魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す
ジャレス相談所の効果
 その日、エステルは朝から機嫌が悪かった。昼食も進んでいない。
「どうしたの?」
「なんでもないわ。さあ、気分転換でもしましょ。今日は騎士団の演習もないの」
授業を終えたら、街を回る約束をした。
「久々に、色々買い食いするのもいいかもね」
エステルが無理をしているのは、マノンにも分かる。
気を使ってくれているが、笑顔が引きつっていた。エステルは分かりやすい。
帰宅途中、マノンは書店に目がうつった。
窓の奥で、グラスランナーの少年がうなっている。イヴォンだ。
読書スペースに設置された机を埋め尽くすように、地図を広げている。
「どうしたの?」
「ああ、ドゥエスダンさんにナナオウギさん、見てくださいよ、これ」
机の上にある大きな地図を、イヴォンがトントンと指で叩く。
この街の地図だが、随分と古い。
「なんでも、この土地を荒らしていた盗賊団が隠した宝の地図らしいのです。けれど、ギメル砦だと言うこと以外、何も掴めないのです」
ざっくりとした地点にバツ印がしてあるだけ。
「心当たりはあるかも」
「本当ですか?」
「この砦の真下に崖がある。盗賊団が、この辺りをダンジョンにしている可能性が高い。でも、地殻変動で埋まってるから探せないと思う」
マノンは、財宝ポイントらしき地点を軽く教えた。宝の在り処かどうかは知らないが。
「そんな構造になっていたのですね?」
「確証はない。ただ、崖になっているから、海賊がアジトにしていてもおかしくないかなって」
あくまでも、マノンの想像だ。
「その辺を、訓練でよく通るから」
「そうね、ギメル砦なら、あんた良くトレーニングで使ってるわよね」
「うん。危ないところには近づかないようにしているから、詳しくは知らないけど」
教えた途端、イヴォンの目の色が変わった。
「そんな構造になっていたのですね? ありがとうございます二人とも。これは少ないですが、お茶代として受け取ってください」
二人はイヴォンから、わずかな銅貨をもらう。
「あたしたち、そんなつもりじゃ」
「うん。第一、宝がある保証なんてどこにも」
マノンは謙遜した。
しかし、イヴォンはマノンたちに銅貨を強く握らせる。
「僕だって、宝が欲しいわけじゃないんです。そういう土地勘が欲しかったんですよ。トレジャーハンターに教えたら、お金になりそうでしょ?」
「お宝を手に入れる側じゃなくて、情報を売る側に回るってこと?」
「別に僕、冒険者になりたいわけじゃなくて、冒険者を動かす側に回りたいんですよ。自分で危険に立ち向かわなくていいでしょ? 僕は情報を渡すことで、宝が出ても出なくても、危険を冒さずにわずかな報酬を得られる」
「ちゃっかりしているわね、あんた!」
エステルが呆れかえっていた。「これが、次世代を担う冒険者の姿なの?」とまで言い出す。
しかし、マノンにはそれが悪いことだとは思えない。
危険な目に遭うのは誰だって嫌だ。
それなら、なりたい人物が冒険をすればいい。
冒険者になりたくて家出した自分みたいに。
「ジャレス担任に言われたんですよ。夢なんて持たなくていいって」
「マジで? そんな言葉に耳を貸したの?」
「真理ですよ、ジャレス担任の言葉は。おかげで目が覚めました」
「まあ、あんたが納得しているなら、止めてもムダね。とにかく、小銭ありがと」
イヴォンに礼を言い、別れた。
エステルの住むパン屋までもうすぐ。
その直前、リードが屋台でうんうんと考え事をしていた。
「何をしているの? 変質者みたいだったわよ」
おそらくエステルは、リードがエステルに色目を使っていると思ったのだろう。
エステルのパン屋はちょうど、この屋台の視界に入る。
「エステルか。あのなぁ、俺は変態じゃねえっての。担任に言われたことを、自分なりにまとめてるんだよっ」
「どうせロクな意見じゃないんでしょ?」
エステルは鼻を鳴らした。
「んなことねえよ。俺にだって、他の誰にもない素質があるはずだって言っていた、気がする」
