人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

挨拶代わり

「そろそろ着く頃か?」

「あともう少しだな。着いてもお前は縛られたままだけど」

「この拘束にも慣れてくるもんよ。ミツキが近くにいる時は、外してくれてもいいんじゃないか?」

「さすがに無理だろ」

「だよなぁ」

 フレーリアから出てしばらくの間、ミツキはヨハンからずっと話を聞いていた。
 元々話術が上手いようで、話の内容も豊富で飽きがこない。

「……なぁ、少し聞きてぇんだけどさ?」

「ん?」

「お前らはなんで俺たちの……」

「ミツキーーーーーーー!!!」

 ヨハンの言葉は、馬車の後方から聞こえてきたソフィアの大声にかき消された。

「ソフィア!? 止めてくれ!」

 馬車を止めてもらい、魔法で追いついたらしいソフィアに降りて話を聞く。

「どうしたんだ」

「私たちの馬車を、いきなり変な兵士が襲ってきてメリアが戦ってるの。すごく強くて、ミツキじゃないと勝てないんだよ!」

「お前とメリアで勝てないって……いや、わかった。すぐ行こう」

「うん。私が運ぶから、捕まって」

「ああ。頼む。サクレットさん」

「わかっている。行ってくるといい」

「ああ!」

「急ぐよー!」

 ソフィアの肩に手を置き、足元に魔法陣が浮かび上がったかと思うと、視界が一瞬で後方は流れていった。

(メリア……無事でいてくれ)

 仲間の無事を願いながら、ミツキは焦る心を落ち着かせる。

「……なるほどねぇ。隊長さん、ちょっとごめんよ」

「なっ!?」

 その様子をじっと見ていたヨハンは、隠し持っていたナイフで手足を縛っている鎖を切断すると、サクレットに一言残してミツキたちの後を追う。

「韋駄天」

「ぐっ、待て!」

 サクレットも追おうとするが、風を足に纏ったヨハンの背中はすぐに見えなくなり、止めることはできなかった。

 * * *

 何時間経っただろう。
 もう何度斬られたかわからない。
 動きは見えているはずなのに全く防げず、傷をつけるどころかまともに受けさせる事も出来ていない。

「はぁ……はぁ……っ!?」

「本当に、不死なのか」

 また右腕を斬られたが、すぐに触手が伸びて再生する。
 だがこの再生も無限ではなく、行う度に体力を使うため限界が近い。

「だが、限界は、あるようだ」

「巫流」

「見飽きた」

 刀を構えた瞬間に再び斬られ、技を出すことさえできない。

(目が慣れると思ったけど……私の限界の方が早い。情けないわね)

 ここまで自分の無力を感じたことは初めてで、思わずうつむきそうになる顔を無理矢理上げる。

「化け物ね」

「俺は、人間だ」

 会話に応じる気もないようで、白が地面を蹴って首を切り落とさんと迫る。

「あと、もう少しのはずよね。なら……魔眼全開!」

 切り札をきるとすれば今しかない。
 普段はセーブしている魔眼の力を完全に引き出し、輝きを増した瞳で白の攻撃を見定める。
 振られる剣に刀を添わせ、完璧な力加減で初めて攻撃を受け流した。

「ほう」

「せめて一太刀!」

 再び振られた剣を、またもや受け流したところで技の構えに入る。
 使うは、巫流の技の中で最速の突き技。

「巫流《水束穿すいそくせん》!」

 当たる。
 これまでの暗殺者と剣士としての勘が、この攻撃が必中のものであると告げている。
 刀の切っ先は、白の胸に吸い込まれるように突き出され、

瞬光しゅんこう

 貫いたと思った白の姿は、残像となり霧散した。

「そん、な……」

 自らの腹部を見ると、いつの間に斬られていたのか、深い傷が触手によって修復されている最中だった。

「面白かったが、もう終わりだ。再生も追いつかないほど、斬る」

(もう、体力が……)

