魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

凍空剣

『あなたでは、魔族の相手は荷が重すぎます。お任せを』


「大丈夫?」


『信じて下さい。少々痛みますが、ここは耐えて下さい』


 マノンの意識が、もう一人の人格と入れ替わった。


 崩れかけたヒザが回復し、全ての神経系がリフレッシュされる。
 もう一人の人格が持つ、圧倒的な魔力で、幻覚作用を弾き飛ばしたのだ。


「なにぃ? あたしの幻覚魔術が利かない?」


「あなたごときの攻撃で戦闘不能になるほど、ヤワではありません」


 顔に掛かる前髪が、白くなっている。
 色が変わったようだ。
 身体を覆う魔力の質も、格段にアップした。


「口調と雰囲気が変わった。ははぁん、そういうこと? 多重人格のもう一人が出てきたってカンジ?」
 さすが魔族である。アーマニタは、マノンの変化に気づいていた。


「どう推理なさっても構いません。お覚悟を」
 剣を正眼に構える。マノンの時より、数段凜々しい。


 トン、と不遜公が足下の土を蹴る。


「なっ」
 アーマニタの驚く表情が、目の前に。


 不遜公の素早さに、宿主のマノンでさえも反応できない。


 アーマニタはすぐ後ろに退いて、マノンの突きをかわす。
 かなり戦闘慣れしているらしい。
 並のモンスターなら致命傷を与えていただろう一撃を、アーマニタは軽々と回避した。


 追撃で、不遜公は横に一文字を叩き込む。


 しかし、パラソルによる強固な防御によって阻まれた。
 金属音が鳴り響く。
 パラソルだと思っていたが、あれは盾だ。
 あんな重そうな盾を、日傘のように振り回すとは。


「ぬん!」
 アーマニタのパラソルが、持ち手と分離した。
 外周からノコギリの歯が飛び出す。
 クルクルと回転しながら、ノコギリパラソルが襲ってくる。
 まるで意志を持っているかのように、正確な動きで。


 不遜公は剣で弾き飛ばしたが、攻めあぐねている。
 攻防一体の戦闘力。
 魔法使いと思っていたが、相手は武闘派だった。


「思っていたより、やりますね」


「人間の言葉なんて、魔族相手にゃ褒め言葉にだってなりはしないさ」


「ならば、奥の手で言葉の代わりに致しましょう」


 不遜公は剣を下げた。


 全身を、凍気がかけめぐる。
『気』が刀身に集まり、剣の表面が青白く光りはじめた。
 雪の結晶へと変わった『気』が、刃へと付着する。


 マノンは、不遜公が仕掛けようとしている技を知っていた。


 祖父から教わっていたが、一度も成功したことがない剣術である。


 剣に十分な魔力が集まった。不遜公は剣を振り上げる。


 不遜公の発する異様な気配を察知してか、アーマニタも攻めてこない。
 盾を前方に展開して、待ち構えている。


凍空剣とうくうけん
 不遜公が、剣を振り下ろす。


 瞬間、刀身に集めた魔力が、刀から放たれる。
 全身の魔力を刀身に集めて、凍らせて打ち込む技だ。
 凍った『気』を刃として撃ち出すので、剣の硬度・耐久性など関係ない。


 威力が低いのか、魔力で作ったカマイタチは、アーマニタのシールドによって砕け散る。


「フン。やっぱり子供だましじゃないか」


「そうでしょうか」


「なにぃ……ぐうう!?」


 アーマニタの背中から、鮮血が吹き出した。


 この技はタダの飛び道具ではなく、相手を内部から破壊する。
 肉体をすりぬけ、精神に直接ダメージを与えるのだ。よって、どんな鎧でも貫く。


「なぜだ? アタシは魔神の加護を受けているはずなのに」


「お探しのモノはこちらですか?」
 不遜公は、手に入れた指輪をアーマニタに見せる。


「しまった!」


 やはり気づいたか。指輪がないことに。


「いつの間に」


「突きを繰り出した瞬間です」


「あんな一瞬で、指輪を手から切り離したっていうの? アタシに傷一つつけずに」


「あなたを切り捨てるつもりで攻撃したのですが、かわされたので目的を変更したまで」
 反撃に備え、不遜公は構え直した。


「お、覚えてな!」
 自慢の魔力増幅装置を失い、形勢は不利と判断したのだろう。
 アーマニタは、キノコパラソルから煙幕を放出して逃げた。


 フッと、マノンの身体にいいようもない気だるさが襲ってくる。
「彼女」を解放した反動がきたのだ。髪の色も、元に戻っている。


「担任、起きて」


「うーん、んあ?」
 担任は半身を起こし、大きく伸びをした。


「ヤロウは、トレントはどうした?」


「トレントは担任が倒したよ。担任砲で」
「担任砲、か。へへ。大概なネーミングセンスだな」




「でも、魔族が現れた」


「やっぱり魔族の仕業か。なんともないか?」
 黙って、マノンは首を振る。


「不遜公の力を使ったな?」


 暗く重い言葉が、マノンに突き刺さった。


 怯えながら、マノンは再度首を縦に振る。




「お前は、まだマノンだよな?」




「そうだよ」




「そっか。じゃあ安心だな」
 先ほどまでの怖い顔がウソのように、担任はマノンの頭を撫でた。

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