魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す
マノン怒りの一閃
エステル、マノン、オデットの三人を相手にしても、ブレトンは平然としていた。
特にエステルは、浄焔を一発撃っている。次のチャージまで、どうしても時間が掛かってしまう。
「ブレトン団長、あんた君主クラスよね」
「その通りだ。アークデーモンクラスを倒せるのは、キミの母上だけではない! 私は単独でもアークデーモンを倒したことがあるのだよ!」
聖騎士の上位互換である君主は、彼単体で国が持てるレベルの職業だ。
どうして彼クラスの実力者が、国王の側近に甘んじているのかと思うほどである。
装備品も高級だ。店売りでは絶対に入手できない品々で身を固めている。
スクエア盾に掘られた十文字の装飾は、騎士団の特注品であることを象徴したモノだ。
「そんな人が、どうして魔族と手を組んだのです?」
斬りかかりながら、マノンはブレトンに問いかけた。
「人々が、争いをやめないからだ!」
彼がかつて居住していた国は、戦争で滅びてしまったという。
二〇年前、自分がデーモンロードを倒した。
だが、怒りのはけ口をなくした人同士が争ったのだ。
「魔族という脅威がいなくなって、敵が人間しかいなくなってしまったからだ」
そう、ブレトンは主張した。
アメーヌに落ち延び、腕を買われて騎士団に入隊する。
けれども、堕落した人々を見て、また同じことを繰り返すだろう、と思い悩んでいたのだ。
「だから私は、アメーヌから変えていく。手始めに魔族を呼び出して世間に危機感を与え、我々の力が必要だと知らしめる!」
「最っ低! そのためなら、どんな犠牲を払ってもいいって言うの? あなたのせいで、一人の子どもが死にかけたのよ!」
「死んだなら、それまでのこと!」
ブレトンは、剣を打ち込んできたエステルを、片手剣だけで弾き飛ばす。
「幼い命一つ守れぬ冒険者ごときに、この大地は任せられない!」
違う。
ブレトンのしていることは、彼の言う「愚かな人類」と同じ考えだ。
「人を人と思わない時点で、あなたは正義じゃない! あなたの考えは、魔神と同じ!」
「私が魔神と同レベルだと? ふざけたことを!」
「ふざけているのは、あなたの方です!」
マノンの剛剣が、ブレトンの盾を突き破る。
「私の盾を切り裂くか! 魔族の攻撃すら退ける私の盾を!」
ブレトンが、剣に魔力を注ぎ込む。
灰色の刀身が、美しい銀の耀きを映し出した。
ブレトンが銀の剣を振り下ろす。
幻想的な光は、殺人的な衝撃波へと変わった。
マノンが先頭に立って、刀で衝撃波を受け流す。
行き場を失った衝撃波が、岩と衝突した。
いともたやすく、岩が切断される。
「くう!」
今度は連続で、衝撃波が襲いかかってきた。
マノンは刀を振り、銀色の衝撃波を蹴散らす。
だが、マノンも長くは続かない。もう一度来られたら、今度はさばき切れないだろう。
「貴様、高位の魔族か?」
「そんなわけないでしょ!」
エステルがマノンの盾になり、ブロードソードで衝撃波を受け止める。
だが、エステルが吹っ飛ばされてしまった。マノン共々、地面に叩き付けられる。
「言い訳無用。魔族の血を引く穢らわしい人間め!」
「断じて違います。マノン・ナナオウギさんは、決して魔族の血など引いておりません」
オデットが、マノンたちをかばうように立つ。
「私は見た。貴様が白髪の魔女へと変わるのを!」
マノンたちにトドメを刺そうと、ブレトンが銀の剣で突進してきた。
オデットの爪が、死を運ばんとしてきた切っ先を、磁力を帯びた両の拳で制止する。
「マノンさんは、ワタシと肉体と魂を共有していました。ですが、負荷が掛かりすぎていたのです。ワタシも新しい身体を手に入れなければ、と焦っていました。ようやく身体を手に入れたのですが、マノンさんに驚きの変化が生じていたと知ります」
右拳で刀身を殴り、オデットはブレトンの攻撃をそらした。
左の拳で彼の胸板を叩く。
「ワタシの力を制御することで、マノンさんは生まれた頃からトレーニングされていたのです。それも、魔族や伝説の英雄でさえ逃げ出すほどのレベルで。生まれてから一四年間、ずっとです」
