魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

ヒドラとの死闘!

「大物登場だね。任せて!」
 ネリーのゴーレムが、ヒドラの前に立って壁になる。


「下手に手を出すんじゃねえ!」


「え? うわ!」


 猛烈な勢いで、ヒドラがゴーレムに巻き付いた。


 慌てて、ネリーがゴーレムの肩から飛び退く。


 ヒドラの拘束力によって、泥でできたゴーレムがたやすくひねり潰される。


「えーどうして?」
「ここの土で作ってるからな。もろいんだ!」


 オデットがゴーレムと交代して、ヒドラを防ぐ。


「ネリーさんは、先を急いでください! ここはワタシが止めます!」
 磁力を操作して、オデットは指弾をヒドラに打ち込む。


 ヒドラのシッポが、ネリーに襲いかかる。
 壁を崩してスピードは落ちていたが、勢いは止まらない。


「危ない!」


 身を挺してネリーをかばったのは、イヴォンだった。
 こういう痛い仕事を、誰よりも嫌がっていた彼が。


「ありがとう。助かったよ! ってイヴォン!」


 よく見ると、イヴォンの背中が斜めに切り裂かれていた。


「あっはは。油断しちゃいました」
 強がっているが、イヴォンは唇が変色していく。


「あんた、危ないことは嫌いだったんじゃなかったっけ?」


 イヴォンを狙ったヒドラの追撃を、ネリーがゴーレムで押さえ込む。


「痛いです。でも、あなたが生きていないと全員死んじゃいますから」


 背中の痛みをこらえ、イヴォンが立ち上がった。しかし、すぐにヒザを崩す。


 救出に向かいたいが、ヒドラの頭が攻撃を続けている。
 ジャレスは攻撃をさばくことに手一杯で、イヴォンの元へ行けない。


「よくもイヴォンを!」
 エステルがランチャーを構え、セラフィマが鉄の扇を羽ばたかせた。
 セラフィマとエステルが、同時に攻撃をしようとする。


「セイクリ……」


「よせ二人とも! お前らの攻撃じゃ、このダンジョンも潰しちまう!」


 二人の思考は分かった。エステルの炎を、セラフィマの風で巻き上げる算段だろう。
 再生力の高いヒドラを倒すには、高い攻撃力を要求されるから。


 そこまでは正解だ。


 しかし、この狭い空間でそんな大技を繰り出せば、ダンジョンごと吹き飛ぶ。
 ヒドラどころか、砦にいいる盗賊たちさえ巻き込めるはずだ。
 しかし、捕まっているマノンさえ、巻き添えになってしまう。


「血が止まらない! このままじゃイヴォンが死んじゃうよ!」
 イヴォンの背中から流れる血を押さえ、ネリーが悲痛な叫び声を上げる。


「ご無理をなさらず」
 オデットが、イヴォンの背中に手を当てた。


 致命傷を受けていたイヴォンが、みるみる回復していく。


「痛みが一瞬で引きました! 何をしたんですか? 副担任は、回復系のジョブじゃないですよね?」
「ワタシの力をほんの少しですが分けて差し上げました。これで傷は癒えたかと」
 イヴォンに興味をなくしたかのように、オデットは指弾をヒドラに浴びせ続ける。


