魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す
魔神、復活!
「担任!」
「ヘイウッド先生!」
「黙ってろ、いくぞ!」
担任は両腕を伸ばす。
フワリと浮かび上がって、マノンとセラフィマは、地上に降り立った。
だが、担任は崖下へ真っ逆さまに落ちていく。
かと思えば、異様な早さで登ってきた。腕も使わず、駆け足だけで。
身体が軽く小さいからできる芸当なのだろう。それにしても早すぎるが。
「先生!」
「遅れてスマン。よくやった、二人とも。よく生きていた」
独断専行しすぎたセラフィマを特に責めるでもなく、生きていてくれただけで賞賛してくれる。
「あの、ヘイウッド先生、いえ、砂礫公」
セラフィマが、担任に頭を下げた。
「その呼び名はよしてくれ。慣れてなくってな。それに、オレは魔王じゃねえ」
「あなたは砂礫公です! 誰も認めなくても!」
「そっか……」
担任はため息をつく。
「先生、申し訳ございません。あなたを信用していませんでした」
「いいっていいって。オレ様の良さは、オレ様だけが分かってりゃいい。お前さんもお前さんの長所を活かしな」
あぐらをかきながら、担任はセラフィマの膝下をバシバシ叩く。
担任は、マノンと向き合った。
「マノン、学校は、オレ様がウスターシュに掛け合って、なんとかしてみるぜ」
「わたし、学校がなくなったら、どう生きていいのか分からない。エステルとも、離ればなれになっちゃう。エステルにだって生活がある。戦乙女になって、みんなを守る冒険者になって。わたしは女王様を守る騎士になって。でも、何か違う気がする。それが何なのか、分からないよ」
マノンは、感情を吐き出す。
将来は見えてきた。しかし、本当に自分のなりたかったものはこれなのか、判断がつかない。
マノンはずっと考えた。答えが出ないまま。
「自分が何者になるかなんて、すぐに決断できるヤツなんて、そんなにいねえよ。じっくり考えな」
担任は、脂汗をかいている。
「それに、まだ終わってねえ」
担任が、振り返った。
「その通りです。呑気におしゃべりしている余裕はありません、砂礫公!」
オデットは、こちらに背を向けたままである。
唯一飛べる人物が、マノンの手助けをしなかった。
理由は、できなかったからだ。
目の前に、危険な人物が立ち塞がっていたから。彼女をこちらに来させまいと。
突然、足下が激しく揺れた。
再び地震が。
引き起こしたのは、オデットと対峙している、アーマニタだった。
「どいつもこいつも役立たずね! 足止めもできないなんて! いでよ魔神!」
アーマニタが、魔神結晶に呼びかける。
それだけで、アーマニタの美貌が元に戻った。
「アハハハ! 一瞬でヤケドが回復したよ。素晴らしい、さすが魔神結晶の力だね!」
黒焦げから再生したアーマニタが、自分の身体に魔神結晶を埋め込もうとしている。
「やらせません!」
オデットが磁力で、周辺の石を弾丸へと変えた。
ところが、発射する前に石が落下する。
アーマニタが、オデットに向けて手をかざす。
軽く払っただけで、オデットは吹っ飛ばされた。
地面に叩き付けられ、オデットは何度もバウンドする。
「威圧だけで、このパワー。ワタシには止められないようです、砂礫公」
苦々しい顔をしながら、オデットは立ち上がった。
余裕の表情を見せ、アーマニタは結晶を天にかざす。
「ついにアタシは、最強のパワーを手に入れた。力は申し分ないよ! あとはこれを、体内に取り込ん――」
アーマニタの言葉が、途切れた。
腹を、銀の剣が刺し貫いたからだ。
「あいつ、どうして動けるの!?」
起き上がったブレトンを見て、エステルが驚愕の声を上げる。
ブレトンは、体中の七割が炭化していた。立っているのが奇跡なほどである。
執念、世界を破壊するのだという執念を、マノンは感じ取った。