「なんということだ。人の可能性とは、かくも恐ろしい」
剣を構え直すブレトンの顔に、冷や汗が光る。
「それじゃあ、今のマノンは」
「そうですエステルさん、今の貴方より遥かにお強いかと」
もっとも驚いていたのは、他ならぬマノン自身だった。
「わたしに、そんな力が」
「ですが、その力を発揮させるには、マノンさんの身体は弱すぎました。つまり、マノンさんがワタシを制御していたのではありません。ワタシがマノンさんの力をセーブしていたのです。それも、この間までの話」
オデットの言葉を聞き、ブレトンがヒザを屈する。
「そんな。だが、私とてただでは終わらん」
闇雲に、ブレトンは地面に衝撃波を連発した。
「わあああ!」
「おいおいおいおい!」
すぐ側で、リードとイヴォンの悲鳴が上がる。
「見つけたぞ!」
ブレトンの視線の先には、エルショフ理事長が。
光学明細の繊維が破れて、身体を隠せなくなったのだ。
Sランカー冒険者のプライドを傷つけられ、ブレトンはもはや、野盗の領域にまで落ちぶれている。
「逃げてください!」
イヴォンに背中を押され、エルショフ議長が走った。
「逃がさん!」
ブレトンは、エルショフ理事長に向けて、再び衝撃波を放つ。
「お父様!」
セラフィマが、空から二人を抱え上げようとする。
「あああ!」
堕天使セラフィマの両翼が、切り裂かれた。
「よくも……」
友人を傷つけられ、マノンの感情が爆発する。
自分でも信じられないほどの速度で、マノンはブレトンの攻撃をすり抜けていく。
電光石火の一撃により、マノンはブレトンの胴を薙いだ。
「ぬううう!」
脇腹から出血し、ブレトンは苦悶の表情を浮かべる。だが、尚も攻撃をやめようとしない。
「この程度では、私は!」
「じゃあもっと痛くしてあげるわ」
ブレトンの注意がセラフィマたちへと向いている間に、エステルはブレトンの背後に回っていた。
ランチャーの銃口が大きく開く。
「浄焔!」
あらゆる業・邪念・罪を焼き尽くす炎の光芒が、エステルのランチャーから放たれた。
不死鳥の如く燃えさかる爆炎が、ブレトンを焼き尽くす。
ゼロ距離で浄焔を撃たれ、ブレトンは黒焦げに。
「死にはしないわ。これでも調整したのよ」
クールダウンのため、ランチャーから煙が上がった。
セラフィマが、エルショフ議長の元へ向かう。
直後、地震が発生した。
「何があったの?」
「戦闘で地盤が耐えられなくなったんだよ!」
ネリーが、ゴーレムの腕だけを作り上げ、その場にいる人々をムリヤリどける。
「マノンも!」
「わたしはいいから他の人を優先して」
力を使い切り、マノンも弱っていた。しかし、助け出さねばならない人が多くいる。
理事長まで救い出し、あとはマノンたちだけだ。
地割れが起きて、崖が崩れ始めた。
「きゃあああ!」
セラフィマが、崖から落ちそうになる。飛ぶ力を失っていては、谷底へ真っ逆さまだ。
手を伸ばし、マノンはセラフィマの腕を掴む。
「セラフィマ!」
理事長がセラフィマを助け出そうとする。
が、エステルが「ダメ!」と羽交い締めにした。「今行けば、全員が落ちてしまうわ!」
崖にヒビが入る。激闘のせいで、地盤が緩んでいるのだ。マノン以外の体重が乗れば、崖が崩れてしまう。
「そうだわ、ネリーのゴーレムは?」
「ゴメン無理ィ!」
ゴーレムを作れたとしても、自重で崖の下に沈む。
「なんでですの? わたくしはあなたを落第生として情けをかけようとしていましたのよ?」
「今あんたを助けられるのは、わたしだけ。だったら、やるべきことは一つ!」
「このままでは二人とも落ちてしまいます。手をお離しなさい!」
「いやだ! セラフィマは死なせない!」
腕の力は、限界に近い。
それでも、力の続く限りは、セラフィマを引っ張り上げる。
「もう少し」
片方の手を伸ばして、どうにかセラフィマを引き上げた。
しかし、重さに耐え切れなくなり、完全に崖が崩壊する。
「そんな!」
「マノンさん!」
二人から、重力が消えた。ここまでか。
だが、一向に落下する気配はない。
