電車で募金をしに行く

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電車で募金をしに行く





中学一年生の夏休み
恒例の24時間テレビと言うもの
を観て居た


夕飯に父親と話す


「募金した?」
「いや、今年はまだだよ。」


会話はそれで終わった。


その日は少し早く寝てしまい、
日付が変わる前の変な時間に目覚めた


そうだ、
24時間テレビはまだやってんだ!


テレビを点ける、ローカルの放送局、地元のテレビ局前が映っていた


思い立ったように、
これから募金しに行こう!


思い立ったら直ぐ行動する性格


ひと夏の冒険の始まりとは
本人は思っても居なかった


この年は熱帯夜が続き
ラフな格好で寝て居たので
そのまま財布だけ持って出る


自転車で最寄の駅まで
ペダルを踏む
最寄と言っても
40分はかかる


足が自転車しかない年頃には
苦ではない


暫く自転車を跳ばす
駅前に着く


テレビ局のある街の駅行きまで
切符を買う


直ぐに電車がやって来る
いざ乗り込む
日付が変わりそうな時間帯でも
少し混雑して居る


丸坊主の子供がこんな遅い時間に
しかも夏休み真っ最中


補導されないかとビクビクして
冷や汗を少しかきながら
目的の駅で下車する


あ、テレビ局どっちだっけ?


この頃、滅多に来なかった街
しかもテレビ局なんて行った事も無いし場所もわからない


駅の改札口を出て外の通りへ
とりあえず道を聞く
優しそうなおじさんを選んで聞いた


全く逆方向
しかも知らない地名と場所


とりあえず
教えてもらった通りに
その道を歩く


夜には看板なんて見えない
方向音痴では無いのでとりあえず
進む


着いた!


と思ったら他のテレビ局だった
違うー!
引き返して違う道を目指す


それらしい通りに出た
ちょっとホッとするも
まだ先が長い、また歩く


途中
何処かの自販機で炭酸ジュースを
買う
汗ばんだ体が一気に冷えた


また歩く
さっき飲んだジュースで
尿意が催してくる


公園のトイレを探しながら
目的地を目指す


当時はコンビニとか
携帯が無い時代


登山中の遭難並みに思えてくる
しかも一人の丸坊主の中学生で
真夜中に一人でぶらついている


こんな夜中の時間に
交番の前を通る
目的のテレビ局を聞こうかと
寄ったが不在だった


仕方がないので
また歩く


どれくらい歩いたか
子供ながらに機転を利かせて
方向を定めた


目的の◯◯局通りと看板が見えてくる


やったーもう少しだ


暫く500メートルほど歩くと
周りは暗かったが
ある白っぽい建物だけ
こんな時間なのに異様に明るく
目立った所がある


吸い込まれるように
その明るい所を目指す
自然と足早になって行く


着いたー
本当に!
今度は確実


時間も時間で
中継もして居ない
募金箱を設置した簡易テントと
それを囲む夏場恒例の
風景である暴走族が溜まっていた


目的地で目的の募金
それが今回の使命
勝手に自分に言う


この年発行されたばかりの
500円玉硬貨を財布から出し
汗ばんだ手でしっかり握りしめ
募金箱のテントへ向かう


「ご協力お願いしまーす!」


夜中でもボランティアの人は
声高らかに呼びかけてる


募金箱へ500円玉を入れた


「有難うございます!」


使命達成の瞬間
それまで周りがあまり
見えなかったけど
同じような子供を連れた家族も居た
さすが夏休みだ


目的も果たした事だし
すぐさまUターンして駅へ向かう
帰りの道の方がまっすぐな道
初めからこの道を来れば
良かったと後悔しながら
てくてく歩く


トータルで7、8キロは
歩いただろうか
疲労が少し出てくる
しかし帰るのもまた目的の一つ


駅に着いた
改札口へ向かう
次の電車が来る時間を確認する


電車は暫くは来ない
次は始発の時間帯
え?


今は午前3時
始発までまだ2時間はある


この瞬間
散々歩いてきた疲労が
一気に出て来る


動けないので
取り敢えずベンチへ座る


酔っ払いやら徹夜の若者やら
数人はここに居る
何も起こらなければ良いけど
と思いながらベンチで寝ることにした


寝れない環境の中
目を瞑るだけにしておく


歩き疲れて居るので数分間
寝入ってしまった


多少ビクビクしながらも
寝たフリをするとそのまま
いつの間にか寝てしまったようだ


目覚めて起きる
家だと勘違いし
場所が違う事に驚くが
少しして駅のベンチだと思い出す


時間を見ると5時
あと数分で始発が動く


販売機で切符を買う
駅員さんに切符を切ってもらう


ホームへ向かう階段を上る
下り線ホームへ進む


もう電車は居る
余裕で座れるが帰れる喜びと
安心感でそそくさと乗り込む


この車両は自分を合わせて3人
始発ってこんなものなのかな?
と思いながらまた寝たフリ


目を瞑ると
電車内の慣れない匂いを感じる
これが大人の匂いと思う
あまり慣れたくない匂いだ


少し待つとアナウンスの後
電車が動き出す


今帰ってるんだーと実感する


自分で勝手に思い立って
勝手に目的地を目指し迷子になり
使命感だけを志し
やって来た街をあとにする


少し寝たので疲れが
生半可に成って気だるい感がある


地元の駅までボーッとして居た
他に考えることもない
勝手に決めた目的の達成感だけ


電車のゴトンゴトンと
各駅に止まる前のブレーキの音が
心地いい


20分くらい経ち駅に着く
地元に下りるのは自分だけだった


駅前の呑み屋に無断で
停めてある所まで自転車を取りに行く


あとは帰宅だけ
若干フラフラしながら帰路に就いた


帰宅する
親父には黙って出かけたので
そーっと家に入る


自分の家でも寝たふりをした


夏休みのほんの少しの冒険だった
汗をかいた後だけど
おやすみ

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