魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

マノン救出作戦

 セラフィマの後を追い、ジャレスとエステルも現場に向かう。


 誘拐された場所で、セラフィマが立ち尽くす。
 壊された馬車が、山道に捨てられていた。


 セラフィマの表情が曇っている。


「セラフィマ! 独断は危険よ!」
「だって、お父様が!」


 エステルが止めるが、セラフィマは止まらない。また馬を走らせる。


 現場である廃砦の前に到着した。
 敵に気づかれないよう、慎重に馬を止める。


 数名の騎士が、現場で立ち尽くしていた。
 貴族が人質にいる以上、迂闊に手出しできない。


 そんな中、セラフィマだけが進もうとする。 


「空を飛べるわたくしが、様子を見ますわ!」
 飛び立とうとしたセラフィマを、ジャレスが止めた。


「そんなことをしたらバレる。堕天使なのになぜ飛んでないのか、よく考えてみな」


 悔しげな表情を見せ、セラフィマは羽根を閉じる。


「オレ様が行く。エステルはセラフィマが無茶をしないように見張っておけ」


「ちょっと担任! あんたいつの間に」


 エステルが大声を上げようとして、ジャレスが口に指を当てた。


 エステルも慌てて口を閉じる。


「こうしていれば、オレ様はタダのゴブリンだ。オレ様なら奴らを油断させられるだろう」


「一人で行っても、殺されに行くようなものじゃない!」
 エステルがジャレスの腕を掴む。


「オレ様のせいで、マノンが捕まったんだ。オレ様が助けに行くのが筋だ」


「だから犬死にするっての? 呆れた。アンタの言い方だと、本当に助けに行かなきゃ行けないのは、誤解を招いたセラフィマなのよ」


 ジャレスの決意を、エステルはバッサリと切り捨てる。


 更に落ち込むセラフィマに、エステルはさらに追い打ちをかけた。


「アンタには悪いけど、あたしはあんたらが何をしているのか、冒険者学校をどうしたいのかなんてどうでもいいのよ。あたしはあたしの目的を果たすだけ。今はどうやってマノンを助け出すかどうかだけに集中して」


 八方塞がりの中、後ろから、グラスワンダーの少年が声をかけてくる。
「一人じゃなきゃいいんですよね、先生?」


「あんた、イヴォン!」
 その少年を見て、エステルは声を上げた。


「このまま罵り合いをしてもラチがあかなかったので、この土地に詳しい生徒をお連れしました」


「えへへ。僕、この土地の郷土史を専攻しておりまして」
 イヴォンが地図を広げる。


「この砦なんですが、地下トンネルがありまして。地元の人でも知らないんですよ」


「なんで、地元民が知らないんだよ」


「魔族が住み着いている、という噂が立って、誰も近づかなかったんですよ。縁起が悪いからって。盗賊のアジトとしても利用されていた時期があるんですが、天井が崩落して全滅しまして」


 財産を埋めた地下トンネルがあるという。
 そこは、丘の下にある崖と繋がっているのだとか。
 砦に隠した財産を、船で運ぶ算段だったらしい。
 しかし、地震で天井が落ちて全員が下敷きになったと。


