人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

鍛冶神と義神

 ミツキが鍛え始めて、早くも1年が経過した。

「ふーん、少しはマシになったわね」

「はあ、はあ、おかげさまで」

 汗を水で流し、乱れた呼吸を整えて少しでも体力を回復させる。
 この1年間、ミツキは神の力の使い方を少しだけ教えられると、あとはひたすらヘルミーネとの模擬戦を繰り返した。

 半人半神となると睡眠も食事もほとんど必要ないため鍛えてばかりで、人間ではありえないペースで上達している。

「ヘル姉さんは、本気を100だとすると今どれくらい?」

「20ぐらいね」

「うそぉ」

 最初はヘルミーネにどう接するべきか考えていたが、かなりくだけた性格をしており、簡単に打ち解けることができた。

「ふう……よし、ばっちこい」

「ばっちこないわよ。今日はもう終わり」

「まだ5時間ぐらいしかやってないけど」

「今日は用事があるの。そうね……あんたは天界を見学でもしてなさい」

 手にしていた模擬戦用の剣を元あった場所に立てかけながら、ヘルミーネは闘技場から去っていく。
 1人になり暇になったミツキは、とりあえず言われたとおり天界を探検することにする。

「そういえば、俺まだ天界のこと全然知らないな」

 天界で鍛えてばかりの日々を送っていたミツキは、闘技場と自分の部屋ぐらいしか知らない。
 この機に色々見て回ろうと、ウキウキしながら歩き回る。

「工房……か?」

 しばらく歩いて見つけたのは、中から熱気の溢れる工房だ。
 通りすがりの神に話しかけて教えてもらったが、ここは神の武器である神器を作っている場所らしい。
 神器と聞いてミツキは興奮し、早速ノックしてみるが、返事はない。

「留守かな」

 待っていても返事がなかったため、扉を開けて入ってみることにする。
 重厚な扉に手をかけ、力を込めて開けてみると、焼けるのではと錯覚するほどの熱がミツキの顔を叩く。

「すげえ……」

 そんな熱気よりもそれよりもミツキの心を奪ったのは、床に置かれたいくつものインゴットや武器、そして奥で槌を振る男性の姿だ。

「俺に用か?」

「あ、ごめんなさい。つい見入っちゃって」

 男性は槌を振る手を止め、滝のような汗を拭いながら振り返った。
 気が抜けていたミツキは、すぐに頭を下げて謝る。
 仕事中に突然工房に入られるなど、迷惑すぎる行為だ。

「見入る……そうか、そうかそうか!」

「へ? 痛い痛い!?」

 男性は立ち上がると、ミツキの隣に歩いてきて嬉しそうにばしばしと肩を叩く。

「いやー、俺の鍛治に見入るなんて、お前わかってんな! 名前は?」

「半人半神のミツキです。一年前に天界に来ました」

「半人半神? ああ、ウールのおやじがそんなことを言ってたな。俺はラウル、鍛治を司る神だ」

 ニカッと笑うラウルは、燃えるような赤髪と深紅の瞳が特徴的な男神だ。
 威厳のあるウールとは違い、接しやすい兄貴といった印象を受ける。

「ラウルさん、仕事を中断してしまったのに怒ってないんですか?」

「気にすんな。息抜きも必要だからな。それに、天界の連中ときたら神器をただの道具としか思ってねえ」

「そっか。ただの道具じゃなくて、ラウルさんが魂を込めた武器ですもんね」

「そうなんだよ。道具じゃなくて武器なんだ。やっぱりお前見所あるな!」

「ラウルさんみたいに詳しくないですけど、俺も武器とか好きですから。見てて興奮します」

 このような本格的な工房を目の前にして、興奮するなという方が無理だ。
 実際、今もミツキはチラチラと工房にある武器を見ている。

「気に入ったぞ! 今度からここに遊びに来い。歓迎するぞ」

「嬉しいんですけど、俺はヘル姉さんとの修行があるんで」

「ヘル姉さん? ヘルミーネのことか。あいつには俺から話しとく」

「ほんとですか!」

「おう、任せとけ。それとだな。あいつを姉さん呼びするなら、俺もラウル兄さんと呼べ。俺は兄貴でお前は弟、気軽に接してこい」

「わかった、ラウル兄さん!」

「おうよ」

 ヘルミーネと同様に、ラウルも自分を身内として扱ってくれることに嬉しさを感じつつ、言われたとおり呼び方を変え、敬語もやめる。
 突然接し方を変えるのは抵抗があるかと思ったが、ラウルの人柄もあってすぐに慣れそうだ。

