魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

ネリーとモニクの仲直り

 ウスターシュの小屋に向かい、ジャレスは髪飾りを見せに行く。


「ウチの生徒が、魔神結晶に手を出すなんて思えないの」
 髪飾りを改めながら、ピエレットが嘆く。


「手を出したんじゃないぜ。あれは持たされたんだ」


「理由は?」


 ウスターシュの問いかけに、ジャレスは答える。


「モニクは狙われた。最初から魔神結晶の実験台に利用されていたんだよ」


「それこそ信じられないの」
 ピエレットは言うが、事実だ。


 アメーヌを内部から食い潰そうとしている魔族が、この街に潜んでいる。


「魔族が、この街に入り込んでいるなら、とっくに騎士団が調べているの!」
「ピエレットの言うとおりだ。我々の警戒網からは逃れられない」


 ウスターシュたちは、冒険者学校の防衛管理技術を信じて疑わない。


「だが、もし内部に協力者がいたら?」


 ウスターシュが、息をのむ。


  内部犯行でなければ、安易に精霊たちが集う森なんかに魔族は入れないはずだ。


「そいつを突き止めるために、オレ様を雇ったんだろ?」


 既に、冒険者学校は魔族の協力者に食い破られている可能性がある。
 一刻の猶予も許されない。


「待てよ」


 ジャレスは、指輪の方を確認した。
 アーマニタとか言う、女性型魔族が身につけていた宝石だ。


「指輪を見ても何にもならないの。魔神結晶ですら、追跡できなかったのに」
「アクセに強い生徒がいる。そいつに聞くぜ」


 ジャレスは再び、ネリーの家に向かう。
「おっと、その前に」
 することを思い出し、ジャレスは雑貨屋へ足を運ぶ。






 ネリーの家に戻ると、モニクが正気に戻っていた。


「申し訳ありませんでした」


「謝らなくたっていい。元に戻ってくれたなら」


 モニクは元々、ドワーフの中でも力の弱い方だった。
 それでも、他の種族からすれば力が強い方だったので、学校で威張るように。
 ナメられてはいけない。そんな気持ちからだった。


「ケンカでネリーに負けてボロが出ちまった。悔しくてさぁ。そしたら、露天でかわいらしいブローチが売っててさ。それを買ったんだ。そしたら、力がみなぎってきて」


 同時に、破壊衝動もわき上がってしまったという。


「そのアクセってさ、モニクのお手製なん?」
 ネリーは、モニクの腕にはめているブレスレットに目をやった。


 慌てた様子で、モニクは腕輪を隠す。
「おかしいだろ? ドワーフなんて機能的な装備品を作ればいいのにさ。あたいはこんなオシャレかぶれなモノしか作れなくて」




「なに言ってるの? モニクすごいよ!」


 食いつくような勢いで、ネリーはモニクの手をどかす。




「やっぱりだ。オシャレかぶれなもんか。十分キレイな石を使ってる。きちんと加工して、身につける人を邪魔しない。アクセってさ、ヘタすると持ち主よりアカ抜けすぎて、かえって点けてる人をみすぼらしくしちゃうんだ。これは、持ち主をちゃんと活かすデザインだよ」


 構造を確かめるように、ネリーはブレスレットを観察する。


「でも、ドワーフからはいい顔されなくて。もっと実用的な物を作れって」


「すごいじゃん! こんなのノーム族でもそうそう作れないよ。オイラ、ドワーフの装備よりモニクの作った方が好きかな」


 まさか、ネリーから賞賛されるなんて思ってもいなかったのだろう。モニクは戸惑っている。


「オイラはモニクのこと、しょうもないヤツだと思っていた。自分の種族と同じ土俵にいなきゃって思想は下らないって」


 ネリーにそう告げられて、モニクはしょげた風になった。


「だけど、悪い奴だとは思ってないよ。あれからマウントしてこなかったじゃん。自分が弱いって自覚したんだなーって。そしたらさ、オイラも自然とムカムカが収まった。しょうもないのはオイラの方だった。ずっとモニクにこだわってたって、分かって」