崖下から、担任が二人を支えたのだ。
特にエステルは、浄焔を一発撃っている。次のチャージまで、どうしても時間が掛かってしまう。
「ブレトン団長、あんた君主クラスよね」
「その通りだ。アークデーモンクラスを倒せるのは、キミの母上だけではない! 私は単独でもアークデーモンを倒したことがあるのだよ!」
聖騎士の上位互換である君主は、彼単体で国が持てるレベルの職業だ。
どうして彼クラスの実力者が、国王の側近に甘んじているのかと思うほどである。
装備品も高級だ。店売りでは絶対に入手できない品々で身を固めている。
スクエア盾に掘られた十文字の装飾は、騎士団の特注品であることを象徴したモノだ。
「そんな人が、どうして魔族と手を組んだのです?」
斬りかかりながら、マノンはブレトンに問いかけた。
「人々が、争いをやめないからだ!」
彼がかつて居住していた国は、戦争で滅びてしまったという。
二〇年前、自分がデーモンロードを倒した。
だが、怒りのはけ口をなくした人同士が争ったのだ。
「魔族という脅威がいなくなって、敵が人間しかいなくなってしまったからだ」
そう、ブレトンは主張した。
アメーヌに落ち延び、腕を買われて騎士団に入隊する。
けれども、堕落した人々を見て、また同じことを繰り返すだろう、と思い悩んでいたのだ。
「だから私は、アメーヌから変えていく。手始めに魔族を呼び出して世間に危機感を与え、我々の力が必要だと知らしめる!」
「最っ低! そのためなら、どんな犠牲を払ってもいいって言うの? あなたのせいで、一人の子どもが死にかけたのよ!」
「死んだなら、それまでのこと!」
ブレトンは、剣を打ち込んできたエステルを、片手剣だけで弾き飛ばす。
「幼い命一つ守れぬ冒険者ごときに、この大地は任せられない!」
違う。
ブレトンのしていることは、彼の言う「愚かな人類」と同じ考えだ。
「人を人と思わない時点で、あなたは正義じゃない! あなたの考えは、魔神と同じ!」
「私が魔神と同レベルだと? ふざけたことを!」
「ふざけているのは、あなたの方です!」
マノンの剛剣が、ブレトンの盾を突き破る。
「私の盾を切り裂くか! 魔族の攻撃すら退ける私の盾を!」
ブレトンが、剣に魔力を注ぎ込む。
灰色の刀身が、美しい銀の耀きを映し出した。
ブレトンが銀の剣を振り下ろす。
幻想的な光は、殺人的な衝撃波へと変わった。
マノンが先頭に立って、刀で衝撃波を受け流す。
行き場を失った衝撃波が、岩と衝突した。
いともたやすく、岩が切断される。
「くう!」
今度は連続で、衝撃波が襲いかかってきた。
マノンは刀を振り、銀色の衝撃波を蹴散らす。
だが、マノンも長くは続かない。もう一度来られたら、今度はさばき切れないだろう。
「貴様、高位の魔族か?」
「そんなわけないでしょ!」
エステルがマノンの盾になり、ブロードソードで衝撃波を受け止める。
だが、エステルが吹っ飛ばされてしまった。マノン共々、地面に叩き付けられる。
「言い訳無用。魔族の血を引く穢らわしい人間め!」
「断じて違います。マノン・ナナオウギさんは、決して魔族の血など引いておりません」
オデットが、マノンたちをかばうように立つ。
「私は見た。貴様が白髪の魔女へと変わるのを!」
マノンたちにトドメを刺そうと、ブレトンが銀の剣で突進してきた。
オデットの爪が、死を運ばんとしてきた切っ先を、磁力を帯びた両の拳で制止する。
「マノンさんは、ワタシと肉体と魂を共有していました。ですが、負荷が掛かりすぎていたのです。ワタシも新しい身体を手に入れなければ、と焦っていました。ようやく身体を手に入れたのですが、マノンさんに驚きの変化が生じていたと知ります」
右拳で刀身を殴り、オデットはブレトンの攻撃をそらした。
左の拳で彼の胸板を叩く。
「ワタシの力を制御することで、マノンさんは生まれた頃からトレーニングされていたのです。それも、魔族や伝説の英雄でさえ逃げ出すほどのレベルで。生まれてから一四年間、ずっとです」
「なんということだ。人の可能性とは、かくも恐ろしい」
剣を構え直すブレトンの顔に、冷や汗が光る。