リードは反論する。だが、語尾が尻すぼみになっていく。
「ちゃんと聞いてなかったのね」
「それでな、俺にも作れて、ドワーフに負けない武器を作ろう、と思ったんだけどな」
マノンは察した。
「アイデアが湧かない」
「そそっ! そういうこと! 俺の持ち味が分からなくてよ。足しげく武器屋に通っているわけだ。見てくれよ。こっちの店は重い装備がメイン。三軒となりにある武器屋は暗殺メインなのか、黒い武器が多いんだぜ」
買ってきた武器防具を、リードが見せびらかす。
エステルがあくびを始める。
「で、何か掴めたの? ただの武器やマニアになっただけ?」
「装備といっても、種類がありすぎて絞り込めねえ。使う奴らにもよるしな」
マノンは、解決の糸口がないか、思案してみた。
「屋台の大将をしているリードも、素敵だと思う!」
「え、マノン?」
いきなり絶賛されて、リードは目を丸くする。
「ちょっとマノン。そんな言い方すると、リードが勘違いしちゃうでしょ!」
エステルから指摘され、言葉を改める。
「リードの作った屋台の料理は、おいしいと言いたい」
「そいつはあんがとよ。けど、『お前らなんて武器より包丁作ってる方がお似合い』なんてケチつけられて」
リードが剣士を目指す理由はそこだろう。
みんなを見返したいのだ。
「素材の切り方もキレイ。きっと刃物がいいから。みんなはそれが妬ましい」
「おお。大絶賛してくれるじゃんか。泣けるねえ」
「宿屋の主人もリードのお店で包丁を買ってるよ。すごく切れ味がいいって」
言ってから、マノンは串焼きを指さす。
「これ、新作?」
「ああ。茹でたタコ足を、串に刺して焼いてみた。酢をつけて食べてみてくれ」
リードお手製のタコ串を、マノンはためらいなくムシャムシャと頬張る。
「うーん。タコの具に具にした食感が、お酢とよく合う」
エミールとはまた違った、海鮮を使っている料理だ。
「よくタコなんて食べるわね?」
西洋では、あまりタコを食べる習慣がない。
海沿いの街が多い東洋では、ポピュラーな食べ物なのだが。
「そうなんだよな。みんな食わず嫌いでよぉ。手をつけてくれねえんだよ」
「もう一本ちょうだい」
次から次と、マノンはタコに手をつけた。
「はふ、あくあく、はひぃ」
口の中が熱い。
その場で足踏みをしながら、タコを咀嚼する。
「あむあむ。でも、おいひい」
アツアツのタコを噛むたびに、幸せな気持ちになっていく。
周りを見ると、なぜかギャラリーができていた。
全員がマノンに注目している。
自分が何かしただろうか。
「ちょっと一本おくれ」
老婆が寄ってきて、タコ串をねだった。
「あいよ。熱いから気をつけな」
そこから、次々と売れ出す。まるで魔法が掛かったみたいに。
「すげえ。あっという間に売れたぜ」
「食いしん坊なマノンのおかげね」
なぜ自分が売り上げに貢献したのか分からないが、売れたのはよかった。
「考えたんだけど、試食は大事かも」
「なるほどなぁ。これが、持ち味を活かすことにも繋がるってワケか」
「みんなに分かってもらうまでが大変だけど、一度知ってもらえばイージーモード」
リードの強みは、剣士でありながら、料理の経験があることだ。
倒したモンスターをその場でさばき、売るという特色を考えてみては、と提案した。
屋台が一段落し、一同は武器屋へ。
陳列されている装備品を眺めながら、考える。
「武器に関しては?」
「リザードマン独特の特徴から攻めてみる。あるいは、同じような種族の特色を活かしたアイテムを作ってみる。それを、人間族でも使えるようになれば」
「例えば?」
「包丁など、調理器具を別の方向性で考えてみる」
例えば、ウロコを取る、皮を剥ぐことに特化したアイテムを作成するなど、助言してみた。
リードの作るアイテム技術なら、おそらく素材を傷つけない。
「素材の剥ぎ取り専用アイテムか。大体、自分の武器や、素材が固い場合は工具を使ったりな。だいたいがアリモノだ。剥ぎ取り用のアイテムがあれば、素材を痛めず手に入れられるわけか」
気がつけば、リードがマノンの顔をジッと見つめている。
「ご、ごめんなさい。偉そうなことを言って」
