異世界転移治療録 神とゴブリンと病院の卵

雲と空

7話 パーティ申請

「おお、懐いたみたいですね。魔物は基本的には手懐けるのが難しいのですけど、ゴブリーヌは少しだけ手懐けやすいとか言われてます。ゴブリンにも知能の高いものもいるので、そういうことも考えて処分してしまうのかもしれないですね」


 「なんだか、可愛いくなってきました」
 心なしか、賢そうに見えてこなくもない。
 お腹辺りに抱きついてきて、なんだかこそばゆい。 
 《名も無きゴブリンからパーティ申請が届いています》


 「あの、ダレンさん・・・。ゴブリンからパーティ申請が届いたんですけど」
 「え?」


 「とりあえず、YESとしておきますね」
 ゴブリーヌは上目遣いで、こっちを下から見つめている。
 胸がキュンッとしてしまう。
 子犬のような可愛さだ。
 家に連れて帰って、ミルクをあげて・・・ベッドで一緒に寝てあげたい。


 「え?」


 「だから、パーティ申請が・・・」


 「え?」


 「ダレンさん、耳が悪いんですか」


 「え?」


 「しつこい・・・」
 流石に、イライラした。
 「すいません。意味がわからなくて」
 「普通に、パーティ組みましょうってことだと思うんですけど」
 きっと、信頼してくれたに違いない。


 「パーティー申請ってモンスターにもあるんですね」


 「え?」


 「知能が低いのに、よくできるなと思って」


 「そういえば・・・」
 知能が低いのに?
 確かに。
 自分も知能が低いモンスターにそんな発想はできないと思う。


 ん?ゴブリン・・・大きくなったかな。
 なんか、身長伸びたかも。


名前 :なし
種族 :ゴブリン
ジョブ:なし


レベル:1
HP  :100
MP  :20
力  :40
敏捷 :40
体力 :40
知力 :20
魔力 :30
運  :30
スキル:ゴブリン流剣術


称号 :忌嫌われしゴブリン 
武器 :なし
防具 :ボロ布
   :なし
   :なし
装飾 :なし


 「なんか、強くなってます、怪力です。守ってもらいたい感じです」
 成長してた。
 はじめが保育園か幼稚園に通っている子供だとすると、今は小学校4~5年生くらいかな。
 可愛さが増している。
 ステータスは、やばいけど。


 「ねえ・・・、キミ」
 「え?」
 「キミだよ、キミ」
 「え?」
 呼び掛けは遠くではなく、割と近くでしているようだ。 


 「ダレンさん、いい天気ですね」
 「無視するな~」
 怒られた。
 「小林さん、無視したら可哀想・・・」


 そんなことより、言葉を話している。
 大事件だ。
 「ダレンさん。ゴブリンって、言葉話すんですか?」
 「初めて見ました」


 「ねえ、キミ。食べ物をくれてありがとうね。これから、処分されるところだったんだけど、急にここに来ちゃって、びっくりしたよ。ちょうどお腹が空いてたし、殺されるとこだったし、助かった~」


 「ああ・・・、どういたしまして」


 「さっきもパーティ申請をおくったんだけど、行くところないから面倒見てくれない?」
 そうそう、こういう展開になると思ってた。
 会話することになるとは思わなかったけど。
 どこにも行き場がないんだよね。この子。
 「え?どうしようかな~、ダレンさーん、どうする?」
 「小林さんって、意地悪なんですね」
 「頼むよ、なんでもするから」
 こっちこそお願いします、という言葉を飲み込んで、こう返した。


 「うん、わかった。じゃあ、条件がある」


 「条件?変なことしないよね?」
 変なこと?変なことなんて、何も考えてない。


 「ひとつ、俺のことをお兄ちゃんって呼ぶこと」


 「お兄ちゃん?」 


 「小林さん、その歳でお兄ちゃんは厳しくないですか?せいぜい、おじさん・・・いやおっさん」


 「うるさいです。こんな可愛い弟が欲しかったんです」


 「え。弟?ま・・・、いいか。いいよ、・・・お兄ちゃん」 
 うん、いい感じ~。こう、抱きしめたくなる。


 「小林さんって、変態だったんですね」
 どう思われたって、気にしない。この先長くないかもしれないんだ。
 「ひとつ、お兄ちゃんのことを守ること」


 「え?お兄ちゃんって、そんなにすんごい魔力を、お腹のとこに貯めてるのに、守ってもらうの?」
 「え・・・と・・・。これは・・・、これは~今は使えないんだ。理由があって、とっておいてあるんだよ。うん、そうそう」


 「なんか、色々理由がありそう・・・。後で、話したくなったら教えてね」


 「小林さん、なんだか既にバレバレですね」
 「ひとつ」
 「まだ、あるの?」


 「最後だよ、さいご。これが本題。スライムを倒してよ。銅の剣をあげるから」


 魔法バッグから銅の剣を出して、渡そうとする。
 「うわっと」
 出したけど、重たくて刀身を支えられない。
 というか、かろうじて柄をゴブリンに向ける。


 「はい、・・・どうぞ。お、重たいから・・・気を・・・付けてね」
 ゴブリーヌは軽々と受け取る。
 銅の剣を受け取ってから、驚いたように俺の顔をじっと見る。


 「お兄ちゃん・・・。ひょっとして、めちゃくちゃ弱い?」
 「・・・」
 やばい・・・なんでわかったんだろう。
 ゴブリンの目つきが確信に変わったように感じた。
 ばれたか。
 「・・・」
 ダレンさんも沈黙・・・。


 「ごめんなさい。めちゃくちゃ弱いんです」
 「そっちのハゲの人は?」
 「ああ、ダレンさんって言うんだよ。神様だから弱くないよ」
 「じゃあ、ダレンさんに倒してもらえばいいんじゃないの?」
 「神様は、下界にあんまり干渉しちゃいけないから、ダメなんだって」


 ゴブリンは少し無言で考えている様子。
 しばらく考えた後、こう続けた。


 「お兄ちゃん・・・。もし、名も無きゴブリンが悪いモンスターで、銅の剣を渡したら襲いかかってきたなんてことになったら、どうするの?」


 そうか、そういう手もあるのか。確かに、イチコロだろうな。
 そして、神様は直接、下界の者には手を出せないときたら、銅の剣を奪って逃げるなんてのもありだ。
 この体力じゃ、追いつけないだろうし。


 「その時は・・・その時は・・・う~ん。・・・どうしよう」
 「・・・」
 「考えてなかった」
 うん、これ以上にない正直な答えだ。 
 「・・・」
 なんか、また、考えてる。
 「お兄ちゃんは、騙されやすいから気をつけたほうがいいよ」
 「・・・はい、気をつけます」
 「小林さん、どっちがお兄ちゃんかわからないですね。交代したほうがいいのでは・・・」
 しっかりしている方がお兄ちゃん?いや、そういう決まりはないはずだ。
 守ってもらうお兄ちゃんだって、立派な(?)お兄ちゃんだ。
 だから、しっかり主張する。


 「お兄ちゃんは・・・譲れない」
 辺りを沈黙が支配した。

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