魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

凍空剣(とうくうけん)

「来るぞ!」
 担任の号令で、全員がモンスターに斬り掛かる。


 マノンが、無数の魔物たちを切り裂く。


 エステルもブロードソードを振り回し、暴れ回る。


 ネリーのゴーレムが、魔物の群れを叩き潰す。


 大半が、オデットの石つぶてで撃退された。


 が、それでも数が減らない。


「こいつ、キリがないわ!」


 エステルの魔力も限界だ。彼女の火力だけが頼りだったが。


「どうしましょう! もうネタ切れですよ!」
「こっちもザコ相手で手一杯!」


 イヴォンもネリーも、次から次と沸いてくるモンスターを相手に苦戦している。


 セラフィマも、父親の治療に専念していた。戦力に数えるわけにはいかない。


 オデットでさえ、ザコの処理に追われて魔神に近づけないでいる。


「このヤロウ!」
 担任砲が、火を噴く。周辺の魔物を巻き込んで、魔神もろとも貫いた、はずだった。


 魔神は、担任砲の弾丸を、片手で受け止めている。
 山やダンジョンすら溶かす程の威力なのに。


「担任、パワーが落ちています。ムダ撃ちはほどほどに」
「けどよお!」


 オデットと担任が口論する。


「我々には、まだ力強い援軍がおります」
 言葉と共に、オデットが上空を指さした。


 無数の星が、夜空にきらめく。いや、あれは星ではない。隕石だ。


「学園には、指一本触れさせぬ!」 


 空から隕石が降り注ぎ、魔神や周辺のモンスターに殺到した。誰かの呪文である。


 放ったのは、ウスターシュ学長だった。
 味方を正確に避けて、モンスターだけを灰にしていく。


 だが、正面から隕石を受けた魔神は、涼しい顔をしている。


 ウスターシュの全体攻撃を持ってしても、モンスターの数を減らすまでには至っていない。


「ちいいいいい! 今一度」
 再び、ウスターシュが手をかざす。


浄焔セイクリッド・ブレイズ!」
 ウスターシュ版の浄焔が、杖から解き放たれる。


 魔神は防ぐ動作すら見せず、まともにウスターシュの魔法を浴びた。
 ブレトンの肉体が、またしても黒焦げになる。だが、一瞬で再生した。


「なんという!」


「ダメ、ヒドラの能力で再生しています!」
 ウスターシュが印を結ぼうとするのを、マノンが止める。


「やべえ、ウスターシュ、魔力を温存しろ! 作戦を立て直して、確実に仕留めるぞ!」
 担任の顔にまで、焦りの色が。


「マノン生徒、これを使うの!」
 副学長のピエレットが、マノンの元まで飛んでくる。
 マノンの手に、二対の指輪を差し出した。


「モニクさんの自信作なの! ここを食い止められるのは、あなたしかいないの!」


 マノンは指輪をはめた。
 二つの指輪の片方には、浄化した精霊石がはまっている。
 だが、もう片方は空っぽだ。


「受け取れ、マノン!」
 担任が、自分の魔神結晶、正確には魔神結晶を浄化した精霊石を、マノンに投げて渡した。


「そいつを指輪に、はめ込むんだ!」


「でも、精霊石は普通の人間には扱えないんじゃ?」




「今のお前なら、使える!」




 復活間近の魔神を倒せるのは、自分しかいない。
 そう言われた気がした。




「分かった」
 指示通り、マノンは指輪に精霊石をセットする。


「よし、そいつをぶちのめしてやれ!」
 力を使い果たしたのか、担任がモンスターの攻撃に倒れた。


「担任!」
 マノンは、担任の元へ駆け寄ろうとする。


「オレ様に構うな。ヤツをぶっ飛ばせ!」
 担任が叫ぶ。
 追い打ちをかけようとしたモンスターの額を、担任の銃が打ち抜く。
 手を伸ばし、担任がマノンを制止する。


「フン。無様なり、砂礫公よ」
 ブレトンの中にいる魔神が、担任に呼びかけた。


「んだとぉ?」


「疲弊しては、我が眷属の攻撃にすらヒザをつく。まったく哀れなヤツよ。おとなしく我が支配下に身を置けば、強大な力を得られるというのに」


「うるせえ! オレ様はもうオヤジのことで懲りているんだよ。オレは誰も犠牲にしない魔王になる!」


 両サイドから爪を伸ばしてきた魔物を、担任は撃ち倒す。


「生徒さえ危険にさらしてもか?」


「ああ。テメエの力になんて頼らない。オレ様は、自分の力で生徒を正しい方へと導く」


 魔神が高笑いをする。
