暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~

水都 蓮

闇に堕ちる乙女達

 炎のように燃え上がる瘴気に包まれて、ジークリンデは帝都の様子を思い出していた。


 女神の裁きによって炎上した街、独裁者のレッテルを貼られ処刑された両親、そして狂信者によって陵辱された人々、それらを引き起こした女神と教会という仕組みに対する怒り、憎しみ。


 そうして湧いた感情と混ざり合うように身体に入り込んだ瘴気が、己の中の重しのような何かを引き剥がしていく。


「私の中の何かが溶けていく……」


 身体の底からまっさらに作り替えられるようなその感触は、不思議と心地よく快感ですらあった。




*




 娘達を包む瘴気が、晴れ渡っていった。
 そこには黒衣を纏った四人の戦乙女が立っていた。


「これは……」


 ジークリンデが自分の身体を見回した。女神に《剣姫》の職位を認められたときに与えられた純白の騎士装束は、すっかりと漆黒に染まっていた。


「私の職位が反転している……? それに力が湧いてくる……」


 ジークリンデの職位は《剣姫》から《紫電の剣帝》に変質していた。


「な、なによ、この衣装!? 露出が……」


 他の三人も同様に衣装の変化とともに、職位が変化していた。


 フローラは《聖女》から《深淵の巫女》に、アイリスは《大賢者》から《常闇の賢者》に、そしてシャーロットは《弓聖》から《魔弾の射手》へと変化していた。


「そ、その姿は……」


 蒼炎の向こうで枢機卿がこちらを見ていた。


「よもや邪神に魂を売るとは、どうやら堕ちるところまで堕ちたようだな……」


 枢機卿が水の膜を振りまいて、蒼炎をかき消した。


「だが、我ら神の使徒が、邪神の手先などに後れを取ることなどない。僧兵達よ、蹂躙せよ!!」


 枢機卿の合図が響いた。
 すると、雄叫びを上げて僧兵達が突撃を再開した。


 しかし、その瞬間、雷が奔った。


 紫電を滾らせたジークリンデが、高速で移動し、無数の剣撃を放ったのだ。
 僧兵達は四方八方から襲いかかる剣閃に、為す術もなく切り捨てられていく。


「ひっ、速すぎる」
「ばかな、スキルが使えないって話じゃなかったのか」


 僧兵達が槍を捨て、次々と逃亡を始める。


「な? 貴様ら、逃げるな。背教者が目の前にいるんだぞ」
「なら、目を逸らすな」


 背後を向いた枢機卿の一瞬の隙を突いて、アベルが剣を真下に振り下ろした。


「ぎゃひぃいいい」


 情けない鳴き声を上げると、枢機卿が絶命した。


「みんな、逃げ遅れた人や、抵抗を続ける兵士達がいるはずだ。彼らを可能な限り救い出して、帝都を脱出しよう」


 アベルが指示を出すと、皆一様にうなずき、散開した。

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