「お、お前! いつのまに……」
アーマニタの手から、魔神結晶がダラリとこぼれ落ちる。
「この結晶は、貴様ら魔族の手に余る代物だ。始めから手にする根性のないヤツは、触れるべきではなかったな」
銀の剣を抜くと同時に、ブレトンが魔神結晶を回収した。
「再生ができない!」
「無駄さ。聖剣で傷を付けたのだ。魔族ごときの力では再生しない」
聖なる武具で攻撃されると、魔族はダメージが倍加する。それだけでなく、傷の治りも遅い。
「ついでに貴様の身につけた魔神結晶もいただく」
ブレトンが、魔神結晶をアーマニタの前にかざした。
「いぎぎぎ!」
苦悶の表情を、アーマニタが浮かべる。
「ああああ!」
アーマニタに埋め込まれていた結晶が、ブレトンの持つ大型の結晶へと引き寄せられていく。
大型の魔神結晶は、アーマニタの結晶を吸収した。
結晶を取り戻そうと、アーマニタが大型結晶に手を伸ばす。
魔神結晶の周辺に、恐ろしい影が浮かんだ。それは魔族の顔を形作る。
「こ、これが、ま、魔神だって?」
魔神の復活を、アーマニタは誰よりも待っていたはず。その彼女が、真っ先に腰を抜かした。
「おお、おおおおあばばば! ち、近づけない!」
あれだけ焦がれていたはずの魔神が、目の前にいる。
なのに、アーマニタは尻餅をついて、後ずさりを始めた。
圧倒的な魔力を感じ取って、恐怖に心が支配されてしまっているのだ。
絶望をまき散らそうとする不浄の存在を前に、正気でいられるはずもないだろう。
「あが。あががが」
瑞々しかったアーマニタの皮膚が、みるみる干からびていく。
魔神結晶を失い、パワーが霧散しているのだ。
アーマニタの持っていた結晶を取り込み、魔神結晶が徐々に色を濃くしている。
「ああああ! アタシの結晶が!」
アーマニタの皮膚が、すっかり老いさらばえた。
「貴様にはもう、用はない。そのまま死んでいくがよい」
無慈悲なブレトンは、アーマニタに背を向ける。
「アタシごと取り込んでおくれ! 魔神様と同化したい! 同化したいんだよぉ!」
か細くなった手で、アーマニタが、ブレトンの足下にすがりつく。
「薄汚い魔族の女など、魔神は好みではないとさ」
哀れ、アーマニタは魔神に見初められず、ただの灰となった。
「見るがいい。誇りを失い、闇へと墜ちた騎士の最期を!」
意を決したように、ブレトンが魔神結晶を心臓の位置へ当てる。
ブレトンの身体が、ケイレンを起こした。
魔神結晶が、ブレトンの胸を食い破るかのように、体内へ侵入していく。
半分まで入り込んだところで、魔神結晶は止まった。
あやつり人形のごとき不自然な動きをしながら、ブレトンが立ち上がる。
しかし、目は虚ろで、焦点が合っていない。
魔神結晶の光はほとんど失われていた。
が、潜在する魔力は、アメーヌを滅ぼすには十分すぎだ。
「あのヤロウ、ブレトンを再生しやがった!」
「まずいです。魔神復活の兆候!」
オデットが、担任を引き戻した。
ブレトンの肉体が、魔族のものへと変わっていく。
肌は赤く、血管が浮き出ている。
身につける資格を失ったのか、聖なる装備品がブレトンの皮膚から弾け飛ぶ。
爪は研ぎ澄まされた剣のように鋭い。
「これが、デーモンロード?」
マノンたちは身構える。今ココに、最悪の脅威が復活しようとしていた。冒険者の卵たちの前に。
「なんてパワーなの? 一瞬で存在がかき消されそうよ!」
「ですが、また不完全です! 今のうちにやっつければワンチャンありますよ!」
イヴォンの言葉に付け入るなら、そこが狙い目。力を発揮できないうちに叩く。
「果たしてそう上手くいくかな?」
ブレトンの声帯を借りて、魔神が言葉を話す。
「貴様らなど、ワシが手を下すまでもないわい。こやつらのエサにしてくれる!」
不完全体の魔神が、胸の前で手をかざした。
横へスライドさせると、奇妙な形の魔方陣が発言する。