 魔眼も限界で普通の瞳に戻ってしまっており、動く気力さえも残っていない。
 立ち上がることはできるかもしれないが、それが許されるほど目の前の相手は甘くない。
 再生できないほど斬るということも、白ならば可能だろう。

「悪いな」

 殺す相手への言葉とは思えないその台詞に違和感を覚えたが、振り下ろされた剣を見て思わず目を閉じる。

(ごめんね、ミツキ、ソフィア)

 心の中で大切な2人に謝り、死を受けいれたその時だった。

「ふざっっっけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 遠くからそんな怒号が聞こえ、どんどん近づいてくると、凄まじい勢いのミツキが白に飛び蹴りを繰り出す。
 咄嗟に後ろに飛び退いた白は避けることはできたものの、メリアへの攻撃を中断せざるを得なかった。

「お前は、なんだ」

「人の仲間を斬りやがって、覚悟は出来てるんだよな。灰にしてやるよ!」

 既に第一権能は解放しており、燃え盛る炎が大剣に宿っている。

「ミツキ……」

「メリア、ありがとう。あとはそこで見ててくれ」

「うん。頑張りなさいよ」

「おう」

 なんてタイミングで来るのかと、泣きそうになりながらも頼もしい背中へエールを送る。

「メリアー!」

「ソフィア。間に合わせてくれたのね」

「もちろんだよ。それより、怪我は?」

「私は不死よ。問題ないわ」

 体力が著しく低下しているが、どうにか立ち上がりながら無事をアピールする。

「そっか、よかった。じゃあ私はミツキを援護するね」

「いや、できれば俺から離れてくれ。あいつは周りを気にして勝てるような相手じゃない。2人を巻き込む可能性がある」

「ん、わかった。負けないでね」

「当然」

 ソフィアとメリアは、それぞれ魔力と体力を消耗しており、足でまといになることがわかっている。
 だからこそ、素直にミツキから離れるよう移動を始めた。

「お前強いよな。何者だ」

「精霊国家ウナアーダ、色の騎士、白」

 向かい合ったからからこそわかる相手の強さに驚いたが、その名前を聞いて納得する。

「白……よりにもよって英雄か。ソレル王国戦士団のミツキだ」

「そうか」

 名乗っても白は興味なさげに反応するだけで、すぐに地面を蹴って剣を振る。
 相手が誰だろうと関係ない。
 ただ殺し、命令を遂行するだけだ。

「それだけかよ」

「相手など、関係ない。名乗りは義務だ」

 恐ろしい速さで踏み込み、振り下ろされる剣は、しかし反撃で振り上げられたミツキの大剣と衝突し、受け流しきれずに数歩たたらをふむ。

「う、おらァッ!」

「なに」

 腰を落とし横薙ぎに振られた大剣は、白に受け流す暇も与えず大きく吹き飛ばした。
 ただし、直前で自分から後ろに飛んだのだろう。
 白は綺麗に着地すると、初めてミツキと目を合わせた。

「面白い」

「面白いだと? 勝手にメリアとソフィアを襲って、怪我までさせて……ふざけんなよ!」

 ミツキはその場で地面が砕けるほど強く踏み込み、上段に構えた大剣を振り下ろす、
 怒りを力に変え、勢いを増した炎を感情任せて叩きつける。

「炎武《炎天えんてん

 炎天は攻撃ではなく、炎を収束させて次の攻撃の火力を上げるための技だ。

烈火れっか》!」

 振り下ろされた大剣から放たれる炎は、地面を這って白へと一直線に向かう。

「この剣では、無理か」

 受け流しを試みようとした白だが、すぐに諦めて横に避ける。
 すぐ隣を通過した炎は、当たってないにも関わらず白の着ている鎧を若干溶かすと、遥か後方の山に直撃し、深い亀裂を入れた。

「凄まじい火力だ」

 ちらりとその光景を見た白は、剣を握る力を少し強める。

「俺の名前を覚えとけよ、英雄」

 挨拶代わりの一撃を放ったミツキは、白に大剣の切っ先を向けて宣言する。

「今日から俺の肩書きは、英雄殺しだ」

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