マノンはペコペコと無礼を詫びた。
「いいや、目の付け所が違うなって思ってな。さすが東洋人」
「ちょっとリード」
エステルが、ヒジでリードの脇腹をつつく。
「すまん。褒めたつもりだったんだが、気を悪くさせちまったな」
「平気」
「でも、おかげで担任が言っていたことが掴めたっぽいぜ」
またしても、二人は小銭をもらう。
「ジュース代だ。取っとけよ。じゃあな」
若者らしく、リードは武器屋から颯爽と走り去った。
二人はもらったお金を使ってお茶を買う。
橋の下で、川の流れを見ながら休憩することに。
リードの屋台で売っていた串焼きが、ほうじ茶とよく合う。
「すごいね、担任って」
エステルに語りかけるでもなく、マノンはつぶやいた。
担任は、いろいろな人に影響を及ぼしている。
エステルは、まだ考え事をしているようだった。
「何があったか、話して」
今なら、エステルは重い口を開けてくれるかも知れない。
「森に魔神結晶を持った魔族がいた、って事件があったでしょ。『こうなったのは、騎士たちがちゃんと警備していないからだ』って進言したの。そしたら、こんど余計な口を挟んだら戦乙女の資格を取り消すぞ、って!」
持っている串を折る勢いで、エステルは当時の様子を語る。
ひどい。明らかに騎士団の怠慢なのに。冒険者からは死者まで出ているのだ。
「王立騎士団ってどこでもああなの? ママがいきなり戦乙女に志願した理由が分かってきたわ! あたしも教会から志願してやればよかった!」
確かに、エステルのような柔軟性の高い人間にとって、騎士団は窮屈なだけだろう。
なんとか励まして上げたかった。
が、エステルのような性格の子は、根本的な障害を取り除かない限り、怒りがぶり返す。
「エステルは、間違ってない」
友のイライラは、自分が解決すべきだ。マノンは、決心した。
「いいところがある」
マノンはエステルを立たせる。
「ちょっとマノン、どこへ行く気よ?」
「わたしは、担任から言われた。エステルは迷わない。わたしが迷えばいいって。だけど、今日はわたしが、エステルの道しるべになる」
エステルの手を握り、マノンは担任の下へと急ぐ。
「どうしたの?」
「なんでもないわ。さあ、気分転換でもしましょ。今日は騎士団の演習もないの」
授業を終えたら、街を回る約束をした。
「久々に、色々買い食いするのもいいかもね」
エステルが無理をしているのは、マノンにも分かる。
気を使ってくれているが、笑顔が引きつっていた。エステルは分かりやすい。
帰宅途中、マノンは書店に目がうつった。
窓の奥で、グラスランナーの少年がうなっている。イヴォンだ。
読書スペースに設置された机を埋め尽くすように、地図を広げている。
「どうしたの?」
「ああ、ドゥエスダンさんにナナオウギさん、見てくださいよ、これ」
机の上にある大きな地図を、イヴォンがトントンと指で叩く。
この街の地図だが、随分と古い。
「なんでも、この土地を荒らしていた盗賊団が隠した宝の地図らしいのです。けれど、ギメル砦だと言うこと以外、何も掴めないのです」
ざっくりとした地点にバツ印がしてあるだけ。
「心当たりはあるかも」
「本当ですか?」
「この砦の真下に崖がある。盗賊団が、この辺りをダンジョンにしている可能性が高い。でも、地殻変動で埋まってるから探せないと思う」
マノンは、財宝ポイントらしき地点を軽く教えた。宝の在り処かどうかは知らないが。
「そんな構造になっていたのですね?」
「確証はない。ただ、崖になっているから、海賊がアジトにしていてもおかしくないかなって」
あくまでも、マノンの想像だ。
「その辺を、訓練でよく通るから」
「そうね、ギメル砦なら、あんた良くトレーニングで使ってるわよね」
「うん。危ないところには近づかないようにしているから、詳しくは知らないけど」
教えた途端、イヴォンの目の色が変わった。
「そんな構造になっていたのですね? ありがとうございます二人とも。これは少ないですが、お茶代として受け取ってください」
二人はイヴォンから、わずかな銅貨をもらう。
「あたしたち、そんなつもりじゃ」
「うん。第一、宝がある保証なんてどこにも」
