人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

武器いらず

「ソフィアを離して謝るなら、痛い目には合わなくて済むぞ」

「ああ? まさかお前、そいつらを倒したぐらいで俺も倒せると思ってんのか?」

「思ってる。1度殴り倒してるしな」

「あんな偶然を倒してるだと? 笑わせてくれるじゃねえか」

 殴られた時は周りの目もあり、本気で殴りかかってはいない。
 今回はそんなことを気にする必要も無いため、剣を引き抜き構える。

「ソフィア、少し待っててくれ」

「俺の所有物に、気安く話しかけんな!!」

 こちらを見ているソフィアを安心するように笑いかけると、レオが剣を抜き斬りかかってくる。
 さすが名の知れた傭兵と言うべきか、怒りに任せた攻撃に思いつつも、速度威力どちらも申し分ない。
 ただしそれは、魔物やただの人間相手の話だが。

「ソフィアはものじゃねえよ!」

 斜めに振り下ろされる剣を、大剣を振り上げて迎え撃つ。
 体格差はあるが、剣と大剣で質量が違う。
 互いに弾かれるか、とこの後の行動をレオが考えているとーーバキィンッ!

「なんだとっ!?」

 剣が砕け、破片が飛び散る。
 慌てて転がるように横に回避し、大剣はなんとか避けたが剣はもう使い物にならない。
 先程の人攫いの剣やナイフもそうだが、普通の武器が神器とまともに打ち合えば、砕けるのは必然だ。

「そんななまくらしまっとけ」

「武器破壊の魔法……じゃないか。武器だけ立派で威張りやがって」

 見下ろすミツキに柄だけになった剣をなげつけ、立ち上がる。
 柄は簡単に避けられ、予備の武器もないため素手で戦うしかない。
 だというのにレオの顔には、余裕が浮かんでいた。

「俺は傭兵たちに“武器いらず”と呼ばれていてな。何故かわかるか?」

「どうでもいい」

「それはな、俺の強化魔法があればこの全身が防具に、拳が武器となるからだ。筋肉強化」

 返答に関係なく勝手に喋るレオの体が、ミチミチと音を立てながら膨張していく。
 腕や足は大木のように太く、腹筋や胸筋は鋼鉄のように厚く硬くなる。
 強化魔法は身体能力や五感など幅広い種類があるが、レオのは筋肉を強化させるパワー系らしい。

「ふん、どうだ。怯えて声も出ないか?」

「肉だるま」

「っ、死ねクソガキ!」

 思った言葉を素直に口にすると、それがカンに障ったようで、巨大な拳を振り下ろす。
 これは大剣では受けず、バックステップで避けると、ミツキが立っていた地面に大きなヒビが入った。

「自慢の大剣も、使うのがお前じゃ潰されちまうか!」

「今のは確認だ。あと、これは使わない」

 手に持った大剣を鞘に収め、足元に置く。
 代わりに両拳にナックルダスターを装備し、正面から肉弾戦をする意志を見せる。

「面白れえ。殴り合いで俺に勝てるかよ!」

 自分の土俵である勝負に勝ちを確信し、笑って地を蹴る。
 その勢いを乗せたまま、体重を乗せた全力のレオの右拳が、真っ直ぐミツキへ突き出された。

「勝てるんだよ」

 眼前に迫る拳を避けるような素振りは見せず、腰を落とし、地面を踏み締め右拳をぶつけるように突き出す。
 両者の拳は激突しーーミツキの拳がレオの拳を打ち抜いた。

「が、あああああッ!?」

 レオの拳は凹んでおり、指と手首の骨が折れている。

「まだまだ!」

 ミツキが追撃体勢に入ったため腹筋を固めて防御しようとするが、そんなものお構いなしに左アッパーが突き刺さった。

「ごほッ!?」

 よろよろと数歩下がり、腹部と拳の痛みに悶えて膝をつく。

「お前がソフィアにしたことは、これぐらいじゃないだろ」

 本当なら怒りをぶつけて何度も殴りたいが、それはミツキのやる事ではない。
 だから、あと一撃で終わりだ。

「な、なんで奴隷ごときに……」

「俺が正しいと思ったからだ」

 ちょうどよい高さまで下がったレオの顔面へ、死なないように手加減しながら、最大限の力で拳を叩き込む。
 目を見開き避けるのも間に合わなかったレオは、盛大に鼻血を出しながら大きく吹き飛ばされた。

「うしっ。ソフィア、大丈夫か?」

「んん、ミツキ、どうして?」

 口のテープを剥がされ、喋れるようになったソフィアの口から出たのは、疑問の言葉だった。
 奴隷で物でしかない自分に、どうしてここまでしてくれるのか。
 ソフィアにはそれが理解できない。

「言ったろ。俺はこれが正しいと思ったんだ。迷惑だったか?」

「ううん……すごく、すごく嬉しいっ!」

 初めて人として扱ってもらえた。
 思わず涙が溢れ、ガバッとミツキに抱きつく。

「おっ!?」

「ありがと……ありがと」

 ギュッと抱きしめる手に力を込めると、その温もりを全身で感じる。
 ミツキも最初は驚いたが、微笑んで抱き返し、その頭を優しく撫でる。

「まだ終わってないぞ。ここから、行くところがあるからな」

 人攫いの2人とレオを、ソフィアを縛っていた縄で縛り、引っ張りながら次の目的のために城郭都市へと向かった。

 * * *

「ここか」

「うん、そうだよ」

 ミツキはソフィアから奴隷商人の居場所を聞き、2人でやって来た。
 人攫い2人とレオは、門番をしていた衛兵に引き渡した。
 ここに来た目的は、ソフィアを引き取るためだ。

