付録のトランジスタRadio

vrymtl

- ヤンと共に… -







ラジオの改造設定は、ほぼ終わった。
あとは、ある物質を転送する最終段階の改造設定と転送準備だ。わたしが設定した年代へ行ける…これがタイムマシンになる。
構造的には至って簡単、本体の基盤からモニター代わりの真鍮のスタンドにコイル状に巻き付けて移動させたい物質が入るくらいの輪っかを作り、またスタンドへコイル巻きにして、基盤へ通すだけの事だ。理科の電気図で電球の絵になる様な感じで結ぶ。
小学生に手伝ってもらっても間違いなく完成出来る工程だ。輪っかの巻き数で物質を移動できる質量が変わるとマニュアルには書いてある。
1巻きで約20〜60kg…3巻で約200kg程度の様だ。最低でも3巻必要だな、と思い残りの銅線をメジャーで測ってみるが、1Mほど足りない。マニュアルには、転送する輪っかなら太さは関係ないと記されている。今日は日曜日だ、近くのホームセンターへ出かけてる事にした。
面倒だったので、改造途中のラジオをそのままで銅線を買いに出かける前、またヤンが逃げ出さない様に戸締りをしっかり確認、ヤンも確認してから出かけた。


家から歩いて10分の場所にホームセンターがある、何かと便利だ。
DIYコーナー工具売り場の隣に資材と部品コーナーがある、そこで銅線φ0.5mm/3Mのものしかなかったのでこれを念のために2つ買って行く。ついでに、ヤンに猫缶も買ってあげようとペットフードコーナーで4缶セット売りのものも購入した。


レジで精算を済ませて帰ろうとしたその時、ふと見ると出口の左側に園芸コーナーがあってちょっと覗こうとウロウロしていると、柚子とオリーブの苗が可愛く思え気になってしまった、ついでだと思って高価なものではないからと自分に納得をさせ衝動買いして帰宅した。落ち着いて園芸の事を考えようとするのは何年ぶりだろうか?
それまでは、仕事も多忙で生活するのがやっとと言う気持ちだったから、今日の今、これも縁だと思って帰って小さな自宅の庭に早速植え替えようと思いながらペダルを漕ぐ、道中も順調に信号が数カ所あるにも関わらず一度も赤信号に引っかかる事なく無事に帰宅した…


"運が良かったなぁ〜
何か良いことがあるかな?"


そんな小さな事で喜んでいたが、少し不吉な予感もした…わたしの運命と言うものは生まれながらにして逆へ向かう性質があるからだ。そんな余計なことも頭をよぎるが、自転車のスタンドをかけて、ホームセンターの買い物袋を持って玄関の鍵を開けようとした…が、ドアが開いてる!
アッ!?黒ずくめの男達が来たのかッ?
ハッと思い、そぉっとドアを開け玄関真上にあるブレーカーを落とした。ラジオは大丈夫かっ?ヤンはどこへ行った??わたしはまず部屋に行き、ラジオを確認した。出かける前と同じ状態だった…良かったぁ、フーッ。
次は飼い猫のヤンだ、危害は与えられていないだろうか?!
ヤンの名前を呼びながら、リビングへ向かうと土足であがって居た黒ずくめの男がゴソゴソと引き出しと言う引き出しを漁って居た、クローゼットも開けっぴろげ物色した後だった。ヤンは机の上に居て黒ずくめの男を威嚇して怒って居た。


「誰だッ?!」
わたしがそう言ったと同時に、ヤンも気が付きわたしの方へ来たが通り過ぎて部屋へ向かった。わたしも危険を感じてヤンの後を追う様に急いで部屋に向かいドアに鍵をした。直ぐに、改造途中のラジオ本体に銅線を取り付け電源を入れた、男が部屋のドアをドンドンッと叩く音がする中でラジオが点きモニター代わりの真鍮の枠の中にぼんやりと昔のモノクロ液晶のゲーム画面、暗視カメラで撮影した画面みたいな蛍光緑の様に画面が浮かび上がる、とっさの事で改造途中のダイヤルも無造作にして居た2019年のままで、買い物袋を肘にぶら下げている事を忘れ、ヤンを腕に抱え繋げた銅線の輪っかへ入る。


暫くすると、輪っかに熱が生じて煙がアンテナから同時に出る。モニターの枠から輪っかまでの空間が真っ白に染まっていきやがて音もせず、閃光の光が部屋中に光り充満し一瞬で暗くなった。


その部屋には、わたしとヤンはもう居ない…ここは真っ暗な違う場所だ。


暗い世界の遥か向こうにポツンと明るい光る場所がひとつ見えた。冷たい床の質感は少し湿ってる様な感じだ。
ヤンも、一瞬の出来事に驚いてわたしの腕の中で震え動こうとはして居ない。わたしは、今の状態を冷静に察し明るいその場所へ誘われる様に向かって歩いて行った…






つづく







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