 いつもひょうきんなネリーが、まともな顔になる。


「だから、ごめんなさい。バカにしてて」
 立ち上がって、ネリーはモニクに頭を下げた。


「ありがとう、ネリー。あたいこそごめん。自分が弱いのを棚に上げて、人にあたってばかりいてさ」


 ジャレスは、二人を引き離す。


「はいはい。もう言いっこなしだ。この話はもうおしまい。人間ってのは、傷をなめ合いすぎると惨めになっちまう。過去を振り返ってばかりいないで、今を見なって」


 この二人なら、もう大丈夫だろう。


「それより、こいつをつけてみてくれ」
 ジャレスは、モニクの頭に帽子を被せた。


「髪を切っちまって悪かったな。イヤな思いをしただろ?」


 帽子を被りながら、モニクは少し微笑む。
「いいのに。あたいなんかに気を使わなくたって」


「なんか、とかって、自分を貶めるのはやめなって」
 ジャレスは、モニクにウインクした。 




「オレ様も強制的に先生やってるが、お前はオレ様の生徒だからなー」


 生徒に迷惑をかけたなら、償うべきだ。


「あの、ちょっといい? マノンがずっとむくれてるんだけど?」
 エステルが、頬を膨らませているマノンを指さす。


「むー」
 なぜか、マノンは目を細めながら、ジャレスを見ていた。うらめしそうに。


「んだよ、どうしちまったんだマノン?」


「そういうとこ」
 いいながら、マノンは何度もジャレスの肩をポカポカと殴ってくる。


「ホント、そういうとこよね担任って」
 エステルまで。


 ジャレスには、何を批難されているのか分からない。マノンの臨界点が分からず、困惑した。


「あら、これは新たなる地雷を踏みなさったようですね、担任」
 訳知り顔で、オデットが肩をすくめる。


 当のマノンは相変わらず「むー」とうなっていた。


 こうなったら話題を変えるしかないか。 


「そ、それで、その露店ってのは?」


「もうなくなってた。始めからなかったみたいに」


 案内してもらったが、確かに気配すら消えていた。


「キノコみたいな頭のヤツだった」


 学校カバンを開けて、モニクはペンとメモ用紙を取り出す。
 具体的な特徴を、イラストで書いてくれた。すこぶるうまい。


「へえー器用ね。さすがドワーフってところかしら?」


 エステルが賞賛していると、モニクは「とんでもない」と返す。


「いやいや大したもんだって。ここまで繊細なドワーフってなかなかいないんだよ。ノームが裸足で逃げ出すくらいだね!」
 ネリーから絶賛され、モニクも自信が湧いてきたような顔になっていた。


「あ、この人だった。森でわたしが会ったのは」 
 ただ一人、ジャレスはイラストを見て真顔になる。マノンだ。


「ああ? オレ様、そいつを見たぜ。あのとき、保健室で」


 さっそくジャレスは、持ってきた指輪の破片をモニクに見せた。


「それは、わたしが斬った」
 マノンが、厳密には不遜公が切り落とした指輪である。


「調べてみるよ。何か分かるかも」
 モニクは、宝石のついていない指輪をあらためた。


「頼むぜ」


「どこにも売られていない作りだ。自作かも。装飾に複雑な装飾がある。これがブースターになっているみたい。ん?」
 輪郭を指でなぞっていたモニクが、何かを発見したらしい。


「これはペアリングだよ。持ち主がもう一人、いるんじゃないかな? ここを見てみな」
 モニクは、指輪の上部を指摘した。




 わずかにギザギザができている。




「分かりづらいだろうけど、ジグソーパズルみたいに欠けている部分がある。蛇腹状になっていて、指輪同士が組み合わさるような仕組みなんじゃないかな」




「魔神結晶どうしをくっつける作り、ってこと?」


 エステルが分析すると、モニクも賛同する。


「多分。両方が合わさって、より強い魔力を引き出すんだろうね」




 もう一人、仲間がいる。




「ちょっと作戦がある。ネリー、手を貸してくれ」


「よっしゃ。なんでもお任せあれ」

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