魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

戦い終わって

 マノンは、最後の一撃を放った様子を思い出す。


 ブレトンが、最後の力を振り絞って、魔神結晶を掴んでいたのだ。
 自分の魔力を、注ぎ込んだに違いない。
 最終的に、魔神を葬り去ったのは、ブレトンなのだろう。


 魔神が絶命すると、周辺に沸いていたモンスターたちが黒い煙となって霧散した。


「とてつもない力です。まさか、魔神結晶を切り裂くとは」
 オデットが、驚愕の表情を浮かべている。


 魔神結晶は、色を失っていた。ただの石ころとなり果てている。
 マノンは、結晶だけでなく、魔神すら滅ぼす力を有していることに。


「わたしは、勝ったの?」
 マノンは刀を落とす。柄を握る力すら残っていなかった。


「はい。魔神は、あなたの技によって両断されました」
 オデットが、この場の安全を宣言した。




 生徒たちが歓喜に騒ぎ出す。




「よかった」
 安堵のためか、マノンのヒザがひとりでに崩れる。


「マノン!」
 倒れそうになるマノンを、エステルが受け止めてくれた。


「ありがとう、エステル」
 眠くなるのを堪えて、マノンは踏ん張る。


「平気? どこか、痛いところはない?」
「わたしは大丈夫。みんなは?」
「全員無事よ。ありがとう。あなたのおかげよ」


「よかった」
 周囲を見回すと、生徒たちが互いをたたえ合っていた。
 疲労困憊のマノンに気を使ってか、こちらには近づこうとしない。




「担任は?」


 マノンが聞くと、エステルが草むらを指さす。


「あいつったら、のんきに寝ているわ」


 大の字になりながら、担任はイビキをかいていた。


「こっちは必死だったってのに」
 ため息をつき、エステルがブロードソードを担ぐ。






「それにしても、担任はらしくなかったわね。人間を信じさせてくれ、だなんて」


 今まで、そんな台詞を言うような人じゃなかったのに。


「知りたいですか? 彼の、担任の過去を」
 唐突に、オデットが話題を切り出す。


「オデット先生は知っているの? あいつのことを」


 エステルも、好奇心が湧いたようだ。


「ええ。マノンさんの体内に入るきっかけになったのも、その事件でしたから」


 そういえば、オデットは当時、負傷していた。 


 不遜公が、まだ力を付けて間もない頃のことだ。
 担任は人間の勇者とパーティを組んでいたという。
 魔神結晶を探し出して、浄化するという危険な仕事だ。


「担任は、今よりもっと擦り切れた性格でした。心を閉ざし、誰とも話そうとしませんでした」


「意外ね。今のあいつとは大違い」
 びっくりしたような表情を、エステルが見せる。


 幼かった担任は、まだ魔王の力を上手にコントロールできなかった。
 ウスターシュ学長とともに勇者と同行して、力の使い方を学んでいく。


「そのとき知り合ったのが、勇者の息子でした。彼はゴブリンやその他の魔物とも、仲良く接してきました。もちろんワタクシとも」




 頑なだった担任の感情も、次第に勇者たちと打ち解けていったらしい。


「世界中の魔神を倒していく過程で、『赤き戦乙女』、つまり、エステルさんのお母さまとも知り合いました。後に、彼女はドロップアウトしてしまいましたが」


 結果、担任たちは大型の魔神を倒した。
 担任の父親たちである魔王が、人間と協力して倒した個体と、同じほどの力を持っていたという。




「母が倒したのは、それほど大きな魔神だったのね」


 グレーターデーモン級だと噂には聞いていた。しかし、実物は遥かに強大な相手だったのである。


「はい。ですが、そこからが最悪でした」


 あまりにも強すぎる上に、魔王すらも手懐けていた勇者は、世界から危険視されてしまう。
 結果、勇者は自国の王の命で処刑された。


 だが、最悪はその直後に訪れる。


「勇者の子どもが、魔神と融合してしまったのです。世の中に絶望して」


 ある程度まで集まった魔神結晶を、勇者の子どもは取り込んでしまったのである。




 魔神となった勇者の血族により、王都は跡形もなく消滅した。
 今でも地図にすら載っておらず、クレーターとなっている土地である。


 魔神となった友を止めるため、魔王たちは一丸となって魔神に挑んだ。
 オデットは深手を負い、担任は断腸の思いで、英雄を討った。


「それ以来、ジャレス・ヘイウッドは再び、人との接触を極力避けるようになりました。でも、あなた方と交流することで、再び人間との絆を取り戻そうとしたのです。彼は、何もいいませんが」