「ありがとうございます! でも、大丈夫なんですか? 戦闘能力に支障が出るのでは」


「あなたを治療した程度で衰えるほど、ヤワではありません」
 オデットの発言には、少しの強がりもない。


「それよりもリードさん、これを」


「おうさ。そらっ!」
 リードがオデットに指示され、イヴォンに手製の布を被せる。


 イヴォンたちの姿が見えなくなった。


「こいつは俺たちが見ておく。担任! 急いで上に上がるぜ!」


「頼む。ネリー、先へ進め!」
 ジャレスが告げると、ネリーは新たなゴーレムを作り上げた。再び道を作っていく。


「さてと」
 ジャレスは、ヒドラを睨む。


「エステル、ネリーたちを頼むぜ!」
「はあ? カッコつけてんじゃないわよ! アンタも急ぎなさいよ!」


「カッコなんかつけてねえ!」
 ジャレスは、エステルの背中をムリヤリ押す。


「ゴーレムは必要! イヴォンの知恵やリードの装備も、マノン救出の役に立つ。なにより、お前があいつの側にいねえでどうする!」


「それは、こっちのセリフなんだけど!?」
 エステルが、唇を噛みしめた。


「悔しいけど、あの子はあんたが大事みたい。でも、あたしの武器じゃこの洞窟まで壊してしまう。あんたに頼るしかないわ」




 上を見上げた後、エステルは再びジャレスを見る。




「だから、絶対に生きて上がってきなさいよね!」




「ヘン、オレ様を誰だと思ってやがる!」


 ジャレスが言うと、エステルはニッと笑って上へ。 


「担任、あれを!」


 スケルトンが、ヒドラにまたがっていた。
 多分、このガイコツは盗賊の頭だ。
 正確には、頭だったものである。彼がクビからぶら下げているのは……。


「魔神結晶だ!」


 おそらくヒドラは、魔神結晶のせいで凶暴化しているのだろう。
 とはいえ、知能のないヒドラでは、力をうまく押さえ込めない。本能のままに動いている。


「あの魔神結晶を止めれば、勝機はあるかと」


 血の色に光る首飾りに、オデットは照準を合わせた。


 だが、ジャレスはオデットの方を掴む。


「いや、お前さんは上に行ってやってくれ」
「お一人で相手をするおつもりですか?」
「ああ。こいつを上に連れて行く!」


 仕留めるには時間が掛かる。
 かといって上に上がっても、ヒドラにやられたら全員おしまいだ。


 ならば、後者に賭ける。


「では担任、活躍を期待します」
 上へと登っていくオデットを確認して、ジャレスはヒドラを睨んだ。


「さてと、待たせたな」


 スケルトンが、下にいるジャレスを見据えた気がした。


 ヒドラの首をすり抜け、一気にスケルトンへ距離を詰める。


 なにもヒドラを相手にする必要はないと分かれば、対処はしやすい。


 ヒドラの牙を避けつつ、背中によじ登る。
 暴れさせるため、胴体に傷を負わた。


 ヒドラは首は再生するが、支点である身体は再生しない。
 殺すなら胴体を狙う方がいいのだ。
 とはいえ、頑強なヨロイで覆われているため、強力な技を必要とする。


 エステルの攻撃がより精密でピンポイントであれば、有効だっただろう。


 だが、ジャレスも人のことが言えない。
 ジャレスの全力攻撃も、このダンジョンに被害を及ぼしてしまう。


 スケルトンが、バランスを崩す。


「邪魔するぜ、ガイコツヤロウ!」
 背中の上で、スケルトンと向き合った。


 スケルトンの首には、金色のネックレスがぶら下がっている。


 魔神結晶が、赤紫色の光を放つ。
 まるでジャレスを視認しているかのように。


「力を持つのに相応しくねえって認定されたか。で、肉体だけ食われたと。ギャハッ、ざまぁねえな!」


 ジャレスの挑発に反応したのか、スケルトンが円月刀を乱暴に振り回す。


「オホホ、しっかり狙えよヘタクソ!」


 スケルトンの攻撃を、ジャレスは適度な攻防ですり抜ける。


 とにかく、スケルトンをヒドラに集中させない。


「へっへーん! 魔神結晶もロクに活かせねえポンコツが!」


 ヒドラやスケルトンの攻撃をかわしつつ、ヒドラを穴へと誘導する。
 背中や首筋を銃で撃ち、ヒドラを苛立たせた。
 スケルトンと戦っているフリをして、ヒドラを操る。


 しかし、死角からヒドラの頭が、ジャレスの銃を奪う。
 銃が財宝室の端に落ちる。


 せっかく誘導していたのに、ジャレスだけが戻る羽目になってしまった。


 スケルトンが引き返してくる。
 作戦に気づいたのか、それともジャレスを押しつぶそうとしてか。


「おっと!」
 ヒドラの突進を、ジャレスはギリギリでかわした。


「こっちだこっち!」
 ジャレスはネリーの開けた穴を、出口目指して猛ダッシュする。


「オレ様を殺したいんだろ? ついて来いよ!」


 自分の尻を叩き、再びスケルトンを挑発した。


 怒り狂ったスケルトンが、ヒドラをけしかけて追撃してくる。


「どうしたどうした。オレはココだぜ、このノロマ!」
 足の速さなら負けない。ジャレスは一気に穴を駆け上がった。

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