暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
シャーロットの頼み
モンシャウ村からいくらか離れた西方の村にシャーロットはいた。
「アンナ、良かった。あなたが無事で……」
シャーロットと抱き合っている娘は、バルデルの配下に襲われたところを間一髪で救われた娘であった。
幼少期をモンシャウ村で過ごしたシャーロットとアンナは幼馴染であった。
「シャル、あなたもよく無事で……帝都が炎上したと聞いて気が気でなかったの……」
「色々あって、何とか逃げ延びたわ。そうだ、カスパルは? あなた達、来月には式を挙げるって言ってたじゃない?」
「それが……」
カスパルはもう一人の幼馴染で、アンナの婚約者でもある。
しかし、その名を聞いた途端アンナが暗い表情を浮かべた。
「カスパルは、昨晩の襲撃で酷い火傷を負って……その……」
アンナが声を震わせる。
その様子に、シャーロットは嫌な予感がした。
「カスパルは今は生死の境をさまよってる。襲撃前に教会の司祭様はみんな逃げてしまって、治癒術を扱える人もいなくて……」
「そんな……」
目の前が暗くなった。
シャーロットは家の事情から、領都にある城館ではなく、モンシャウ村にある母の生家で暮らしていた。
父から離され、母も早くに亡くしたシャーロットにとって、自分と対等に接するアンナとカスパルは心の支えでもあったのだ。
それがこのような目に遭ってしまい、しかもその原因の一端が自分にあったという事実が、酷くシャーロットの胸を締め付けた。
*
「お願い。みんなの力を貸して」
シャーロットがアベル達に、深々と頭を下げた。
彼女の頼みで、未だ昏睡した状態のカスパルに対し、フローラは癒術を行使した。
しかし、全身の細胞を燃やし尽くされた彼の身体は、自己治癒を促す癒術ではどうしようもないという域に達しており、その命を僅かばかり生きながらえさせることしか出来なかったのだ。
「モンシャウ男爵家の貯蔵する秘薬の奪取か」
シャーロットの母ディアナの生まれたモンシャウ男爵家は、森の霊気をふんだんに吸った豊かな水源を用いた調薬を生業としてきた。
そこで生成される秘薬の一つは、どんな致命的な外傷でも治癒するという絶大な効果を持っており、冒険者や騎士など、魔獣などとの戦闘が常である者達に重宝されてきた。
それがあればカスパルの怪我も治せるというのがシャーロットの見立てであった。
「屋敷は今、宰相軍と聖教騎士団の管理下に収められ、彼らの指揮の元で調薬と出荷が行われているようです。警戒はそれなりでしょうね」
「だが、俺たちが今後相手する敵の規模に比べれば易しいもんだ。だだ、一つ疑問なんだが」
アベルはシャーロットに視線をやると、疑問を口にした。
「な、何?」
「いや、シャーロットはそのモンシャウ家の血を引いてるんだろ? その技術を継承したりしてないかと思って」
スキルというのは天賦の才を鍛え上げて開花させるものであるが、その成長のために、知識や技術の習得は欠かせない。故にそれらは、それぞれの一族によって集積され、体系化され、秘匿されるものである。
そのため、《調薬》に勤しんできた一族の者であるシャーロットも、知識と技術を受け継いで才能を開花させているであろうことは容易に想像できる。
「アベル、それは……」
「いいの、リンデ」
アベルの発言を諫めようとしたジークリンデをシャーロットが制した。
「こいつは何も知らないんだから、責めちゃ駄目よ」
「っ……済まない。失言だったようだ」
シャーロットの身の上を知らないアベルであったが、今のやりとりで、ある程度の事情を察した。
「気にしないで。確かに私はお母様に《調薬》の基礎は教わったから、簡単な治療薬なら作れる。でも、秘薬に関しては、教わる前にお母様死んじゃったから……」
シャーロットは暗い表情を浮かべた。
《調薬》と一口に言っても、それがカバーする領域は遠大だ。
自己治癒力を活性化させる薬、患部を直接癒やす薬、体内の病原菌に直接作用する薬、身体を強化する薬、様々な効能を持つ薬など、薬の種類は数多くある。
その幅広い領域に対応する後継者を育てるために、知識や技術の集積は必要不可欠である。
そして、時を経て受け継がれたものによって、後継者のスキルは極みに至り、神技へと昇華する。
ただ、念ずるだけで脳が活性化し、そのスキルに集約された技術と知識を呼び起こし、人智を超えた高度な技術と、速度を実現する。
それは、高度な治療薬を瞬く間に量産したり、未知の調薬への挑戦に応用されたり、新種の配合を編み出したり、時には亜種のスキルを開花させたりと、様々な実践を可能にしていくのだ。
言い換えれば、どれほど素養を持とうが、中途半端な修練しか行っていなければ、中途半端な効果のものをそこそこの速度で生成することしかできない。
シャーロットは飲み込みが早く、母に教わり、めきめきと《調薬》のレベルを上げていった。
しかし、道半ばで母という師を失ったため、初歩的な調薬しか行えない状態であった。
「ともかく、シャルちゃんの幼馴染を助けるにはその屋敷に忍び込むしかないのね。でも警戒する屋敷にどうやって忍び込めば良いのかしら?」
癖になってるのか、フローラはまたもや、肘を突くような動作を見せた。
「いや、その点なら心配ない。俺に良い考えがある」
その時、アベルが不敵な笑みを浮かべた。
「良い考え……ですか?」
