深淵のアンセム

ケッキング祖父

目覚め

意識が覚醒するのを感じる。ひったくり犯に殺され、二度と目覚めることはないとおもっていたがどうやら間違いだったみたいだ。
目覚めの直前に考える。

目覚めた時、はどこにいるのだらうか。
一番可能性が高いのは病院だろう。仮にも腹を切られたわけだから、無事なわけもないだろうから。
もしくは自室か。そんなに実はそんなに深い傷は負っておらず、自宅での療養をしている、とか。
どちらにせよ事情聴取は確定だろう。面倒くさいな。

まあいい。このまま眠っていても意味がない。未来に起こる面倒事は、未来のに解決してもらえばいい。

そう思い、重い瞼を開くと、そこには霧がかった夜空が広がっていた。

…?

意味が分からない。普通目覚めて一番に目に入るものは天井じゃないのか。


地面がガクガクと上下に動く。がくん、と体が揺れ、未だはっきりとしない脳をシェイクする。たまらず上体を起こし、周りを見ると私はどうやら木造の乗り物の荷台にいるようだった。しかし、現代においてそんな乗り物が残っているのか。

「なんだここは…」

思わず呟く。するとすぐに乗り物が停止、しばらくして荷台に一人の男がやって来た。

男は痩せこけており、年齢ははっきりとは分からないが中年くらいだろうか。灰色のローブを身に纏い、後は杖があれば創作物でよくみる魔術師とそのまま同じ姿だっただろう。

「ようやっと目覚めたか。」

男はしわがれた、汚い声で僕に言った。

「ここはどこだ?お前は一体?」

私は座り込んだままで男に問う。
もしかしたら私は誘拐でもされて輸送の途中なのかもしれない。
だとしたら犯人かもしれないこの男を刺激するわけにはいかないだろう。

私の脳は自分でも不思議に思うくらい冷静に状況を判断し、適切な行動をとってくれた。
はたして私はこんな事件に巻き込まれたとき、客観的に物事を見、行動を起こせる程出来た人間だったか。
記憶を遡るかぎりそんなことはない。
私は一抹の違和感をぬぐいきれず、苛立つ。
こんな状況だというのに、私は自分のことすら把握できていないのか!

「…もういいか?」

男は私に状況を整理する時間を与えてくれていたみたいだった。

「ああ…もういい。時間をとらせてすまなかった。」

「気にするな。」

そういい薄く笑う男。その笑顔からは少しばかりの慈愛が浮かんでいるように見えるが、よく見ると目が一切笑っていない、作り物の笑顔であることが見てとれた。

「それでは、先程の質問に答えよう。」

男はローブをはためかせ、両手を大きく開いたわ大仰な身振りをしながら言う。

「ここはサーザン王国。そして私はサーザン王国魔術師団団長、宮廷魔術師のムネヒトだ。ようこそショーゴ。異世界へ。」

ローブの男、ムネヒトは先程とはうって変わった獰猛な笑みを浮かべ、しわがれた声でそう言った。

コメント

  • オナ禁マッスル

    死んでから一人称変わったんですか?

    0
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