魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

真犯人は?

 マノンは、小屋らしき場所で目を覚ます。


 廃砦を改装した簡単な作りだ。


 学校を飛び出して、いつもの砦に向かおうとした。
 その道中で、セラフィマの父親が連れて行かれるのを目撃する。
 阻止しようとしたが、力及ばず自分も気を失ってしまったのだ。


 人数は一四人いる。冒険者の姿も。


 アーマニタが、中央に座ってワインの入ったグラスを傾けている。


 その隣には見覚えのある人物が。


「あなたは!?」


 なんと、首魁は騎士団長のブレトンだった。


「お目覚めか」


 マノンは飛びかかりかけた。
 しかし、縄で縛られていることを忘れ、つんのめってしまう。
 頬を床へ、したたかにうちつける。


「大丈夫かい?」
 隣で縛られているエルショフ理事長が、マノンに語りかけた。


 エルショフ理事長は、手足を縛られて翼に細工を施されている。
 やや疲労の色が見えた。が、ケガ一つしていないのが幸いか。
 とはいえ、完全な商売人である理事長に、戦闘能力はない。
 彼では、この場を制圧できないだろう。


「すいません。今すぐ助けます」


「いや、無駄なことはせんでいただきたい」
 ブレトンが、自身の剣で床を叩いた。


「騎士団長、どうしてこんなことを?」


「人類に、世界の危機を悟らせるためだ」
 さも当たり前のように、ブレトンは平然と答える。


「あなたは、世界の味方ではなかったのですか?」


「味方なモノか。我々エルフにとって、人類は等しく無価値なモノだ」
 騎士団長は、長い髪をかき上げた。長い耳が見える。


「今のエルフは、差別主義者ではないと聞きましたが?」


「エルフ族の多くは、ね。だが私は違う。争いしか知らぬ人間になど、価値がない!」
 言って、ブレトンは顔をしかめた。


「狙いは、女王陛下の命ですか?」


「あのような傀儡を排除したとて、首が入れ替わるだけ。この世界を変えるには、根本から正さねばならない。まずは、砂礫公のような矮小な魔王に依存している、この世界をな」


「担任は、王様を陰で操るような卑劣漢じゃない。むしろ、魔族と手を組んでいるあなたの方がよっぽど情けない」


 ブレトンは、好きなだけマノンに言わせる。
 マノンに怒りをぶつけるでもなく、暴力を振るってくるでもなく。


「こちらが魔族を利用しているのだ。精霊さえいれば、魔神結晶は浄化できる。実験したからな」


「実験? するとあなたが!」


 トレントなどの精霊を作り上げて、ムリヤリに魔神結晶を浄化させる実験だったと。


「土地の精霊を犠牲にして、魔神結晶をキレイにするつもりなの? より安全な方法があるはずなのに!」
「冒険者学校などというヌルい制度では、時間が掛かりすぎる。あれでは、魔神の完全浄化などできん! もっと合理的で効率的でなければ!」


 まるで、魔神を弱らせるためなら、他のモノはどうでもいいという言い方である。


 マノンは腹を立てた。
「それじゃあアーマニタ、あの魔族はどうして協力を?」


 魔神を殺すためならば、魔族は協力しないはずだ。


「力を制御したいらしい。魔神を呼び出すのではなく、自らが魔神となるためにな」


 魔神結晶は使い方を誤ると、魔族にすらコントロールできない。
 感情を魔神に乗っ取られてしまうからだ。
 いつぞやのモニクみたいに。


「意識を、取り込まれてしまうから」
「よく知っているな」


 そうやって魔神結晶は、人から人へ渡り、宿主に暴れさせて、力を蓄えるのだ。
 古の時代から、多くの魔神が生まれては倒されている。
 担任も、魔神結晶で魔神となった人物を倒し、砂礫公となった。


「魔神に栄養を与えて肥え太らせ、一気に浄化して力を我が物とする計画が台無しだ。貴様ら新米どものせいでな!」


 騎士団や冒険者の動きが鈍かったのは、これが原因か。
 ブレトンが情報をシャットアウトしていたのだろう。


「冒険者は、あなたが買収した?」


「しょうもない任務ばかりで、彼らも飽き飽きしていたのさ。ただ、私に協力してくれたのは、ほんの数名だが。どいつもこいつも冒険バカばかりで、話を理解しようともしない」


 そうじゃない。間違っているのは、ブレトンの方だ。


「あなたのような弱虫に、冒険者は屈しない!」
「なんとでも言え。我々は目的を遂行するだけだ」


 他の冒険者も、ブレトンの意見にうなずいている。


「魔族に雇われて、冒険者と言えるの?」
「魔物に勉強を教わっているお前が言えたことか!」


 不自由ながら両足を動かして、マノンはその場にいた冒険者のスネを蹴った。


 冒険者がバランスを失い、転倒する。


「このアマ、ぶっ殺してやる!」
 目を血走らせながら、冒険者がナイフを取り出した。刃をマノンにちらつかせる。


 マノンは怯まない。下手に動けば殺されるだろう。
 だが、みすみす殺されたりはしない。


「やめな! 人質の意味がなくなる」
 アーマニタが、冒険者の手首をパラソルで叩いた。


 ナイフが床に転がっていく。


 マノンはナイフに視線が移った。
 どうにかして手元に。
 もぞもぞと動いて、そっとナイフを掴もうとする。


「バカな考えはよすんだ」
 だが、ブレトンもマノンの動きを察したようだ。床のナイフを拾い上げる。 


「で、こいつはどうする?」
 アーマニタが、マノンに視線を向けてきた。


「武器も取り上げている。たいした抵抗もできんさ。ただし殺すなよ。この娘がいれば、ウスターシュや砂礫公はうかつに手出しできん。それより問題はエルショフ理事長だ。金が手に入れば解放してやれ」 


