暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
四人の戦乙女
黒髪の青年アベルも、昔は剣の腕が立ち、果ては《聖騎士》かと謳われたものであった。
騎士学院の渡り廊下から、遠く帝都の街並みを眺めながら、アベルがため息を吐いた。
人は生まれたときに女神から加護が授けられ、スキルを与えられる。
料理や狩り、洗濯などの生活に関わるものから、剣術や魔法などの戦闘技術まで、この世界ではスキルが無ければ技能を行使することができない。
しかし、かつての神童は、ある禁忌を犯したことで、女神に与えられた加護たるスキルの一切を失ってしまった。
「おい、底辺騎士。ぼっと突っ立てないで道を空けろ」
同期生が肩をぶつけてきた。
加護を失った者が、この世界でできることは余りにも少ない。
日々、生きるために必要な生理活動を続け、肉体を鍛え、知識を蓄える程度だ。しかし、それらが何らかの生産活動に活かされることは決してない。
料理をすれば必ず珍妙な味となり、弓を射れば弓が壊れ、剣を抜けば呪いにでも掛かったかのようにその刀身が重くなり、落としてしまう。
父親が偉大な貴族であることから、騎士学院に通うこと自体は許されたが、座学の講義しか参加できないアベルは、学生はもちろん、教授からも《底辺騎士》と馬鹿にされ、虐げられる日々を送っていた。
父の威光が無ければ、もっと酷い迫害が起こっていたであろう。
「あなた、自分からぶつかったというのに、謝罪の一つもないのですか?」
その時、凜とした声が響いた。声の主は、アベルにぶつかった同期生を咎めた。
「こ、これは皇女殿下、申し訳ございませんでした!!」
「謝る相手が違いますよ」
同期生は急いでこちらを向いて謝罪をすると、その場を去って行った。しかし、それも形式だけだ。
静かに鳴らされた舌打ちをアベルは聞き逃さなかった。とはいえ、それについてアベルがどうこう思うことはない。よくある光景なのだから。
「アベル、大丈夫ですか?」
声の主がアベルを気に掛けて、声を掛けてきた。
彼女はアルトジウス帝国第一皇女、ジークリンデ・フォン・アルトジウス、剣士職の最高職《剣姫》にまで登り詰めた剣の使い手だ。
いつもアベルのことを気にかけてはくれるが、それは彼女が分け隔て無く他人に接する性質というだけで、彼を特別視しているわけではない。
「あらあら、アベルくん、ご機嫌よう」
おっとりとした声で挨拶をしてきたのは、《聖女》フローラだ。
こう見えて大陸でも数少ない、聖人に認定されるほどの治癒術の使い手だ。
「確か《底辺騎士》の人」
続いて、そっけなく言い放ったのは、《大賢者》アイリス。若干15歳にして皇女の守護を任せられるほどの魔導師である。
あらゆる属性に精通し、新しい属性の定義、新魔法の開発など数々の魔導研究に寄与してきた天才である。
しかし、普段はあまり感情をあらわにせず、皇女達にべったりの引っ込み思案の少女でもある。
「もう、そんな人放っておいて行きましょう?」
そんな人などと呼んだのは、《弓聖》シャーロット。どんな遠くの的をも射貫く弓の名手である。
貴族の執り行う狩りの催しでは、その神技が度々披露され、貴族達の羨望を集めている。
しかし、性格がきついのが玉に瑕である。
皇女を取り巻く三人は皆、公爵家の令嬢にしてそれぞれが一芸に秀でており、皇女の《守護騎士》として護衛を務めている。
皇女と三人の《守護騎士》達、《底辺騎士》であるアベルとは住む世界の違う人間である。
軽く挨拶は交わしても、お互いに交わることなど決して無い。
もはや、アベルのことなど記憶にもないだろうが、別にそれでも良かった。彼女たちが健やかであれば。
なのに……それなのに……
騎士学院の渡り廊下から、遠く帝都の街並みを眺めながら、アベルがため息を吐いた。
人は生まれたときに女神から加護が授けられ、スキルを与えられる。
料理や狩り、洗濯などの生活に関わるものから、剣術や魔法などの戦闘技術まで、この世界ではスキルが無ければ技能を行使することができない。
しかし、かつての神童は、ある禁忌を犯したことで、女神に与えられた加護たるスキルの一切を失ってしまった。
「おい、底辺騎士。ぼっと突っ立てないで道を空けろ」
同期生が肩をぶつけてきた。
加護を失った者が、この世界でできることは余りにも少ない。
日々、生きるために必要な生理活動を続け、肉体を鍛え、知識を蓄える程度だ。しかし、それらが何らかの生産活動に活かされることは決してない。
料理をすれば必ず珍妙な味となり、弓を射れば弓が壊れ、剣を抜けば呪いにでも掛かったかのようにその刀身が重くなり、落としてしまう。
父親が偉大な貴族であることから、騎士学院に通うこと自体は許されたが、座学の講義しか参加できないアベルは、学生はもちろん、教授からも《底辺騎士》と馬鹿にされ、虐げられる日々を送っていた。
父の威光が無ければ、もっと酷い迫害が起こっていたであろう。
「あなた、自分からぶつかったというのに、謝罪の一つもないのですか?」
その時、凜とした声が響いた。声の主は、アベルにぶつかった同期生を咎めた。
「こ、これは皇女殿下、申し訳ございませんでした!!」
「謝る相手が違いますよ」
同期生は急いでこちらを向いて謝罪をすると、その場を去って行った。しかし、それも形式だけだ。
静かに鳴らされた舌打ちをアベルは聞き逃さなかった。とはいえ、それについてアベルがどうこう思うことはない。よくある光景なのだから。
「アベル、大丈夫ですか?」
声の主がアベルを気に掛けて、声を掛けてきた。
彼女はアルトジウス帝国第一皇女、ジークリンデ・フォン・アルトジウス、剣士職の最高職《剣姫》にまで登り詰めた剣の使い手だ。
いつもアベルのことを気にかけてはくれるが、それは彼女が分け隔て無く他人に接する性質というだけで、彼を特別視しているわけではない。
「あらあら、アベルくん、ご機嫌よう」
おっとりとした声で挨拶をしてきたのは、《聖女》フローラだ。
こう見えて大陸でも数少ない、聖人に認定されるほどの治癒術の使い手だ。
「確か《底辺騎士》の人」
続いて、そっけなく言い放ったのは、《大賢者》アイリス。若干15歳にして皇女の守護を任せられるほどの魔導師である。
あらゆる属性に精通し、新しい属性の定義、新魔法の開発など数々の魔導研究に寄与してきた天才である。
しかし、普段はあまり感情をあらわにせず、皇女達にべったりの引っ込み思案の少女でもある。
「もう、そんな人放っておいて行きましょう?」
そんな人などと呼んだのは、《弓聖》シャーロット。どんな遠くの的をも射貫く弓の名手である。
貴族の執り行う狩りの催しでは、その神技が度々披露され、貴族達の羨望を集めている。
しかし、性格がきついのが玉に瑕である。
皇女を取り巻く三人は皆、公爵家の令嬢にしてそれぞれが一芸に秀でており、皇女の《守護騎士》として護衛を務めている。
皇女と三人の《守護騎士》達、《底辺騎士》であるアベルとは住む世界の違う人間である。
軽く挨拶は交わしても、お互いに交わることなど決して無い。
もはや、アベルのことなど記憶にもないだろうが、別にそれでも良かった。彼女たちが健やかであれば。
なのに……それなのに……
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