付録のトランジスタRadio
- ヤンの帰郷 -
わたしは黙々と作業を続けた。
時間も気にせずに、パソコンとにらめっこをしながらマニュアル通りに進めていく…辺りは夜も更け無音だ、わたしも無心になっていた。夜中に近付けば近付くほど、それからの夜明け前の東雲辺りは集中力が舞い降りてくる、不思議な時間だ。この事をもっと早く、若い頃に知っておけば勉学も面白くなり進学もしていただろうなと思い悔やむ時がある。日中は、起きて普通に生活してる時でさえ雑音と雑念がストレスになる、できれば物音や邪心は聞きたくない…そんな事を思いながらひたすら作業に没頭するが、
アッ!しまった。
ここで、平日しか開店していないお店では買えなかった物を使う工程だった…仕方ない、明日届くと思うパーツを待つとして今日はこのくらいでやめておこうかな。
どちみち、よっちゃんに頼んだダミーも明日にならなければ受け取れない。
ダミーと完成品が同時進行なら、奴ら黒ずくめの男達が来てもそこで時間は稼げるだろう…そう思い、シャワーを浴びる支度をしていると、
"ニャーニャー"と猫の鳴き声が聞こえた。
「ぁあ?あっ!帰ってきたか?!」
ガラガラーッ
「おい、ヤン!ヤン?おいでーッ」
一ヶ月前に逃げ出してそれっきり帰って来なかった、飼い猫のヤンが来た。
「猫の世界も大変だなぁ、お前ブチ柄なのに白い毛が真っ黒じゃないかぁー、丁度いいや、これからシャワーだから一緒に入ろう、なッ?」
"ニャー、ゴロゴロ…"
一ヶ月以上ぶりのシャンプーをヤンにしてあげた。白い毛も元どおり真っ白に戻った、拭いてあげて今度は自分のシャワーの番だ。
わたしが出るまで、ヤンは自然乾燥。
頭を乾かす時にヤンもドライヤーをあててあげる、嫌がるが我慢我慢と少し強引に乾かす。
「はい、出来上がりーもう行っていいよーほれ!」
手放すと一目散にキッチンへ向かうヤン、何日ぶりになるのかな?
ちゃんと食べられる食事は。
飼い猫ヤンが帰ってきたおかげで、今までの緊迫した家中の空気が一気に和んで柔らかくなった様だった…一時の至福に感じ、冷蔵庫からビールを出して食事をするヤンの背中をツマミにしながらの晩酌を愉しんだ。
さぁ、明日はいよいよラジオがマシンに生まれ変わる日だ。酔ったのか酔わないのかわからない中、この夜は久し振りにわたしの腕枕で寝るヤンを見ながらいつのまにか寝てしまった…
つづく
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