「指示してんじゃねえよ、テメエ。金をちょうだいしたら、おっさんは始末する」
 冒険者の一人が、手持ちのナイフを弄ぶ。


「魔族と正当な交渉ができると思わないことさ」
 続けてアーマニタが、パラソルをなでる。


「約束が違うぞ! 最低限の安全は保証するんじゃなかったのか!」
 話を聞き、ブレトンが剣を抜く。


「うるさいね、堕天使は信用できないんだよ!」


 エルショフ財団は、魔族たちから目の敵にされていた。


 いくら天界を追放されたとはいえ、まだ堕天使たちは優位な権力は保持している。
 闇の勢力でありながら、魔族などのダークサイド勢力を排除することに積極的だ。
 毒をもって毒を制するという発想が、彼らにはあった。


 また、魔族を排除しているといった依頼を「高尚な依頼」と受け止めている。
 ゆえに、セラフィマのような「度を超して意識の高い冒険者たち」も多い。
 そんな環境であるため、「小さな依頼でも見捨てない冒険者」が育ちにくい。


「アタシのブラザーも、こいつにどれだけやられたか!」
 興奮したアーマニタが、手に持っていた酒瓶をたたき割る。


「だからこうして、温情で生かしてやっているのではないか!」
「その上から目線が、気に入らないんだよ!」


 エルショフ理事長の生死を巡って対立しているようだ。一連の犯行は、どうも逆恨みらしい。


 ブレトンとアーマニタで、勢力が半分に分かれる。


「はいドーン!」
 床から、巨大な手が突き出た。その勢いで、天井をも突き破る。ゴーレムの腕だ。


 多くの冒険者が、ゴーレムの腕に殴られて吹っ飛ぶ。


「何事だい!」
 混乱気味のアーマニタが、床に開いた穴に注目する。


 穴から出てきたのは、エステルと副担任のオデットだ。


「邪魔が入ったね。だがいいわ。全員纏めて眠らせて、ヒドラの餌にしてやるわ!」


 アーマニタが、催眠ガスを噴射しようとパラソルを構えた。
 しかし、いくらスイッチを押してもガスが出てこない。


 マノンが、背後から、アーマニタのヒザを蹴り飛ばした。


 ガクン、とアーマニタが体勢を崩す。


「なんでキノコガスが出てこない?」
 アーマニタが、パラソルの先を確認する。
 わずかだが、先端が氷に覆われていた。


「縛られている間、わたしが何もしていないと思った?」




 気づかれない程の冷気を発動させ、マノンはパラソルの噴射口だけ凍らせていたのだ。




「おのれ!」
 パラソルが、エステルのブロードソードによって切り裂かれる。


 どういう技術か分からないが、リードとイヴォンが背景に紛れていた。
 解放したエルショフ理事長を連れ去る。


「冒険者だと? でもガキだ! やっちまえ!」
 ヤケを起こした冒険者たちが、武器を振り上げた。こちらへと向かってくる。


 鬼の形相となったエステルが、ランチャーにブロードソードを食わせた。


「あんたらに蘇生はナシよ! 浄焔セイクリッド・ブレイズ!」


「それはダメ!」


 マノンは、吹雪を発動させる。
 いくら怒りにまかせた攻撃だからと言って、友人を人殺しにはさせられない。


 エステルの放った火の鳥と、マノンの吹雪が合わさって、高温の水蒸気が発生した。
 ダメ押しで、セラフィマが鉄の扇で水蒸気を仰ぐ。


 蒸気が、冒険者たちの肌や呼吸器を容赦なく焼いた。


「ぎゃああああ!」


 威力を弱めるつもりが、さらに悪化する。
 大やけどを負った冒険者たちが、砦の外へと退散していく。


 そのスキにリードたい二人が、エルショフ議長を連れて砦を脱出した。


 どさくさに紛れて、冒険者たちも逃げ出そうとする。


「あなた方は、絶対に逃がしません」
「やっちゃって、オデりん!」


 ネリーの作ったゴーレムが、岩を放り投げた。


 オデットは空中でキリモミをして、岩を砕く。
 粉々になった小石に磁力を載せる。


 弾丸と化した石つぶてが、冒険者たちに降り注ぐ。
 手足を打ち抜かれ、冒険者たちは身動きが取れなくなった。


「あとは、騎士団の仕事です。もっとも、リーダーはあのザマですが」


 オデットは、最後に残ったブレトンを睨む。


 全ての作戦をメチャクチャにされ、ブレトンは顔をしかめていた。


「やってくれるじゃないの、アンタたち!」
 もう一人、アーマニタもパラソルをへし折って怒り狂う。


「全員まとめてヒドラ穴に落ちな!」
 パラソルを捨てて、アーマニタは印を結んだ。


 アーマニタの周囲が光り出す。


「ヒドラ穴って?」


「あの魔族は、この砦の地下にある魔神結晶を取ろうとしていたようなんです。けれど、ヒドラに邪魔をされていました」


 オデットがそう教えてくれた。


 おそらく、不要になった人間をヒドラの巣に落とすか、「指示に従わなければヒドラにエサにする」とでも言って、協力者を脅していたのだろう。


 体長が一〇メートルもある大蛇が、地面を突き破って現れた。
 八本もの頭が、一斉にマノンたちを向く。


「アハハハハ! 腹が減っているところだろ? 女の肉を食って肥え太りな! その後、学校を襲ってみんな骨にしてやる」


 ヒドラを操っているアーマニタが、不気味に口角をつり上げる。


「エサになるのは、テメエだ!」


 ロープを手綱がわりにして、ヒドラを操縦している男がいた。


 担任だ。


「ぎゃははは! 死神様の登場だぜ!」

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