暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
戦鬼
フライフォーゲル城にアベル達が潜入していたその頃、《導きの塔》の前には、数々の村を焼いたバルデル傭兵団と聖教騎士、そして得体の知れない巨大な魔獣達が詰めていた。
「なあ、隊長。一体この塔に何があるんだ?」
よほど退屈なのか、部下の一人はふと浮かんだ疑問をバルデルにぶつけてみた。
「一度中を見てみると良い。なかなかに感動するよ?」
バルデルはしわの入った指で、頭に被った漆黒のつば広帽の位置を直すと、低く穏やかな声で答えた。
「いや、俺ら入れてもらえないし」
「ん? そうだったか」
「そうっすよ。ここ数日、中にも入れてもらえずキャンプ続き。街に残った連中と、塔の中で快適に止まれる隊長がうらやましいぜ」
部下はそうぼやくと、ため息をついた。
「別に中は高級ホテルというわけではないんだがね。まあいい。それよりもそろそろ鼠共をあぶり出すとしようか」
「隊長が言ってた、侵入者のことか? この陣容を見て、挑む人間なんているとは思えないけどな。それにあの妙な装置、どういう理屈か分からんけど、俺らに逆らえばスキルが使えなくなるし」
「いや、よく感覚を研ぎ澄ませてみるんだ」
部下達は言われるがままに、目を閉じて集中してみる。
「いや、やっぱ何もわかんねっすよ」
「精進が足りないねえ。どうやら数は三、みんな女性だぞ」
「ほ、ほんとっすか?」
部下が目を輝かせた。
バルデル傭兵団は数々の略奪・暴行を繰り返してきた非道の集団である。
敵対者に女性がいるとなると、気力が何倍にも膨れ上がるというものだ。
バルデルは目を輝かせる部下には目もくれず、塔の内部に連行されていた女性の一人を引きずり出すと、部隊の前に躍り出た。
「さて、そこの森に隠れ潜んでいるのは分かっている。おとなしく、姿を現したまえ」
バルデルは魔力で声量を増幅させると、広く語りかけた。
「無論、おめおめと姿を晒すほど愚かではないことは分かっている。故に少々趣向を凝らした見世物を用意した。精々楽しむと良い」
そう言うと、バルデルは短剣を取り出し、女性の耳を切り落とした。
*
耳をつんざく様な女性の悲鳴が森に響き渡った。
まるで自分の心臓を掴み上げて離さない、そんな不快感を催す悲鳴であった。
「!!」
真っ先に立ち上がろうとしたのは、聖女フローラであった。
しかし、その肩をジークリンデの腕が強く押さえ込んだ。
「でも、リンデ……」
「分かっています……ですが、私達がここで出て行けば、作戦が台無しです」
「それは――」
再び、女性の悲鳴が響いた。
その声を聞いたアイリスは目と耳を閉じて、じっと耐え忍んでいた。
「リンデ!!」
訴えかけるようにフローラがジークリンデの方に視線をやった。
しかし、ジークリンデはじっと俯いたまま、フローラの肩を押さえ続ける。
「どうした? 一人の善良な市民がこうして、無残な目に遭っているというのに、無視するつもりなのか? 何とも薄情なことだ」
ジークリンデ達を呼びかける声がさらに響いた。
「なるほど、それが為政者の振る舞いという奴か。国のためなら、何人臣民が死のうと命を張る気にはならんと。随分と立派なことだ。所詮は市民の命を多寡でしか計れない皇族か。だが、それならそれで一向に構わない。幸い、こちらにはいくらでも人質がいる。そちらがその気になるまで、我慢比べと行こう」
バルデルは力を込めたようにそう言った。
「いやぁあああああああああああ、腕が腕がぁああああああああ」
同時に悲痛な女性の声が響く。
一体彼女がどのような目に遭っているのか、直接目にせずともはっきりとわかった。
「ほう、これでも動じないか? だが、他の者はどうだ? 確か、姫の側には聖女とかいう者がいたな。どうだ、お優しい聖女サマはそうして見過ごしていて良いのかね? 何も皇族の無慈悲に付き合う必要などない。君は君の信じた通りに行動したまえ。こうして罪の無い人間を追い詰め、陵辱に晒すために教会の門を叩いたわけではなかろう? それとも、枢機卿を殺害したときに信仰も理念も何もかも捨て去ったのか?」
「っ……」
目の前の非道が見過ごせず、フローラはたまらず飛び出した。
*
「一人目は無駄撃ちに終わったな。残念だ。恨むのなら、無慈悲な皇女殿下を恨むと良い」
全身をずたずたに引き裂かれ、恐怖と苦しみの吐息を断続的に漏らす女性を見下ろしながら、バルデルは戦斧を高らかに振り上げた。
「はぁああああ」
しかし、飛び出してきた人影がその凶行を許さなかった。
それは一直線にバルデルに向かっていくと、その豪腕を振るい、重たい一撃をバルデルに叩き付けた。
「フッ」
バルデルはその様子を見て笑みを浮かべると、戦斧を構えて真正面からそれを受け止めた。
戦斧と手甲が打ち合うその瞬間、フローラの魔力の籠もった一撃が周囲を振動させた。
