彼女が花火を嫌いな理由

TSU-Z

時期外れのエイプリル

 太陽くんに「ただの・・・幼馴染み」だと言われて、少し胸が痛んだけど、夏休み明けは記憶を失くしてから初めて学校へ行くのが嬉しかった。
 教室に入って一番に私が挨拶をして、話しかけてくれるのが親友の七海ななみ
 太陽くんとの仲を必要以上に聞いてきてた少し困った親友だけど、大好き。


「日向! 太陽くんとはその後どうなの? 夏祭り、一緒に行ったんでしょ~?」
「うん。楽しかった。でも、太陽くんは私の大切な幼馴染みだよ」
「え、だって、二人は付き合ってるって、嬉しそうに報告してきたじゃん」
「え……?」


 七海が驚いたように言うけど、私の方が驚かされる。
 太陽くんは私に一度も嘘をついたことがない。同じく、七海も私に嘘は絶対につかなかった。


「日向姉さん」
「太陽、くん? なんで二年生の教室に?」
「そろそろ、ばらしてもいいかなって思ったから。ね、いいよね?」
「も、もちろん」


 もしかすると私が忘れた記憶の中で約束していたのかもしれない、そう思うとすぐに頷いてしまった。
 他に聞きたいことがあったのに。

 太陽くんの笑顔はいつも通りだったけど、どこか違和感を感じた。


「七海先輩、実は俺たち付き合ってないんですよ」
「え!?」
「ぷっ、あはは! 本当に騙された~! 日向姉さん、やったね!」
「え、う、うん! やったね、太陽くん」


 太陽くんの「やったね!」がなにを示すのかはわからなかったけど、慌てて頷く。
 太陽くんはそれで満足したのか嬉しそうに微笑むと、混乱した顔の七海やクラスの人たちにも微笑みかけた。


「時期外れのエイプリルフール! 学校全体を騙す作戦、最初聞いたときは無理だって思ったけど、大成功だね! 日向姉さん、おめでとう!」
「そう、だね」


 うまく笑顔をつくれたかわからないけど、なにも言われないから大丈夫だと思う。
 でも、私が笑い返したのを合図にクラスの女子が一斉に太陽くんの周りに集まる。


「嘘だなんて思わなかった~」
「ねね、嘘だったんなら、今はフリーだよね?」
「そうですよ」
「じゃあ! 私と付き合お?」
「あー、ずるい~! 私、料理得意だよ!」
「私の方が顔もスタイルもいいしー」


 太陽くんの周りに集まる女子たちは全員が自分のいいところをアピールしている。

 太陽くんって、こんなにモテるんだ。
 こんな風に胸を痛めるくらいなら、登下校の時だけでも昔みたいに手を繋いでたらよかったのかもしれない。

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