「魔王が人間共の子どもを育てるか。異な事よ、砂礫公。魔王は人を支配してこそ。人間と手を取り合おうなどという考え自体、正気とは思えぬ」


「テメエにとっては、どっちもエサに過ぎねえだろうが!」
 担任が、魔神に向けて魔法銃を撃つ。


 対する魔神は、手刀だけで衝撃波を放った。赤黒い魔力が刃と化し、担任に斬りかかる。


 魔法銃の銃身で、担任は防ぐ。だが、隻腕を守るヨロイに傷が入った。


「担任!」


「いいから戦闘に集中しろ!」
 担任の言葉を受け、マノンは魔神に向き直る。


「我が力を受け入れよ。マノン・ナナオウギ」


 不意に、魔神から声をかけられた。


「私に、魔神になれと?」


「左様だ。貴様には素質がある。ここまでよく自らを鍛え上げた。魔神たる器に相応しい。もし、魔神として生きる道を受け入れるならば、仲間の命は保証しよう。それだけではない。あらゆる全てが、貴様の思いのままだ」


 マノンは、周囲を見る。




 みんな、苦戦していた。




 もし、自分が魔神になれば、仲間は助かる。
 断れば、全員の死が待っているだろう。




「わたしは、誰の役にも立ってこなかった。いつも誰かに助けてもらっていた。わたしは、誰かの役に立つ人になることを望んでいた」




「そうだ。だからこそ我が力を受け入れれば、役に立――」




「でも、そうじゃなかった! わたしは、誰かを助ける何者かになりたかったんじゃない。みんなを助けたいんだ!」




 それは、何にもならなくてもできる。
 冒険者でなくても。
 今でも誰かを救える。


「我が申し出を、断ると?」


「わたしは誰の手も借りなくたって、ちゃんと自分の足で歩けるんだ! あなたを倒して、それを証明する!」 


 魔力を刀身に込めながら、剣を振り上げた。




 見つける。魔神の核を。きっと再生に必要な核があるはずだ。




 今こそ、自分の力を信じるのみ。


 精霊石の力と、己の力を掛け合わせる。
 これなら、あの技が撃てるかもしれない。
 祖父から教えてもらった最強の技を。自分では発動できないと思い込んでいた技を放てるはず。






「凍――」






 凍空剣を放とうとしていたマノンの眼前に、岩石が。
 魔神が投げつけたのである。


 やれるか。
 しかし、集中し切れていない。
 このままでは、不完全な凍空剣を打ち込んでしまう。


 考えている間にも、岩は目の前まで迫っていた。


 やむを得ない。この身が潰されようが、なんとしても一撃を。


 マノンが決意を固めたそのときだった。


 一筋の光がマノンを横切り、岩を一瞬で砕く。


 誰がやったのか?


 エステルではない。彼女は雑魚モンスターの相手をしている。少なくとも生徒ではなさそうだ。


 オデットでも、ウスターシュでもない。彼らも周辺の相手で忙しくしている。


 では、一体。


 答えは考えるまでもなかった。


 振り返る。


 倒れている担任が、銃だけマノンの方角に向けていた。銃口からは、煙が上がっている。


 無意識か否か、担任砲を放ったのだ。


「やれマノン! オレ様に、人間を信じさせてくれぇ!」


 後ろからかけられた、担任の言葉。




 彼の思いを、剣に。 








凍空剣とうくうけん! やあああああああ!」










 今まで上げたことのないボリュームで、声を出す。


 不遜公が撃ったときよりも速く、刀を振り下ろした。


 ヒムロ製の剣から放たれた衝撃波が、魔神の身体を駆け抜ける。


 虚空すら切り裂く必殺の波動は、確実にブレトンの魔神結晶へ届いたに違いない。


 ただ、「理論上は」だけれど。


 マノンの肩から、湯気が立っていた。
 それほどまでの魔力を放出したのだ。


 だが、魔神は嗤っている。
 口元をつり上げて、不敵な笑みを貼り付けていた。


「だ、ダメか」


 全力全開の一撃。なのに、通じない。やはり自分はダメな冒険者なのか。


「いいえ。ご安心を」
 オデットが言うと、魔王の身体は、空間ごと半分に切り裂かれた。


 ブレトンだった灰を見つめながら、魔神結晶がブレトンの身体から離れて、コロコロと転がっていく。
 灰色になったブレトンが倒れ、砂と化した。再生能力を持つヒドラを突き抜けたのだ。

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