「ようやく、現れたか。どうやら釣れたのは《聖女》殿だったようだ」
二人はその一撃の反動で一旦距離を取る。すると次の瞬間、無数の打ち合いが始まった。
両者の得物が交差する度に、戦斧が描く黒風と手甲から迸る水のしぶきが混じり合っていく。
猛打を加えるフローラの攻撃は凄まじく、傍目にはバルデルが圧されているように見えた。
「さすがはベルセビュアの眷属と言ったところか。大した突破力だ」
しかし、一見圧されているように見えるものの、バルデルは葉巻をくゆらせながら、片手でその拳をいなすなど、かなりの余力を残していた。
「っ……」
自身の渾身の連撃を片手だけで抑えられている事実に、フローラは焦りを抱いた。
その時、単調に過ぎたフローラの攻めを、半身ずらしてバルデルが躱した。
自身の想像以上に冷静さを欠いていたフローラは、その勢いのままに姿勢を崩してしまった。
「ふっ!!」
バルデルは空いた彼女の背に、斧の柄を思い切り叩き付けた。
「かはっ……」
その殴打の衝撃でフローラが胃酸を吐き出すと、そのまま気絶してしまった。
「確かに筋は良い。だが、所詮は学生か。格上を相手取ればこんなものというわけだ」
バルデルは乱暴にその身を放り投げると、部下の一人がフローラの首を掴み、高く掲げた。
「皇女殿下、貴女がためらったせいで、こうして大切なお仲間までもが捕らえられた。それでも、このくだらない我慢比べを続けるおつもりか!!」
バルデルが叫ぶと、フローラの衣服を乱暴に剥ぎ取った。
「ほう、どうやら相当に根気強いお方のようだ。ならば、今この場でこの方を男達の慰み者にしてやろう。貴女らは痛みには辛抱強く耐えそうだが、これはどうだ? 気を取り戻したときに、自身を襲うおぞましい侵入に聖女殿は、果たして耐えられるかな?」
淡々と語りかけるバルデルの周りで、彼の部下達、そして聖教騎士の一部が下卑た笑みを浮かべた。
中には眉をひそめる者もいたが、それでも彼にわざわざ抗える者はいなかった。
しかしその瞬間、紫電のごとき閃きがその場を駆けると、フローラを掴んでいた男の腕を刎ね落とした。
「ひぎゃぁああ、俺の腕がぁああああああああ」
「ほう、ようやく現れたか」
腕を失った部下をよそに、フローラを抱きかかえる皇女ジークリンデを見おろすと、バルデルは不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ、それでいい」
バルデルはそう漏らすと、配下に指揮を下し、ジークリンデらを包囲した。
「なあ、隊長。一体この塔に何があるんだ?」
よほど退屈なのか、部下の一人はふと浮かんだ疑問をバルデルにぶつけてみた。
「一度中を見てみると良い。なかなかに感動するよ?」
バルデルはしわの入った指で、頭に被った漆黒のつば広帽の位置を直すと、低く穏やかな声で答えた。
「いや、俺ら入れてもらえないし」
「ん? そうだったか」
「そうっすよ。ここ数日、中にも入れてもらえずキャンプ続き。街に残った連中と、塔の中で快適に止まれる隊長がうらやましいぜ」
部下はそうぼやくと、ため息をついた。
「別に中は高級ホテルというわけではないんだがね。まあいい。それよりもそろそろ鼠共をあぶり出すとしようか」
「隊長が言ってた、侵入者のことか? この陣容を見て、挑む人間なんているとは思えないけどな。それにあの妙な装置、どういう理屈か分からんけど、俺らに逆らえばスキルが使えなくなるし」
「いや、よく感覚を研ぎ澄ませてみるんだ」
部下達は言われるがままに、目を閉じて集中してみる。
「いや、やっぱ何もわかんねっすよ」
「精進が足りないねえ。どうやら数は三、みんな女性だぞ」
「ほ、ほんとっすか?」
部下が目を輝かせた。
バルデル傭兵団は数々の略奪・暴行を繰り返してきた非道の集団である。
敵対者に女性がいるとなると、気力が何倍にも膨れ上がるというものだ。
バルデルは目を輝かせる部下には目もくれず、塔の内部に連行されていた女性の一人を引きずり出すと、部隊の前に躍り出た。
「さて、そこの森に隠れ潜んでいるのは分かっている。おとなしく、姿を現したまえ」
バルデルは魔力で声量を増幅させると、広く語りかけた。
「無論、おめおめと姿を晒すほど愚かではないことは分かっている。故に少々趣向を凝らした見世物を用意した。精々楽しむと良い」
そう言うと、バルデルは短剣を取り出し、女性の耳を切り落とした。
*
耳をつんざく様な女性の悲鳴が森に響き渡った。
まるで自分の心臓を掴み上げて離さない、そんな不快感を催す悲鳴であった。
「!!」
真っ先に立ち上がろうとしたのは、聖女フローラであった。
しかし、その肩をジークリンデの腕が強く押さえ込んだ。
「でも、リンデ……」
「分かっています……ですが、私達がここで出て行けば、作戦が台無しです」
「それは――」
再び、女性の悲鳴が響いた。
