魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

エステル、騎士と対決

 ジャレスの前に、エステルがマノンに手を引かれて現れた。
「騎士団の怠慢をなんとかしたい?」


 マノンはジャレスに、エステルの主張を代返してきた。


 ちなみに、当のエステルはずっと横を向き、ジャレスと話し合おうとしない。


「どうせ、シャクに障る言い方でもしたんだろ?」


「失礼ね! パトロールの活動範囲を広げよう、って提案した程度よ。やんわりと言ってみただけよ!」


 ジャレスにも、エステルが騎士団の連中を怒らせる様子が目に浮かぶ。


「分かったよ。考えておいてやる」


 とは言ったものの、どうするか。 






 ジャレスは考えた末、ウスターシュと相談する。


「結局、ウスターシュ頼みなの」


 相変わらず、ピエレットは魔神結晶の浄化中だ。
 見た目には、結構キレイになっている気がする。
 しかし、わずかな瘴気でもあればすぐに汚染されてしまう。注意が必要な作業なのだ。


「で、どうするのだ、ジャレスよ」


「エステルを直接、あいつに悪態をついた騎士と戦わせることにした」


 ウスターシュが目を細める。
「正気なんだろうな?」


「オレ様はいつだって本気だぜ。こうでもしないと、エステルは成長しねえだろうな」


 生半可な慰めは、エステルのためにならないと、ジャレスは踏んだ。


「えらく肩を持つな、ジャレスよ」
「別に特別扱いしているわけじゃねえし。単にオレ様も、騎士団ってのを詳しく拝みたかっただけさ」
「ほう。思惑はあるのだな?」


 実を言うと、冒険者界隈では、特に怪しい動きが見られなかったのだ。
 可能性があるなら、騎士団である。


「まさか、騎士団が裏切ったとでも?」
「知らねえよ。それを確かめるんだ」


 だが、騎士団は女王陛下と近しい。
 本気で動けば、国などあっという間に滅びる。
 動かないのはなぜだ?


「思うに、たいして動けないんだろう。我々冒険者学校の目があるから、だから、我々の注意を森に向けさせようとした」
 ウスターシュが腕を組む。


「けど、オレ様の邪魔が入った、ってか?」


「筋が通り過ぎているの。ていうか、『自分たちを怪しんでくれ』とでも言いたそうな推論なの」
 めざとい、さすが妖精ピエレットめざとい。


「お前の言う通りかもな、ピエレット」


 気のせいだったら、どれだけ楽だろうか。


「とにかく手配はする。くれぐれもさとられぬようにな。ジャレス」
「分かってるよ」






 数日後、舞台が設置された。


「緊張してるか、エステル」
「誰が!」


 エステルは既に、戦闘服姿である。
 白い鎧、赤いミニスカートに、装飾品を施されたニーソだ。
 エステルの姿は、かつて出会った『赤き戦乙女』を思い出させた。


 訓練場には、女王陛下が玉座に座っている。五〇を過ぎているが、麗しく若々しい。


 傍らにブレトン騎士団長を伴っている。


 城の外にある訓練場は、冒険者学校にあるグラウンドの倍はあった。
 しかし、人型に深々とついた傷や地面の抉れ具合から見て、相当厳しいトレーニングを積んでいるらしい。
 割と真面目にやっている感じだ。訓練しかしていないのかも知れないが。


「ルールは先ほどご説明したとおりです。模擬戦といえど殺す気で挑むこと。蘇生するので存分に暴れるように。以上です! 女王陛下殿ー」
 審判を勤める神官が、説明を終える。


