助けはこない

黒揚羽

助けはこない

 私の何がいけなかったのだろうか。
 ……何もしなかったのが、いけなかったのだろうか……?
 断頭台の上で、私は過去に思いを馳せた。


 私はマーガレット侯爵家の長女として産まれた。
 少し太っているけれど家族に対してはとても優しい父と、物静かでおっとりとした母。
 そして見目麗しく完璧な兄と幸せに過ごしてきた。


 私が10歳の時に、年齢と爵位の釣り合いがとれるのが私だけだという理由で皇太子であるマークさまと婚約が決まったが、私はマークさまに興味の欠片も持てなかった。
 マークさまは優しかった。でもなぜか、少しの興味も好意も持てなかったのだ……。
 好きになろうと努力した。いいところを見つけて、心に書き留めて。
 頂いたプレゼントは全てきちんと保存してあるし、小まめに手紙のやり取りをし、デートした。
 それでも、好きになれなかった。


 とてもよくしてくださっているマークさまを好きになれないのが苦しくて、心がつらくて……私は、逃げてしまっていたのだろうか……?


 12歳の時に学園に入学して、マークさまと一緒に過ごす時間が増えた。
 一緒に遠乗りをし、難しい課題は相談しあいながらこなして。今は好きになれないけれど、結婚して子どもを産み育てているうちにゆっくりと好きになれたらいい。そう思っていたのに……。


 15歳の時、彼女が学園に入ってきてから優しい時間は崩れ去ってしまった。
 段々とマークさまと過ごす時間が減り、ラズベリルさんとマークさまが一緒に過ごしている姿を見ることが増えていく。
 それでも、私は動かなかった。
 それが、いけなかったのか……。


 ラズベリルさんがいじめられたらしい。
 マーガレット家のミラージュさまが裏で手をまわしているらしい。
 そんな噂が聞こえてくるようになり、私の周りから人がいなくなった。
 もちろん私はそんなことはしていないから、そんな噂はいつか消えるだろうと。放置したのが、いけなかったのか……。


 三日前、学園のホールで私は吊し上げられた。婚約者である、マークさまによって。
 私がいくら違うといっても、私ではないと告げても、それを信じてくれる人は誰一人いなかった。


 そしてこれから、私は処刑される。
 未来の王妃に危害を与えた、という罪で。
 おかしい、と思った。
 公爵家令嬢の私が伯爵家令嬢のラズベリルさんに危害を加えたとしても、処刑なんてことにはならない。
 それなのに、この処置がとられるということは……。


「最後に言い残すことはあるか」
「どうせ、私の言葉なんて誰も聞いてくれませんもの」
 処刑人にそう声をかけられ、私はゆっくりと横に首を振った。


 そして瞳を閉じる。


 会場が少しざわついていたが、もう何も気にならなかった。
 音がだんだんと小さくなっていく……
 お父様、お母さま、おにいさま……あの、しあわせだったころに、もどりたい……


 

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