魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

マノンの動機

 マノンの家系は、伝統的な剣士一族だった。


 マノンの祖父イチノシンは、二〇年前に出現したデーモンの退治にも関わっている。
 魔神結晶によって魔王へと進化する直前に、食い止めたのだ。
 つまり、エステルの母親とも面識があった。


 だが、古風すぎるゆえ、女性の地位が低い。
 大事にはされるが、子孫を残す以外の自由は制限されていた。


 マノンも、居心地の悪さを感じていたのである。


「仕事しようとしたら止められて、手伝い程度も断られる。おまけに、婚約者まで親が勝手に決めていた」


 それが、決定打だった。


「ひどいわね」


「い、一応、いい人だったんだよ?」


 ただ、その人には好きな人がいて。
 マノンは、どうしていいかわからなくなった。


「そんなとき、エステルが現れたの」


 ヒムロが窮屈なら、一緒に冒険者にならないか、と。


 もちろん、マノンの両親は反対した。


 マノンのヒムロ脱出を許可してくれたのは、マノンの婚約者である。


 エステルと脱走を予定していたのだが、婚約者はマノンの両親を説得してくれた。


 エステルとアメーヌへ行けば、冒険者として生きれば、マノンの才能が活かせるかも知れない、と。


 その方が都合が良かったのかも知れない。彼には他に交際相手がいたから。
 だが、彼は「マノンが辛そうだから」と言ってくれた。


 勘当に近い形で出て行ったので、もうマノンはヒムロの地を踏めない。
 だが、一人前になるまで帰らないと決めたのだ。後悔はない。


 マノンはエステルに手を引かれるまま、家を飛び出した。


「へえ、美談だな?」
「あ、アタシはただ、マノンがつまんなさそうにしていたから、ちょっと誘っただけよ!」


 担任からチャチャを入れられて、エステルが照れる。


「でも嬉しかった。同時に、またもらってしまったって罪悪感も」
 これは本心だ。
 エステルがいなければ、自分は望まぬ結婚を強いられ、身も心も腐っていたに違いない。


「マノン。いいのに」


 エステルはそう言ってくれるが、マノンは首を振る。


「わたしは、オデットから、命までもらった。みんながわたしに何かを与えてくれる。担任は助言を、セラフィマはお仕事を、エステルは自由をくれた」


 しかし、与えてもらうだけでは、故郷と同じ。


「だから、わたしは、誰かに何かを与えられる人になりたい。それが、わたしが冒険者になりたい理由です」
 一息で言い切った。


「あの、担任、いけませんか?」


 担任は、答えない。イスからヒョイと立ち上がり、オデットのところへ。


「聞いただろ、不遜公? こいつは、誰かに何かを与えられる人になりたかったんだ。マノンはその手を、お前さんにも差し伸べている」




 オデットは、応答しない。




 ネリーの作業している音だけが、室内に響き渡る。




「そうか、それを不遜公に聞かせるために、わざわざ公開面談にしたのね?」


「まあ、そういうこった」
 エステルの問いかけを、担任は肯定した。


「だがよ、決めるのはお前さん次第だ。このまま消えるなら止めない。だが、この世界に未練があるなら、オレたちに協力して欲しい」


「この世界に、未練などございません。所詮、仮初めだったこの命。マノン・ナナオウギが自立するのは時間の問題でした。それが早まっただけのこと。彼女にも分かっていたはずです」
 やはりオデットは、消えゆくことを選択するのだろうか。


「ですが、暴れ足らないことは事実です。せっかく自由を手に入れたことですし、ここからは私利私欲のために生きてみましょう」


「オデットさん、それじゃあ?」


「マノンさん、お邪魔でなければ、今後もよろしくお願いします」


「邪魔だなんてとんでもないっ。やったぁ」
 嬉しくて、マノンは飛び上がりそうになった。


 まだオデットと一緒に過ごせる。
 これからは気兼ねなく、オデットを友と呼べるのだ。


「ありゃあ!?」
 突然、ネリーが叫ぶ。


 ネリーの机には、動力を測定するカウンターがあった。それが乱れ続けている。




 悪い予感がした。




「どうしたんだ?」
 担任が、球状の物質を覗き込む。


「動力が安定しない! 超高密度の魔力石なのに!」
 オデットを定着させるための魔力石に、ヒビが入った。


「うわうわうわっ! どうするんだよネリーッ! なんとかなんねえのか?」


「無理! より密度の高い魔力石でないと。例えば、魔神結晶みたいな」


「魔神結晶なら、あるぜ!」


 学長室のある方へ、担任は走って行く。
 この時を待っていたのだとばかりに。


 担任には策があるらしい。

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