彼女が花火を嫌いな理由

TSU-Z

先輩呼びと壁

「えー、先輩たちキレイすぎて付き合ったりしたら、俺の存在霞んじゃうから無理ですー」
「きゃっ、太陽くんありがとー」
「本当にかわいいなあ、もう!」


 クラス一かわいい河口さんの胸に太陽くんの頭が沈む。
 やんわりと押し返そうとしてるみたいだけど、全くうまくいってない。
 恋人じゃないのにムカムカする胸を押さえながら、太陽くんの腕を引いて私が抱き締める。
 これ以上、太陽くんに他の女子が触れてるのを見てたくない。身勝手なのはわかってるけど。


「なにすんのよ、日向!」
「次は私だったのに~」
「太陽くんと少し話があるからちょっとごめん。太陽くん、行こう」
「え、うん」


 困惑しながらも私の手を握り返してくれる。
 ……私が記憶をなくしてる今も、手を繋いでって言ってくれてたってことは、私がなくした記憶の中に手を繋いだ記憶があったのかな。
 今の私にとって大切なものなのかもしれないのに。





「太陽くん、どういうことなの?」


 屋上前のドアで、そう聞いた私に太陽くんは笑顔を消した。
 それは一瞬のことで、笑顔に戻る。いつもの・・・・、他人に見せる壁を感じる笑顔。


「どういうことって、なにが?」
「夏祭りでは付き合ってないって……それに、七海が私が付き合ってるって、言ったって」
「……それで?」
「え? あ、えっと、だからなんで、嘘なんてついたの?」


 スッと細められた目が怖い。
 今まで感じたことなかったのに、太陽くんが怖い。


「知らないよ。七海先輩がなんて言おうと、俺は嘘なんてついてない。話はそれで終わり?」
「え、ま、って」
「まだなにかあるの?」
「あの、その……そ、そうだ! あのね、私が記憶を思い出すために力を貸してほしいの」
「…………無理だよ。俺は協力できない」
「なんで?」
「ごめん。……日向、先輩、また」


 私はただ、太陽くんの後ろ姿を見てるしかできなかった。
 太陽くんが初めて、私との間に壁を作ってしまったから。

 自分で思っていた以上に、先輩呼びが辛かった。

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