「なんで女王陛下の御前でケンカなんて! あんたが陛下と面識があるなんて初めて聞いたんだけど?」
「まあちょっと色々あってな」


 正直に言うと、アメーヌ女王はジャレスに頭が上がらない。


「ちょっと、いくらなんでも騎士団にあたしが勝てるわけないでしょ!?」
「いいから全力で行け! お前なら勝てる! ていうかぶっ潰してこい!」


 かなり無責任なアドバイスだが、エステルには一番聞く。


「いいか? あのヤロウを『お前のおっかさんを侮辱したヤロウ』と思って撃ってこい」


 とどめの耳打ち。それだけで十分だった。
 エステルの目つきが一瞬で変わる。


「両者、前へ」


 エステルと騎士が互いに顔を合わせた。
 どちらも女王には礼をした。だが、互いに礼をしない。殺す気全開だ。
 それでいいと女王から了解も取っている。


「俺は前から、お前が気にくわなかった。女だてらに俺たちの縄張りに入ってきやがって!」


「あら? その女だてらに職を追われそうなのは、あなたが怠慢だからじゃなくて?」
 ここはセラフィマ相手に鍛えられているのか、悪口は一級品だ。


「女王陛下、あたしが本気を出せば、この訓練場が吹き飛んでしまう可能性がありますが?」


「構わん、許可する」


 エステルと女王のやりとりを、騎士たちがバカにした。
 ブレトンだけは嗤っていなかったが。


「油断大敵だぞ。全力でいけ。私も含め。貴様らが油断していたから、街に魔族を呼んでしまったのだぞ!」


 ブレトンの警告も、堕落した騎士たちには届かない。


「構えて! 始め!」


 騎士は、エステルに向けて容赦なく剣を振り上げた。
 斬ると言うより叩き潰すかのような勢いである。


 だが、エステルは冷静だった。
 剣は一発も、エステルに当たらない。
 ランチャーを正面に構え、引き金を引く。


 ランチャーの牙が、エステルの魔力が籠もった魔力石を噛み砕いた。


 エステルが、ありったけの魔力をランチャーから解き放つ。


浄焔セイクリッド・ブレイズ!


 青白く発光する浄化の炎が、騎士の肉体を焼く。


 何が起きたのか分からないと言った表情で、騎士は意識を失う。身体を焦がされながら。


 ジャレスは女王の前に立って、魔力による障壁を張った。
 炎の衝撃波を引き受ける。


「さすがに、死ぬ気でやらないといけなかったわ。とはいえ」


 当初こそ、エステルは相手を殺害する気はあっただろう。
 しかし、現実になりそうな今は、青ざめている。


 黒焦げになった騎士が、審判の魔法によって蘇生された。
 死亡寸前まで追い込まれた意識が回復し、火傷でただれた皮膚が瞬時に再生する。
 蘇生はうまくいった。 


「潜在意識の中で、お前さんも加減しないと、って思ってたんだろうな」
「勝負あり。エステル殿の勝ちと致します!」


 あっさりと、エステルの勝利が決まった。


 名前を呼ばれても、エステルは釈然としていない様子だ。やはり、相手が弱すぎた。


 障壁を解き、ジャレスは女王に向かって振り返る。


「女王陛下、こやつは小娘一人にも勝てないひよっこであります。こんな奴らに城や街を警護させていては、魔族はびこる街を守れませんでしょう。一刻も早い、戦乙女ヴァルキリークラスの上位職の滞在が急がれます!」
 王の前で、ジャレスは宣言した。


「それと、こやつは街の警護なんぞ騎士の仕事ではないと断言しております。街の血肉は、女王の血と同じであります。女王に血を流させる行為を見逃すなど、騎士にあるまじき行為! かのモノにしかるべき処罰をお願いしたい!」


 あまりにもジャレスがしつこいので、女王も折れたらしい。
「わかったよぉ。お前クビ」


 騎士の辞職は、あっという間に受理された。女王自らの手で。


 女王に一礼もせず、騎士は去って行く。所詮、その程度の忠誠心だったのだ。


 騎士団を見ると、すでに彼は「いなかった」ことにされていた。
 始めから騎士団にいなかったような。薄情な奴らだ。


「これで満足か、エステル?」


 勝利したというのに、エステルは少しも嬉しそうではなかった。
「あたしの目指していた冒険者って、こんなのだったのかなって思っただけよ」


「イヤなことの方が多いさ、人生なんてよ。やりたくないことの方がたくさんある。きれいごとだけじゃ生きていけねーのっ」


「そんなこと、分かってるわよ!」
「分かってねえ。全然」


 実際、ジャレスにだって分からないのだ。今になっても。


「いいか、世間ってのは、分からねえことだらけだ。理不尽がいつもつきまとう。だから、堂々としてろ。少しくらい不愉快が降りかかっても、お前ならはねのけられるさ。今みたいにな」


「忠告は、素直に受け止めておくわ」
 反論せず、エステルはうなずいた。


「これで、アンタを許したわけじゃないわ。でも、こんな機会を与えてくれて、礼だけは言っておくわ」
 エステルはペコリと短く頭を下げる。


「いいさ。跳ねっ返りな方がお前らしいぜ」


「ば、バカ!」
 フンとそっっぽを向き、エステルはスタスタとジャレスから背を向ける。
 女王陛下にだけは敬意を表して。 

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