マノンは謙遜した。
しかし、イヴォンはマノンたちに銅貨を強く握らせる。
「僕だって、宝が欲しいわけじゃないんです。そういう土地勘が欲しかったんですよ。トレジャーハンターに教えたら、お金になりそうでしょ?」
「お宝を手に入れる側じゃなくて、情報を売る側に回るってこと?」
「別に僕、冒険者になりたいわけじゃなくて、冒険者を動かす側に回りたいんですよ。自分で危険に立ち向かわなくていいでしょ? 僕は情報を渡すことで、宝が出ても出なくても、危険を冒さずにわずかな報酬を得られる」
「ちゃっかりしているわね、あんた!」
エステルが呆れかえっていた。「これが、次世代を担う冒険者の姿なの?」とまで言い出す。
しかし、マノンにはそれが悪いことだとは思えない。
危険な目に遭うのは誰だって嫌だ。
それなら、なりたい人物が冒険をすればいい。
冒険者になりたくて家出した自分みたいに。
「ジャレス担任に言われたんですよ。夢なんて持たなくていいって」
「マジで? そんな言葉に耳を貸したの?」
「真理ですよ、ジャレス担任の言葉は。おかげで目が覚めました」
「まあ、あんたが納得しているなら、止めてもムダね。とにかく、小銭ありがと」
イヴォンに礼を言い、別れた。
エステルの住むパン屋までもうすぐ。
その直前、リードが屋台でうんうんと考え事をしていた。
「何をしているの? 変質者みたいだったわよ」
おそらくエステルは、リードがエステルに色目を使っていると思ったのだろう。
エステルのパン屋はちょうど、この屋台の視界に入る。
「エステルか。あのなぁ、俺は変態じゃねえっての。担任に言われたことを、自分なりにまとめてるんだよっ」
「どうせロクな意見じゃないんでしょ?」
エステルは鼻を鳴らした。
「んなことねえよ。俺にだって、他の誰にもない素質があるはずだって言っていた、気がする」
リードは反論する。だが、語尾が尻すぼみになっていく。
「ちゃんと聞いてなかったのね」
「それでな、俺にも作れて、ドワーフに負けない武器を作ろう、と思ったんだけどな」
マノンは察した。
「アイデアが湧かない」
「そそっ! そういうこと! 俺の持ち味が分からなくてよ。足しげく武器屋に通っているわけだ。見てくれよ。こっちの店は重い装備がメイン。三軒となりにある武器屋は暗殺メインなのか、黒い武器が多いんだぜ」
買ってきた武器防具を、リードが見せびらかす。
エステルがあくびを始める。
「で、何か掴めたの? ただの武器やマニアになっただけ?」
「装備といっても、種類がありすぎて絞り込めねえ。使う奴らにもよるしな」
マノンは、解決の糸口がないか、思案してみた。
「屋台の大将をしているリードも、素敵だと思う!」
「え、マノン?」
いきなり絶賛されて、リードは目を丸くする。
「ちょっとマノン。そんな言い方すると、リードが勘違いしちゃうでしょ!」
エステルから指摘され、言葉を改める。
「リードの作った屋台の料理は、おいしいと言いたい」
「そいつはあんがとよ。けど、『お前らなんて武器より包丁作ってる方がお似合い』なんてケチつけられて」
リードが剣士を目指す理由はそこだろう。
みんなを見返したいのだ。
「素材の切り方もキレイ。きっと刃物がいいから。みんなはそれが妬ましい」
「おお。大絶賛してくれるじゃんか。泣けるねえ」
「宿屋の主人もリードのお店で包丁を買ってるよ。すごく切れ味がいいって」
言ってから、マノンは串焼きを指さす。
「これ、新作?」
「ああ。茹でたタコ足を、串に刺して焼いてみた。酢をつけて食べてみてくれ」
リードお手製のタコ串を、マノンはためらいなくムシャムシャと頬張る。
「うーん。タコの具に具にした食感が、お酢とよく合う」
エミールとはまた違った、海鮮を使っている料理だ。
「よくタコなんて食べるわね?」
西洋では、あまりタコを食べる習慣がない。
海沿いの街が多い東洋では、ポピュラーな食べ物なのだが。
「そうなんだよな。みんな食わず嫌いでよぉ。手をつけてくれねえんだよ」
「もう一本ちょうだい」
次から次と、マノンはタコに手をつけた。