「それじゃあ、今のマノンは」
「そうですエステルさん、今の貴方より遥かにお強いかと」
もっとも驚いていたのは、他ならぬマノン自身だった。
「わたしに、そんな力が」
「ですが、その力を発揮させるには、マノンさんの身体は弱すぎました。つまり、マノンさんがワタシを制御していたのではありません。ワタシがマノンさんの力をセーブしていたのです。それも、この間までの話」
オデットの言葉を聞き、ブレトンがヒザを屈する。
「そんな。だが、私とてただでは終わらん」
闇雲に、ブレトンは地面に衝撃波を連発した。
「わあああ!」
「おいおいおいおい!」
すぐ側で、リードとイヴォンの悲鳴が上がる。
「見つけたぞ!」
ブレトンの視線の先には、エルショフ理事長が。
光学明細の繊維が破れて、身体を隠せなくなったのだ。
Sランカー冒険者のプライドを傷つけられ、ブレトンはもはや、野盗の領域にまで落ちぶれている。
「逃げてください!」
イヴォンに背中を押され、エルショフ議長が走った。
「逃がさん!」
ブレトンは、エルショフ理事長に向けて、再び衝撃波を放つ。
「お父様!」
セラフィマが、空から二人を抱え上げようとする。
「あああ!」
堕天使セラフィマの両翼が、切り裂かれた。
「よくも……」
友人を傷つけられ、マノンの感情が爆発する。
自分でも信じられないほどの速度で、マノンはブレトンの攻撃をすり抜けていく。
電光石火の一撃により、マノンはブレトンの胴を薙いだ。
「ぬううう!」
脇腹から出血し、ブレトンは苦悶の表情を浮かべる。だが、尚も攻撃をやめようとしない。
「この程度では、私は!」
「じゃあもっと痛くしてあげるわ」
ブレトンの注意がセラフィマたちへと向いている間に、エステルはブレトンの背後に回っていた。
ランチャーの銃口が大きく開く。
「浄焔!」
あらゆる業・邪念・罪を焼き尽くす炎の光芒が、エステルのランチャーから放たれた。
不死鳥の如く燃えさかる爆炎が、ブレトンを焼き尽くす。
ゼロ距離で浄焔を撃たれ、ブレトンは黒焦げに。
「死にはしないわ。これでも調整したのよ」
クールダウンのため、ランチャーから煙が上がった。
セラフィマが、エルショフ議長の元へ向かう。
直後、地震が発生した。
「何があったの?」
「戦闘で地盤が耐えられなくなったんだよ!」
ネリーが、ゴーレムの腕だけを作り上げ、その場にいる人々をムリヤリどける。
「マノンも!」
「わたしはいいから他の人を優先して」
力を使い切り、マノンも弱っていた。しかし、助け出さねばならない人が多くいる。
理事長まで救い出し、あとはマノンたちだけだ。
地割れが起きて、崖が崩れ始めた。
「きゃあああ!」
セラフィマが、崖から落ちそうになる。飛ぶ力を失っていては、谷底へ真っ逆さまだ。
手を伸ばし、マノンはセラフィマの腕を掴む。
「セラフィマ!」
理事長がセラフィマを助け出そうとする。
が、エステルが「ダメ!」と羽交い締めにした。「今行けば、全員が落ちてしまうわ!」
崖にヒビが入る。激闘のせいで、地盤が緩んでいるのだ。マノン以外の体重が乗れば、崖が崩れてしまう。
「そうだわ、ネリーのゴーレムは?」
「ゴメン無理ィ!」
ゴーレムを作れたとしても、自重で崖の下に沈む。
「なんでですの? わたくしはあなたを落第生として情けをかけようとしていましたのよ?」
「今あんたを助けられるのは、わたしだけ。だったら、やるべきことは一つ!」
「このままでは二人とも落ちてしまいます。手をお離しなさい!」
「いやだ! セラフィマは死なせない!」
腕の力は、限界に近い。
それでも、力の続く限りは、セラフィマを引っ張り上げる。
「もう少し」
片方の手を伸ばして、どうにかセラフィマを引き上げた。
しかし、重さに耐え切れなくなり、完全に崖が崩壊する。
「そんな!」
「マノンさん!」
二人から、重力が消えた。ここまでか。
だが、一向に落下する気配はない。
崖下から、担任が二人を支えたのだ。
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