人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

模擬戦

「お前強いな! 名前なんて言うんだ?」

「さっき何したんだよ!」

「すごく速かったけど、魔法使ったの?」

 模擬戦で目立ったミツキは、生徒たちから質問責めを受けていた。

「ありがとう。名前はミツキ、魔法は使ってないけど、しっかり踏み込んで斬っただけだよ」

 褒められまくるという状況に照れながらも、今の模擬戦でやったことを説明する。

「踏み込んだだけって、あんなの見た事ないわ」

「すげーな。こりゃメリアより強いんじゃないか?」

「聞き捨てならないわね!」

 男子生徒の言葉に反応し、今まで静かだったメリアが反応する。

「ミツキ、次は私とやるわよ! 先生、いいですよね?」

「他のやつらがいいなら構わんぞ」

「よし。ほら、さっさと来なさい!」

「いや、順番があるんだろ? みんなもやりたいだろうし」

 と言って周りを見るが、生徒たちはメリアとミツキの模擬戦を見たいらしく、誰も文句を言わない。

「マジかぁ」

「マジよ。準備はいいわね?」

「やるからには負けないからな」

「ふん、実力差を教えてやるわ!」

 諦めて闘技場の中心に向かい、剣とナイフをそれぞれ構える。

「じゃあやるぞ。始め!」

「はぁッ!」

「猪かよ!」

 今回はミツキは様子を見るつもりなのか動かず、メリアは先程と同じく開始と同時に地を蹴る。
 接近されることを防ごうとしないミツキは、勢いを乗せて振り下ろされたナイフを、剣を振り上げて弾く。

「誰が猪よ! そんなこと言うやつは死になさい!」

「殺すのはなしだっての!」

 体幹をかなり鍛えているのか、弾かれても体勢を崩さなかったメリアは、再び接近してナイフを振る。
 今度は近すぎて剣は振れないため、正面から受け止めて押し合う形となる。

「ほんと強いわね。何者?」

「ただの新入生、そう言ってんだろ!」

 ギリギリとそんなやり取りをしながら押し合っているが、筋力ではミツキに分があるようで優勢になっていく。

「あっそ。私と同じかと思ったけど、残念ね」

「同じってなんだ?」

「さあ、ね!」

 このままでは押し負けると察したメリアが体を横に向け、剣を受け流す。
 そうして肉薄するほど接近したところで、腰の2本目のナイフを左手に持ち、一気に攻勢に出た。

「ほら、私のリーチよ!」

「それはどうかな!」

 上下左右から繰り出されるナイフの連撃を、剣の刀身を握り、柄と切っ先で弾いていく。
 メリアは速度を上げてフェイントも混ぜるが、一向にミツキを崩せない。

「刃を持つなんて実際は無理でしょ! 卑怯よ!」

「機転が利くと言え」

「このっ、くらいなさい!」

 何度攻撃しても防がる状況を打破しようと、メリアが上段回し蹴りを繰り出す。

(チャンス! これを防いで一気に……)

 大振りのこの攻撃を左腕で防ぎ、反撃で終わり。
 その頭の中のイメージは、視界が大きく揺れると共に消し飛ばされた。

「嘘だろ!?」

「私の勝ち!」

 腕でしっかり受けたにも関わらず、衝撃で体がグラつく。
 予想外の事態に頭が混乱する中、メリアのナイフが首筋に当てられ、決着となった。

「ふふん、まだまだね!」

「くっそ、まさか負けるとは……」

 胸を張って誇るメリアに、何も言い返すことができない。

(ナイフの使い方もそうだが、あの蹴りは人間業じゃないだろ)

 最後に受けた蹴り。
 あれは明らかに今までの動きとは違っていた。

「あんた、それが本当の得物じゃないでしょ」

「お互い様だろ?」

「ふん。まあね」

 ミツキに手を差し伸べて起こしながら、周りには聞こえない小声で話しかけてくる。
 この模擬戦、2人とも本気でやっておらず、それは互いにわかっていた。

「メリア、お前は……」

「2人ともすごい!」

「途中のやり取りとか見えなかったよ!」

 詳しく話そうと思ったところで、見ていた生徒たちが駆け寄ってきた。
 口々に褒めてくれているが、今はそれよりもメリアが気になった。

 結局この日はそれ以降メリアと接することはなく、授業は終わりを迎えた。

 * * *

「ただいまー」

「おかえり!」

 部屋に戻ると、エプロンを着たソフィアが料理をしながら出迎えてくれた。

「夜ご飯?」

「うん。料理は得意だからね。ミツキの分もあるよ!」

「おお、嬉しいな。ありがとう」

「えへへ。ちょっと待っててね」

 部屋の中のテーブルでしばらく待っていると、ソフィアが料理を持ってくる。

「できたよ〜」

「運ぶの手伝うか?」

「ううん、大丈夫!」

 テーブルに美味しそうな料理が並び、2人は手を合わせて食べ始める。

「あ、そうだ。ソフィアはメリアって生徒知ってるか?」

「うん、知ってるよ。近接戦闘がすごく上手いって有名だし、模擬戦をしたこともあるから。それがどうかしたの?」

「今日模擬戦で負けてな。聞きたいことがあるんだけど、どの部屋かわかるか?」

「ミツキが負けるなんて本当に強いんだね。残念だけど、メリアは寮じゃないよ」

「じゃあフレーリアのどこかか。知ってるやつがいればいいんだけどな」

「うーん、どうだろう。有名だけど、詳しいことを知ってる人はいないんだよね」

「なるほどねぇ」

 気になる言葉が多かったため話がしたかったが、難しそうだ。

「学園で合うのが1番可能際が高いか」

「そうだね。それよりほら、このお肉上手く焼けたんだよ!」

「お、ほんとだ。美味しいな」

 メリアを探すのは諦め、ソフィアと2人で料理を食べる。
 二人暮らしについての疑問は、この時ミツキの脳から綺麗に忘れられていた。

 * * *

「レオさんが捕まった」

「らしいな。さっき牢獄で会ったぞ」

「元気そうだったな。怒ってたけど」

 人の少ない真夜中の宿屋の食堂。
 そこで男性3人がテーブルを囲んで話していた。
 彼らはミツキが捕まえた傭兵レオの部下で、たまたま別行動していた時に、レオが捕まったので面会に行っていた。

「でも信じられないな。レオさんがやられるなんて」

「本人は油断したって言ってたけど、それでも簡単にやられる人じゃないだろ」

「ミツキだったか。あとソフィアって女も殺せって言われたが……どうする?」

「どうするもこうするも、やるしかないだろ」

「だが、3人でやれるか?」

 曲がりなりにも、敵は“武器いらず”とまで言われたレオを倒した相手だ。
 3人では多少不安が残るというもの。

「安心しろ。助っ人を用意した。入ってくれ」

 男の1人もそれは見越していたようで、助っ人を雇っていた。
 入ってきたのは、鬼の面をつけた不気味な人間だ。

「そいつは?」

「暗殺者だ。殺しにはうってつけだろ」

「それはいい。腕は信用できるのか?」

「そうだな、俺たち3人が一斉にかかっても、多分勝てないだろうよ」

「本当か?」

「はい。楽に殺せます」

 少女の答えは短いが即答だ。

「自信はあるみたいだな」

「名前はなんて呼べばいいんだ?」

「私の名は“首断くびたち”。そう呼んでもらえれば」

「物騒な名前だな。まあいい。標的の情報は伝える。絶対に殺せ」

「お任せ下さい」

 首断は、感情を感じさせない声音で淡々と答えた。

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