その声を聞いたアイリスは目と耳を閉じて、じっと耐え忍んでいた。
「リンデ!!」
訴えかけるようにフローラがジークリンデの方に視線をやった。
しかし、ジークリンデはじっと俯いたまま、フローラの肩を押さえ続ける。
「どうした? 一人の善良な市民がこうして、無残な目に遭っているというのに、無視するつもりなのか? 何とも薄情なことだ」
ジークリンデ達を呼びかける声がさらに響いた。
「なるほど、それが為政者の振る舞いという奴か。国のためなら、何人臣民が死のうと命を張る気にはならんと。随分と立派なことだ。所詮は市民の命を多寡でしか計れない皇族か。だが、それならそれで一向に構わない。幸い、こちらにはいくらでも人質がいる。そちらがその気になるまで、我慢比べと行こう」
バルデルは力を込めたようにそう言った。
「いやぁあああああああああああ、腕が腕がぁああああああああ」
同時に悲痛な女性の声が響く。
一体彼女がどのような目に遭っているのか、直接目にせずともはっきりとわかった。
「ほう、これでも動じないか? だが、他の者はどうだ? 確か、姫の側には聖女とかいう者がいたな。どうだ、お優しい聖女サマはそうして見過ごしていて良いのかね? 何も皇族の無慈悲に付き合う必要などない。君は君の信じた通りに行動したまえ。こうして罪の無い人間を追い詰め、陵辱に晒すために教会の門を叩いたわけではなかろう? それとも、枢機卿を殺害したときに信仰も理念も何もかも捨て去ったのか?」
「っ……」
目の前の非道が見過ごせず、フローラはたまらず飛び出した。
*
「一人目は無駄撃ちに終わったな。残念だ。恨むのなら、無慈悲な皇女殿下を恨むと良い」
全身をずたずたに引き裂かれ、恐怖と苦しみの吐息を断続的に漏らす女性を見下ろしながら、バルデルは戦斧を高らかに振り上げた。
「はぁああああ」
しかし、飛び出してきた人影がその凶行を許さなかった。
それは一直線にバルデルに向かっていくと、その豪腕を振るい、重たい一撃をバルデルに叩き付けた。
「フッ」
バルデルはその様子を見て笑みを浮かべると、戦斧を構えて真正面からそれを受け止めた。
戦斧と手甲が打ち合うその瞬間、フローラの魔力の籠もった一撃が周囲を振動させた。
「ようやく、現れたか。どうやら釣れたのは《聖女》殿だったようだ」
二人はその一撃の反動で一旦距離を取る。すると次の瞬間、無数の打ち合いが始まった。
両者の得物が交差する度に、戦斧が描く黒風と手甲から迸る水のしぶきが混じり合っていく。
猛打を加えるフローラの攻撃は凄まじく、傍目にはバルデルが圧されているように見えた。
「さすがはベルセビュアの眷属と言ったところか。大した突破力だ」
しかし、一見圧されているように見えるものの、バルデルは葉巻をくゆらせながら、片手でその拳をいなすなど、かなりの余力を残していた。
「っ……」
自身の渾身の連撃を片手だけで抑えられている事実に、フローラは焦りを抱いた。
その時、単調に過ぎたフローラの攻めを、半身ずらしてバルデルが躱した。
自身の想像以上に冷静さを欠いていたフローラは、その勢いのままに姿勢を崩してしまった。
「ふっ!!」
バルデルは空いた彼女の背に、斧の柄を思い切り叩き付けた。
「かはっ……」
その殴打の衝撃でフローラが胃酸を吐き出すと、そのまま気絶してしまった。
「確かに筋は良い。だが、所詮は学生か。格上を相手取ればこんなものというわけだ」
バルデルは乱暴にその身を放り投げると、部下の一人がフローラの首を掴み、高く掲げた。
「皇女殿下、貴女がためらったせいで、こうして大切なお仲間までもが捕らえられた。それでも、このくだらない我慢比べを続けるおつもりか!!」
バルデルが叫ぶと、フローラの衣服を乱暴に剥ぎ取った。
「ほう、どうやら相当に根気強いお方のようだ。ならば、今この場でこの方を男達の慰み者にしてやろう。貴女らは痛みには辛抱強く耐えそうだが、これはどうだ? 気を取り戻したときに、自身を襲うおぞましい侵入に聖女殿は、果たして耐えられるかな?」
淡々と語りかけるバルデルの周りで、彼の部下達、そして聖教騎士の一部が下卑た笑みを浮かべた。
中には眉をひそめる者もいたが、それでも彼にわざわざ抗える者はいなかった。
しかしその瞬間、紫電のごとき閃きがその場を駆けると、フローラを掴んでいた男の腕を刎ね落とした。
「ひぎゃぁああ、俺の腕がぁああああああああ」
「ほう、ようやく現れたか」
腕を失った部下をよそに、フローラを抱きかかえる皇女ジークリンデを見おろすと、バルデルは不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ、それでいい」
バルデルはそう漏らすと、配下に指揮を下し、ジークリンデらを包囲した。
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