 担任は、相変わらず眠っている。


「砂礫公に代わって礼を言わせたいただきます。あなたたちがいなければ、彼はずっと心を閉ざしたままだったでしょう。ありがとうございます」
 オデットが、手を差し伸べてきた。


「礼を言うのは、こちらの方です。ありがとうございました」
 マノンも、オデットと握手をかわす。


「んな?」
 担任が、眠りから覚めた。
「まだ、調子が悪いな。おいお前ら、オレが寝ている間に何か言ったか?」


「あんたの寝相が悪いって言っていたのよ!」
 エステルが茶化す。


「んだよ、いいじゃねえか。久々に気持ちいいんだ。もうちっと寝かせてくれよ」
 また、担任が眠りについた。


 寝息を立てる担任の側に、マノンは腰掛ける。
「おやすみ、担任」
 マノンは担任の頭を持ち上げて、膝枕をした。


「ちょっとマノン! それは大サービス過ぎはしないかしら?」
 頬を染めたエステルが、両手で口を押さえる。


「担任はがんばったよ。だから、これくらい平気」


「ハレンチよ! ゴブリンビンビン物語よ! 今すぐ担任から離れなさい、妊娠しちゃうわ!」
 えらく興奮気味に、エステルが警告してきた。


「大丈夫。担任はそんなえっちなこと、しないよ」


 担任の髪を撫でながら、マノンは微笑む。


 こんな無防備な寝顔ができるようになるまで、担任がどれだけの友人を失ったのだろう。
 どれだけの苦難に絶えてきたのか。


 今のマノンには分からない。


 一つ言えるのは、またこうしてみんなと笑って明日を迎える日が訪れたということだけだ。


「では、ワタクシも事態の収束に参ります。最後にマノンさん、一言だけ忠告を」
 オデットは、マノンを見下ろす。


「あなたが担任をお慕いしていることは重々承知しています。それについては、何も問題ありません。お子を宿したいのであれば、ご自由に。人間とゴブリン、どちらの属性を持つかは分かりかねます。けれど、概ね元気な子として育つでしょう」




「そう、ですか」


 そこまで露骨に言われると、照れくさい。弁解のしようもなかった。


「懸念すべき材料は、担任と添い遂げるか、冒険者として家庭を捨てるか。それだけです」


 マノンは、息をのんだ。


 大切な人がいる家庭を守る立場に立つ道と、自分の我を通して冒険者の道がある。
 選択する覚悟が、今の自分にあるだろうか。


 担任の寝顔を見ながら、マノンはまた迷いの思考に入り込む。




「今、無理に決める必要はございません。担任とて、決断を迫るような亭主関白でもありますまい。彼は部下に対しても放任主義です」


「言えてるわね」
 腕を組みながら、エステルがうんうんとうなずく。


「あなたはまだ若い。可能性は無限大です。どうか、悔いのない道をお選びください。ではごきげんよう」
 言い切って、オデットは飛び去っていく。


「マノン、ちょっと焦りすぎじゃない?」
 こういうとき、エステルは優しい言葉をくれる。


「あなたは生き急ぎすぎる一面があるわ。一生のことなんだから、じっくり吟味していいと思うの」


「そうだね。気長に決めていこう。一歩ずつ」


「ただし、清い交際をするのよ! すぐにお腹を大きくしちゃうような、ふしだらな関係は許さないんだから! あたしが担任を焼き尽くすから!」


「分かってるよ」
 マノンは、エステルに笑いかけた。

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