そこから、眷属のモンスターを大量に発生させた。
「ヘイウッド先生!」
「黙ってろ、いくぞ!」
担任は両腕を伸ばす。
フワリと浮かび上がって、マノンとセラフィマは、地上に降り立った。
だが、担任は崖下へ真っ逆さまに落ちていく。
かと思えば、異様な早さで登ってきた。腕も使わず、駆け足だけで。
身体が軽く小さいからできる芸当なのだろう。それにしても早すぎるが。
「先生!」
「遅れてスマン。よくやった、二人とも。よく生きていた」
独断専行しすぎたセラフィマを特に責めるでもなく、生きていてくれただけで賞賛してくれる。
「あの、ヘイウッド先生、いえ、砂礫公」
セラフィマが、担任に頭を下げた。
「その呼び名はよしてくれ。慣れてなくってな。それに、オレは魔王じゃねえ」
「あなたは砂礫公です! 誰も認めなくても!」
「そっか……」
担任はため息をつく。
「先生、申し訳ございません。あなたを信用していませんでした」
「いいっていいって。オレ様の良さは、オレ様だけが分かってりゃいい。お前さんもお前さんの長所を活かしな」
あぐらをかきながら、担任はセラフィマの膝下をバシバシ叩く。
担任は、マノンと向き合った。
「マノン、学校は、オレ様がウスターシュに掛け合って、なんとかしてみるぜ」
「わたし、学校がなくなったら、どう生きていいのか分からない。エステルとも、離ればなれになっちゃう。エステルにだって生活がある。戦乙女になって、みんなを守る冒険者になって。わたしは女王様を守る騎士になって。でも、何か違う気がする。それが何なのか、分からないよ」
マノンは、感情を吐き出す。
将来は見えてきた。しかし、本当に自分のなりたかったものはこれなのか、判断がつかない。
マノンはずっと考えた。答えが出ないまま。
「自分が何者になるかなんて、すぐに決断できるヤツなんて、そんなにいねえよ。じっくり考えな」
担任は、脂汗をかいている。
「それに、まだ終わってねえ」
担任が、振り返った。
「その通りです。呑気におしゃべりしている余裕はありません、砂礫公!」
オデットは、こちらに背を向けたままである。
唯一飛べる人物が、マノンの手助けをしなかった。
理由は、できなかったからだ。
目の前に、危険な人物が立ち塞がっていたから。彼女をこちらに来させまいと。
突然、足下が激しく揺れた。
再び地震が。
引き起こしたのは、オデットと対峙している、アーマニタだった。
「どいつもこいつも役立たずね! 足止めもできないなんて! いでよ魔神!」
アーマニタが、魔神結晶に呼びかける。
それだけで、アーマニタの美貌が元に戻った。
「アハハハ! 一瞬でヤケドが回復したよ。素晴らしい、さすが魔神結晶の力だね!」
黒焦げから再生したアーマニタが、自分の身体に魔神結晶を埋め込もうとしている。
「やらせません!」
オデットが磁力で、周辺の石を弾丸へと変えた。
ところが、発射する前に石が落下する。
アーマニタが、オデットに向けて手をかざす。
軽く払っただけで、オデットは吹っ飛ばされた。
地面に叩き付けられ、オデットは何度もバウンドする。
「威圧だけで、このパワー。ワタシには止められないようです、砂礫公」
苦々しい顔をしながら、オデットは立ち上がった。
余裕の表情を見せ、アーマニタは結晶を天にかざす。
「ついにアタシは、最強のパワーを手に入れた。力は申し分ないよ! あとはこれを、体内に取り込ん――」
アーマニタの言葉が、途切れた。
腹を、銀の剣が刺し貫いたからだ。
「あいつ、どうして動けるの!?」
起き上がったブレトンを見て、エステルが驚愕の声を上げる。
ブレトンは、体中の七割が炭化していた。立っているのが奇跡なほどである。
執念、世界を破壊するのだという執念を、マノンは感じ取った。
「お、お前! いつのまに……」