「すみません」

 それなりに大きな建物扉を開け、中に入る。
 中に居たのは、いかにもガラの悪そうな男性3人だ。

「いらっしゃ、ソフィア? 学園はどうした」

「久しぶり、ジャックさん。今日なお休みなの」

「そうだったか。その男は?」

「初めまして、ミツキと言います」

 自己紹介をするミツキの態度は……少し敵意が含まれている。
 それもそのはずで、ミツキはこんな年端も行かない少女を奴隷にした商人を、会う前から嫌悪していた。
 それを敏感に察知した男2人が、それぞれ腰の得物に手をかける。

「客だぞ、手は出すな」

 それをジャックと呼ばれた男が手で制する。
 仕切っているのはこの男のようだ。

「それで、旦那。なんの用で?」

「ソフィアを引き取りたいんです」

「ほう、その少女を買いたいと。ですが、その少女は優秀でね。お高いですよ?」

「買うんじゃなくて、引き取る。あいにく金はないので、これでどうですか?」

 そう言って差し出すのは、神器である大剣だ。
 鞘から抜いてみせ、その刀身を見たジャックは目を丸くする。

「素晴らしい大剣だ。これほどのものを、奴隷を買うために手放すというので?」

「それでも安いくらいです。人を引き取るのに、お金はどれだけ積んでも足りない」

「ほう……ほうほう、なるほど。ソフィア、お前はどう思う?」

「ミツキは優しいよ。さっきも、攫われた私を助けてくれたの」

「なるほどなるほ……攫われた!?」

「レオって傭兵に依頼されたらしくて、街の外に攫われてましたよ。助けましたけど」

「あの傭兵か。そりゃ申し訳ないことをしやした。おいソフィア、なんでもっと早く言わなかった!」

「だ、だって、言ったら迷惑をかけちゃうし」

「お前は大事な商品だぞ。ったく」

 ジャックがソフィアを怒鳴りつけているが、その様子にミツキは違和感を感じる。
 あれは怒りだけでなく、別の感情もあるような……それに、黒いモヤも見えない。

「なんにせよ、それなら安心です。旦那、ソフィアを引き取りたいんでしたね」

「ん、ああ。お願いします」

「よし、そうと決まればお前ら、準備しろ。回復魔法も薬も制限しない。万全の状態まで治せ」

「「はい!」」

 指示された男2人は、ソフィアを連れて建物の外へと出ていった。

「さて、旦那。ちょいとお話が」

「話?」

 ジャックに言われるがまま、用意されたテーブルに座る。

「まずはソフィアを助けてくれたこと、本当にありがとうございます!」

「え、いや、頭を上げてください!」

 テーブルに打ち付けるほど深く頭を下げたジャックを見て、慌てて頭を上げてもらう。

「ジャックさんは奴隷商人……なんですよね?」

「そうですが、ソフィアは違う。あの子はあっしらが帝国に行ってた時に、保護したんです」

「保護? 奴隷じゃないんですか?」

「元々は帝国で奴隷商人をやっていたんですがね。王国に来ようと思ったところでソフィアを見つけたんです。誰かに追われているようだったので、奴隷として秘密裏に保護しました」

「もしかして、あのレオって傭兵に売らなかったのも」

「ソフィアは奴隷じゃなく、娘のような存在。あんな男には渡せない。周りにバレないよう、奴隷であることを強調して接してしまって苦しい思いをさせた」

「どうしてそんなことを……」

「どうして? 旦那もあっしと同じ理由でしょう。そうするべきだと思ったからですよ」

 その言葉を聞いたミツキは、己の中にあった偏見を猛省する。
 ウールから偏見を持つなと言われていたのにこれだ。

「ジャックさん、すみませんでした!」

「なんで旦那が謝るんです!?」

「俺はジャックさんのことを、偏見で悪人だと決めつけていました。最低だ」

「いやいや、この職業は悪人だと思われて当然ですからね。だからこそ、あっしはこれで足を洗います」

 今度はミツキがテーブルに打ち付けるほど頭を下げる。
 しかし、ジャックはそれを気に止める様子もなく、金の代わりとして渡された大剣を指さす。

「あれは返します。あっしらには過ぎたものなんで」

「え、でも」

「買うんじゃなくて引き取るんなら、金を貰うのはおかしな話でしょう」

「ジャックさん……」

「と、まあここまではいいんです。本題はこれからなんですがね」

「というと?」

 和やかな雰囲気が流れたのもつかの間、ジャックが真剣な表情で話を変える。

「ソフィアが追われていたというのは言いましたが、当の本人はその記憶がないですよ」

「記憶がないなんてことがあるんですか」

「あっしらも不思議に思ったんですが、どうやら強いトラウマになっているらしく、思い出そうとすると頭痛がするらしいんです」

「トラウマ……帝国ではその時、何が起きてたんですか」

 思い出せないほどのトラウマになる出来事だ。
 何か手がかりはないかと、その時期に帝国で起きたことを尋ねる。

「帝国ではその頃ちょうど、魔女狩りが行われていました」

 帝国ーー正式名称シルド帝国。
 ソレル王国から海を隔てた隣の大陸にあるこの国は、この世界で最も大きな大国だ。
 特に軍事力は非常に高く、国力を強化するためなら非常な手段も厭わない、黒い噂の絶えない国だ。

「魔女狩りって、つまりソフィアは」

「ええ。多分、魔女かと」

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