アベルの怪しげな表情に、ジークリンデ達は一抹の不安を感じた。
「アンナ、良かった。あなたが無事で……」
シャーロットと抱き合っている娘は、バルデルの配下に襲われたところを間一髪で救われた娘であった。
幼少期をモンシャウ村で過ごしたシャーロットとアンナは幼馴染であった。
「シャル、あなたもよく無事で……帝都が炎上したと聞いて気が気でなかったの……」
「色々あって、何とか逃げ延びたわ。そうだ、カスパルは? あなた達、来月には式を挙げるって言ってたじゃない?」
「それが……」
カスパルはもう一人の幼馴染で、アンナの婚約者でもある。
しかし、その名を聞いた途端アンナが暗い表情を浮かべた。
「カスパルは、昨晩の襲撃で酷い火傷を負って……その……」
アンナが声を震わせる。
その様子に、シャーロットは嫌な予感がした。
「カスパルは今は生死の境をさまよってる。襲撃前に教会の司祭様はみんな逃げてしまって、治癒術を扱える人もいなくて……」
「そんな……」
目の前が暗くなった。
シャーロットは家の事情から、領都にある城館ではなく、モンシャウ村にある母の生家で暮らしていた。
父から離され、母も早くに亡くしたシャーロットにとって、自分と対等に接するアンナとカスパルは心の支えでもあったのだ。
それがこのような目に遭ってしまい、しかもその原因の一端が自分にあったという事実が、酷くシャーロットの胸を締め付けた。
*
「お願い。みんなの力を貸して」
シャーロットがアベル達に、深々と頭を下げた。
彼女の頼みで、未だ昏睡した状態のカスパルに対し、フローラは癒術を行使した。
しかし、全身の細胞を燃やし尽くされた彼の身体は、自己治癒を促す癒術ではどうしようもないという域に達しており、その命を僅かばかり生きながらえさせることしか出来なかったのだ。
「モンシャウ男爵家の貯蔵する秘薬の奪取か」
シャーロットの母ディアナの生まれたモンシャウ男爵家は、森の霊気をふんだんに吸った豊かな水源を用いた調薬を生業としてきた。
そこで生成される秘薬の一つは、どんな致命的な外傷でも治癒するという絶大な効果を持っており、冒険者や騎士など、魔獣などとの戦闘が常である者達に重宝されてきた。
それがあればカスパルの怪我も治せるというのがシャーロットの見立てであった。
「屋敷は今、宰相軍と聖教騎士団の管理下に収められ、彼らの指揮の元で調薬と出荷が行われているようです。警戒はそれなりでしょうね」
「だが、俺たちが今後相手する敵の規模に比べれば易しいもんだ。だだ、一つ疑問なんだが」
アベルはシャーロットに視線をやると、疑問を口にした。
「な、何?」
「いや、シャーロットはそのモンシャウ家の血を引いてるんだろ? その技術を継承したりしてないかと思って」
スキルというのは天賦の才を鍛え上げて開花させるものであるが、その成長のために、知識や技術の習得は欠かせない。故にそれらは、それぞれの一族によって集積され、体系化され、秘匿されるものである。
そのため、《調薬》に勤しんできた一族の者であるシャーロットも、知識と技術を受け継いで才能を開花させているであろうことは容易に想像できる。
「アベル、それは……」
「いいの、リンデ」
アベルの発言を諫めようとしたジークリンデをシャーロットが制した。
「こいつは何も知らないんだから、責めちゃ駄目よ」
「っ……済まない。失言だったようだ」
シャーロットの身の上を知らないアベルであったが、今のやりとりで、ある程度の事情を察した。
「気にしないで。確かに私はお母様に《調薬》の基礎は教わったから、簡単な治療薬なら作れる。でも、秘薬に関しては、教わる前にお母様死んじゃったから……」
シャーロットは暗い表情を浮かべた。
《調薬》と一口に言っても、それがカバーする領域は遠大だ。
自己治癒力を活性化させる薬、患部を直接癒やす薬、体内の病原菌に直接作用する薬、身体を強化する薬、様々な効能を持つ薬など、薬の種類は数多くある。
その幅広い領域に対応する後継者を育てるために、知識や技術の集積は必要不可欠である。
そして、時を経て受け継がれたものによって、後継者のスキルは極みに至り、神技へと昇華する。
ただ、念ずるだけで脳が活性化し、そのスキルに集約された技術と知識を呼び起こし、人智を超えた高度な技術と、速度を実現する。
それは、高度な治療薬を瞬く間に量産したり、未知の調薬への挑戦に応用されたり、新種の配合を編み出したり、時には亜種のスキルを開花させたりと、様々な実践を可能にしていくのだ。
言い換えれば、どれほど素養を持とうが、中途半端な修練しか行っていなければ、中途半端な効果のものをそこそこの速度で生成することしかできない。
シャーロットは飲み込みが早く、母に教わり、めきめきと《調薬》のレベルを上げていった。
しかし、道半ばで母という師を失ったため、初歩的な調薬しか行えない状態であった。
「ともかく、シャルちゃんの幼馴染を助けるにはその屋敷に忍び込むしかないのね。でも警戒する屋敷にどうやって忍び込めば良いのかしら?」
癖になってるのか、フローラはまたもや、肘を突くような動作を見せた。
「いや、その点なら心配ない。俺に良い考えがある」
その時、アベルが不敵な笑みを浮かべた。
「良い考え……ですか?」
アベルの怪しげな表情に、ジークリンデ達は一抹の不安を感じた。
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