アーマニタの手から、魔神結晶がダラリとこぼれ落ちる。
「この結晶は、貴様ら魔族の手に余る代物だ。始めから手にする根性のないヤツは、触れるべきではなかったな」
銀の剣を抜くと同時に、ブレトンが魔神結晶を回収した。
「再生ができない!」
「無駄さ。聖剣で傷を付けたのだ。魔族ごときの力では再生しない」
聖なる武具で攻撃されると、魔族はダメージが倍加する。それだけでなく、傷の治りも遅い。
「ついでに貴様の身につけた魔神結晶もいただく」
ブレトンが、魔神結晶をアーマニタの前にかざした。
「いぎぎぎ!」
苦悶の表情を、アーマニタが浮かべる。
「ああああ!」
アーマニタに埋め込まれていた結晶が、ブレトンの持つ大型の結晶へと引き寄せられていく。
大型の魔神結晶は、アーマニタの結晶を吸収した。
結晶を取り戻そうと、アーマニタが大型結晶に手を伸ばす。
魔神結晶の周辺に、恐ろしい影が浮かんだ。それは魔族の顔を形作る。
「こ、これが、ま、魔神だって?」
魔神の復活を、アーマニタは誰よりも待っていたはず。その彼女が、真っ先に腰を抜かした。
「おお、おおおおあばばば! ち、近づけない!」
あれだけ焦がれていたはずの魔神が、目の前にいる。
なのに、アーマニタは尻餅をついて、後ずさりを始めた。
圧倒的な魔力を感じ取って、恐怖に心が支配されてしまっているのだ。
絶望をまき散らそうとする不浄の存在を前に、正気でいられるはずもないだろう。
「あが。あががが」
瑞々しかったアーマニタの皮膚が、みるみる干からびていく。
魔神結晶を失い、パワーが霧散しているのだ。
アーマニタの持っていた結晶を取り込み、魔神結晶が徐々に色を濃くしている。
「ああああ! アタシの結晶が!」
アーマニタの皮膚が、すっかり老いさらばえた。
「貴様にはもう、用はない。そのまま死んでいくがよい」
無慈悲なブレトンは、アーマニタに背を向ける。
「アタシごと取り込んでおくれ! 魔神様と同化したい! 同化したいんだよぉ!」
か細くなった手で、アーマニタが、ブレトンの足下にすがりつく。
「薄汚い魔族の女など、魔神は好みではないとさ」
哀れ、アーマニタは魔神に見初められず、ただの灰となった。
「見るがいい。誇りを失い、闇へと墜ちた騎士の最期を!」
意を決したように、ブレトンが魔神結晶を心臓の位置へ当てる。
ブレトンの身体が、ケイレンを起こした。
魔神結晶が、ブレトンの胸を食い破るかのように、体内へ侵入していく。
半分まで入り込んだところで、魔神結晶は止まった。
あやつり人形のごとき不自然な動きをしながら、ブレトンが立ち上がる。
しかし、目は虚ろで、焦点が合っていない。
魔神結晶の光はほとんど失われていた。
が、潜在する魔力は、アメーヌを滅ぼすには十分すぎだ。
「あのヤロウ、ブレトンを再生しやがった!」
「まずいです。魔神復活の兆候!」
オデットが、担任を引き戻した。
ブレトンの肉体が、魔族のものへと変わっていく。
肌は赤く、血管が浮き出ている。
身につける資格を失ったのか、聖なる装備品がブレトンの皮膚から弾け飛ぶ。
爪は研ぎ澄まされた剣のように鋭い。
「これが、デーモンロード?」
マノンたちは身構える。今ココに、最悪の脅威が復活しようとしていた。冒険者の卵たちの前に。
「なんてパワーなの? 一瞬で存在がかき消されそうよ!」
「ですが、また不完全です! 今のうちにやっつければワンチャンありますよ!」
イヴォンの言葉に付け入るなら、そこが狙い目。力を発揮できないうちに叩く。
「果たしてそう上手くいくかな?」
ブレトンの声帯を借りて、魔神が言葉を話す。
「貴様らなど、ワシが手を下すまでもないわい。こやつらのエサにしてくれる!」
不完全体の魔神が、胸の前で手をかざした。
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