「トンネル使えねえじゃねーか」


「ご安心あれ。このルート、先の盗賊が掘った後に新しく作り直すんです」
 イヴォンが地図に書いたルートを指でなぞる。


「新しいルートなんて、どうやって作るんだよ?」
「いるじゃないですか。土に詳しくて、地面を掘る専門家が」


 周囲の視線が、一人の少女に集中した。


「あーオイラか。よっしゃ。任しといてよ」」
 ネリーが腕をまくる。白い歯を光らせながら。


「しかし、モンスターがいる可能性だってあるぜ」


 地下に住み着いているなら、そのモンスターに発覚する恐れもある。 


「そんなこともあろうかと、もうおひと方」


「よっ」と、リードが挨拶した。


「ジャーン。見ろよこれ、光学迷彩だ」


 リードが持っているのは、見えないマントだ。
 自分の顔に、リードはマントを近づける。
 顔が首から下が映らず、背景が映っていた。


「俺らリザードマンだって、武器や防具を作れる。しかし強度や切れ味ならどうしてもドワーフに劣る。そこでだ。特殊技能を持った武装を提供しているんだ」


 この迷彩マントは、リードの自信作らしい。


「これだけありゃあ、マノンを救い出すことはできるだろう」
 イヴォンとリードが、ジャレスに頭を下げる。


「頼むぜ先公。俺らにとってマノンは救いだ。あいつは冒険者としての成績は悪いが、座学は敵なしだ。よくノートを写させてもらった」


「僕も、ナナオウギさんから多くのアドバイスを受けました。このトンネルも、彼女の推理力から導き出したのです」


 二人とも、マノンに恩があるらしい。


「分かったぜ。必ず助ける」
 渋々と言った様子で、エステルも承諾した。


「分かったわ。今日は担任、あんたに全部託すわよ。しくじったらアタシがあんたを」
「それでいい。じゃあ、いっちょ行きますか!」




 ネリーのゴーレム魔法によって、トンネルを掘り進む。


 土を片っ端からゴーレム化して、壁に変化させていった。そうやって、崩落していないルートを探る。


「思えば、ダンジョン攻略って始めてかも」
 ザクザクと広がっていく洞窟を進みながら、エステルがつぶやく。


「教えてなかったからな。手頃なダンジョンも、オレ様がブッ潰しちまったし」


 手頃なダンジョンは盗賊団が住み着き、ジャレスが撃退の際に砲撃で破壊してしまった。


 討伐依頼のあるダンジョンは、軒並み平穏になった上に、魔族関連の事件も起きている。
 これではのんびり訓練どころではない。


「森を経験したマノンが、うらやましいわ」


「そのうち、イヤでも攻略する羽目になるさ」
 松明を掲げながら、ジャレスは進めそうな道を探す。


「気をつけろよネリー。思っていたより地盤が緩い。ヘタをするとオレ様たちも下敷きになる」


「センセ、ノームにそれ言う?」


 確かに。餅は餅屋か。
 実際、ネリーはうまくやれていた。ゴーレムを作りつつ、崩れそうな場所は避けている。


「奥に反応があるよ、センセ」
 ネリーの作ったゴーレムが、壁に穴を開けた。


「開けてみろ。裏道に繋がっているかも知れない」


「よっしゃ。どーん」


 開いた先が妙に明るい。いや明るすぎる。何かが光っているのだ。 


「財宝室だ!」


 真っ先に飛び出していったのは、イヴォンだった。金貨を鷲づかみして、真贋を確認する。


「宝は本当にあったんですね!?」
 声を押し殺しつつ、イヴォンは喜びを隠せずにいた。


「あー。これが見つかったと言うことは、僕の情報が確かだと証明になったわけで。とはいえ、簡単に見つかってしまったから、冒険者たちにも容易に手に入ってしまうから、僕が働かなくて報酬を得る作戦は白紙になったわけでしてー」
 独り言をぶつぶつ言うイヴォンは、放っておく。


「担任、これを」
「ああ。分かってるさ」


 オデットとジャレスは、不吉な痕跡を見つけた。


 地面の一部が、薄紫色に抉れている。魔神結晶のあった痕跡だ。
 それも、ジャレスやオデットが持っているモノより大きい。


 どうやら、盗賊団はかつて魔神結晶を発動させようとしたらしい。
 それが、この崩落を招いたのだ。


「やべえぞ、こいつぁ」


 何者かが、魔神結晶を探していた形跡がある。
 多分アーマニタとかいう魔族だ。彼女がそこらじゅうの盗賊を雇い、探させていたのだろう。


「どうりで、盗賊団の逮捕が多かったわけだぜ」


 それでも見つからなかった。単純に発見できなかったのか、何かトラブルがあったか。


「担任!」
 背後から、エステルの声がした。


 だが、その声はさらに大きな鳴き声にかき消される。


 エステルの正面にいるのは、モンスターだ。クビが八本あるヘビである。


「ヒドラだ!」


 盗賊団がいた頃から、宝の番人をしていたのだろう。

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