拳を受け流そうと剣を振った瞬間、腹部の傷から今になって激痛が走る。
 そのせいで受け流し損ねた拳は、ソレーユの右肩にミシミシと嫌な音を立てて直撃した。

(しくじりましたか。けど、まだ)

 痛みを堪えて立ち上がると、目の前にシビアの拳が迫っていた。
 避けようも辺りを見れば、既にゴルドが逃げ道を塞ぐようにして鋭い骨を地面から突き出させている。

「詰みってやつねぇ。名残惜しいけどさよならよ」

 ソレーユ自身もわかるほど、この状況は終わっていた。
 ならばせめて、少しでも抵抗しようと動く左腕を振ろうとした直後のことだ。

「韋駄天!」

 強風が吹いたと思えば、いつの間にかソレーユの体は2本の腕に抱かれ、シビアから離れていた。

「うっし、ギリギリセーフ。おいミツキ!」

「わかってるよ。炎武《火灼熱扇かしゃくねっせん》!」

 後方から放たれた炎は、扇のように広がり魔国軍とシビアを巻き込む。

「あらあら、お仲間のご登場みたいねぇ?」

「お前の炎効いてないぞ」

「挨拶代わりだからいいんだよ。よし、やるぞ」

「おうよ」

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