「はふ、あくあく、はひぃ」
口の中が熱い。
その場で足踏みをしながら、タコを咀嚼する。
「あむあむ。でも、おいひい」
アツアツのタコを噛むたびに、幸せな気持ちになっていく。
周りを見ると、なぜかギャラリーができていた。
全員がマノンに注目している。
自分が何かしただろうか。
「ちょっと一本おくれ」
老婆が寄ってきて、タコ串をねだった。
「あいよ。熱いから気をつけな」
そこから、次々と売れ出す。まるで魔法が掛かったみたいに。
「すげえ。あっという間に売れたぜ」
「食いしん坊なマノンのおかげね」
なぜ自分が売り上げに貢献したのか分からないが、売れたのはよかった。
「考えたんだけど、試食は大事かも」
「なるほどなぁ。これが、持ち味を活かすことにも繋がるってワケか」
「みんなに分かってもらうまでが大変だけど、一度知ってもらえばイージーモード」
リードの強みは、剣士でありながら、料理の経験があることだ。
倒したモンスターをその場でさばき、売るという特色を考えてみては、と提案した。
屋台が一段落し、一同は武器屋へ。
陳列されている装備品を眺めながら、考える。
「武器に関しては?」
「リザードマン独特の特徴から攻めてみる。あるいは、同じような種族の特色を活かしたアイテムを作ってみる。それを、人間族でも使えるようになれば」
「例えば?」
「包丁など、調理器具を別の方向性で考えてみる」
例えば、ウロコを取る、皮を剥ぐことに特化したアイテムを作成するなど、助言してみた。
リードの作るアイテム技術なら、おそらく素材を傷つけない。
「素材の剥ぎ取り専用アイテムか。大体、自分の武器や、素材が固い場合は工具を使ったりな。だいたいがアリモノだ。剥ぎ取り用のアイテムがあれば、素材を痛めず手に入れられるわけか」
気がつけば、リードがマノンの顔をジッと見つめている。
「ご、ごめんなさい。偉そうなことを言って」
マノンはペコペコと無礼を詫びた。
「いいや、目の付け所が違うなって思ってな。さすが東洋人」
「ちょっとリード」
エステルが、ヒジでリードの脇腹をつつく。
「すまん。褒めたつもりだったんだが、気を悪くさせちまったな」
「平気」
「でも、おかげで担任が言っていたことが掴めたっぽいぜ」
またしても、二人は小銭をもらう。
「ジュース代だ。取っとけよ。じゃあな」
若者らしく、リードは武器屋から颯爽と走り去った。
二人はもらったお金を使ってお茶を買う。
橋の下で、川の流れを見ながら休憩することに。
リードの屋台で売っていた串焼きが、ほうじ茶とよく合う。
「すごいね、担任って」
エステルに語りかけるでもなく、マノンはつぶやいた。
担任は、いろいろな人に影響を及ぼしている。
エステルは、まだ考え事をしているようだった。
「何があったか、話して」
今なら、エステルは重い口を開けてくれるかも知れない。
「森に魔神結晶を持った魔族がいた、って事件があったでしょ。『こうなったのは、騎士たちがちゃんと警備していないからだ』って進言したの。そしたら、こんど余計な口を挟んだら戦乙女の資格を取り消すぞ、って!」
持っている串を折る勢いで、エステルは当時の様子を語る。
ひどい。明らかに騎士団の怠慢なのに。冒険者からは死者まで出ているのだ。
「王立騎士団ってどこでもああなの? ママがいきなり戦乙女に志願した理由が分かってきたわ! あたしも教会から志願してやればよかった!」
確かに、エステルのような柔軟性の高い人間にとって、騎士団は窮屈なだけだろう。
なんとか励まして上げたかった。
が、エステルのような性格の子は、根本的な障害を取り除かない限り、怒りがぶり返す。
「エステルは、間違ってない」
友のイライラは、自分が解決すべきだ。マノンは、決心した。
「いいところがある」
マノンはエステルを立たせる。
「ちょっとマノン、どこへ行く気よ?」
「わたしは、担任から言われた。エステルは迷わない。わたしが迷えばいいって。だけど、今日はわたしが、エステルの道しるべになる」
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