魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

グリフォンの全力

『マノンと戦え、と?』
 オデットは、マノンと視線を合わせた。


「無茶言わないでしょ。相手は腐っても魔王よ! 敵うわけじゃないわ!」
「やってみなきゃ分からねえだろ?」


 激怒するエステルに対し、担任は軽口を叩く。


「不遜公オデット、お前にはマノンと戦ってもらう。マノンがどれだけ成長したか、お前が一番よく分かっているはずだ。それを、身をもって証明しやがれ」
 珍しく、担任が真面目に語る。


『ご冗談を。彼女はまだ子どもです。人をからかうのも大概になさい』


「怖いのか?」
 間髪入れず、担任はオデットを挑発した。


「はいはい。わかりますぜ不遜公ちゃんよぉ。実際はよぉ、マノンから出て行ったら、退治されるんじゃないかって思ってたんだろ? ビビってしょうがなかったんだよなぁ! それが約束だったもんなぁ、ええ?」


 オデットの顔が、途端に険しくなる。


「ちょっと担任、やめなさいよ。怒らせちゃうじゃない」
 エステルが担任の袖を引っ張った。彼女も、ただならぬオデットの魔力に気圧されているのだ。


『どこまでも侮辱するのですか、砂礫公されきこう! いいでしょう。マノンなど軽くダウンさせましょう。その次は砂礫公、あなたの番ですので、お覚悟を』


「それでいいぜ。それと、オレの出番はないぜ」
 やけに渋い声を、担任が発した。


『後悔なさいませ』
 不遜公が、上空に両手をかざす。


 暗雲が、青空を覆い尽くした。鉛色の雲が、雷鳴を響かせる。
 雷が、オデットを狙い撃ちした。不自然に雷が折れ曲がり、すべての雷光が彼女に殺到する。


 上半身が鷲、獅子の下半身を形取った雷の塊が、そこにいた。
 四足歩行で立ち、マノンに向けて飛びかかる姿勢を取る。


「えらい小さくなったな、不遜公。昔はここの校舎くらいデカかかったのに」


『十分です』
 鷲の頭が、オデットの声を発する。声帯がうまく発動していないのか、ノイズがひどい。


『人間の体内にいたおかげで、私は全力を出す機会をなくしていました。今の私は、すでに他の魔王と同等だと言えます。完全復活は間近でしょう』


「それは、マノンを倒してから言うんだな。足かせになっていたのは、お前の方なんだからな」


『聞き捨てなりませんね。この姿になっても、まだあなたに劣ると?』


「オレ様じゃなくて、マノンに劣るぜ」




 担任の言葉を合図に、オデットがマノンに襲いかかってきた。




 マノンは身をかわす。




 鷲の爪により、マノンがいた場所の土がえぐれた。
 存在がかき消えたと言うべきか。不自然な消滅の仕方である。

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