 こうして楽しげに笑いながら、ミツキは鍛治神ラウルとの交友を深めた。

 * * *

「思ったより時間使ったな。今度から注意しないと」

 神器に興味津々だったミツキは、ラウルの話に聞き入り、思わず時間を忘れてしまっていた。
 早く戻ろうと歩くミツキだったが、

「これ迷ってね?」

 周りを見ても、見たことのない建物ばかりで現在地がわからない。
 広大な天界で歩き回ればこうなるのも必然だ。

「誰か探して道を聞くか」

 神を見つけて現在地を知れれば、簡単に戻ることは出来る。
 近くに誰かいないかと歩みを進めるが、誰も見つけられず目についた大きな建物に入る。

「誰かいませんかー」

 この建物は訓練所のような場所らしく、奥の広い空間で素振りをしている女性を見つける。

「あの」

「見慣れない顔ですね。何者ですか」

 声をかけると、女性は素振りをやめて振り向く。
 輝くような銀髪と金色の美しい瞳を見て、この人も女神なのだと確信した。

「一年前から天界でお世話になっている、半人半神のミツキです」

「ミツキ……ウール様とヘルミーネから聞いています。なんでも、天界で鍛えたいらしいですね」

「はい。簡単に死にたくないですから」

「変わり者ですね。太陽神の力を貰ったそうですし、そのまま下界に降りても無双出来るでしょうに」

「力だけじゃ意味がないんです。俺自身が、力に見合うだけの強さを持たないと」

「……なるほど。自己紹介が遅れました。私はティア、正義を司る女神です」

 柔らかく微笑んだ女神、ティアは剣を置いてミツキの元へと歩いてくる。

「ミツキ、強くなりたいと言いましたね?」

「はい」

「でしたら、私が鍛えるのに協力しましょう。どうせヘルミーネのことですから、模擬戦ばかりなのでしょう?」

「確かにここ一年、模擬戦しかしてないですね」

「やっぱり。いいですか、強くなるためには基礎が大切です。私が徹底的に基礎を鍛えましょう」

「え、いや俺はひとまずヘル姉さんのとこに」

「ほら、やりますよ。準備してください」

「わ、わかりました」

 結局勢いに押し切られ、ミツキはその日暗くなるまで、ティアと筋トレを中心とした基礎トレーニングをすることになった。

「はぁ、はぁ、きっつ……」

 ティアの鍛錬は、想像を絶してきつかった。
 量より質を意識した内容は、鍛えているはずのミツキが少ない回数で音を上げる
 それでも、やりすぎて壊れないように的確に調整されている。

「根性もありますし、強くなりたいという信念もある。いい素材です」

 地面に倒れるミツキを見て、ティアは楽しそうに微笑む。

「何してんかと思ったら、ティアのところにいるとはね」

 ミツキがどうにか立ち上がろうと体に力を入れていると、訓練所の入口から聞き慣れた声が聞こえた。

「ヘル姉さん」

「ヘルミーネ、よくここがわかりましたね」

「たまたまラウルと会ってね。ミツキのことを話してたから、近くを片っ端から探したのよ」

「すみません、貴方の教え子を勝手にとってしまって」

「気にしなくていいわ。鍛えてくれたんでしょ? でも、あんたが興味を持つなんて珍しいわね」

「私は努力する者は好きです。ミツキは努力してますから」

「ならあんたもミツキを鍛えてあげなさいよ。私一人で鍛えるより効果的だろうし」

「それは嬉しい申し入れです」

 その提案を聞いたティアは、パッと顔を明るくして喜ぶ。

「前々から、後輩育成というのをしてみたかったんです。私の技術も、伝えないと意味がありませんから」

「真面目ね〜。ミツキ、それでいいかしら?」

「いや、いいんだけどさ……マジで死なない程度で頼むよ?」

「大丈夫よ、多分」

「今多分って言ったな!」

「……ミツキ、相談があります」

 笑ってじゃれ合う2人を見て、ティアが少し羨ましそうに口を開く。

「ん、どうしました?」

「私も、ヘルミーネのように姉も呼んでください。接し方もそんなに畏まらずに」

「それは別にいいんだけど、天界では兄とか姉とか呼ばせるのが流行ってんの?」

「それだけあんたは気に入られてんのよ。弟みたいに可愛がりたい、ってこと」

「可愛がりたいって」

 理由を聞いたミツキは、2人から顔を背ける。

「ミツキ、どうしました?」

「いや、なんというか、照れる」

 病気で早くして死んでしまったミツキは、こうした好意を向けられた経験が少なかった。
 そのため、今の状況に照れてしまい上手く言葉が返せない。

「あっはっは、面白いわね。たっぷり可愛がってあげるから期待しなさい」

「ヘル姉さんの可愛がりは、絶対ろくな意味じゃないだろ!」

「ふふっ、賑やかになりましたね」

 ティアとラウル。
 2人の神と友好的な関係となり、ミツキの天界ライフは賑やかなものとなった。

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