魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

ジャレスと魔王

「不遜公か。そいつがお前さんの中に」


「うん。同じBOWなんだよね?」


「BOWの魔力なら、お前さんの病魔を退けられただろう。その分、別のリスクがつきまとうが」


 魔力の塊であるBOWは、その精神力を定着させる肉体が必要だ。
 マノンはいつ身体を乗っ取られても、おかしくない。


 だが、不遜公はマノンの精神にまで手を出すことはなかった。


「不遜公を取り込んだことで、わたしは強くなった。だけど、そんな強さなんて必要ない。祖父のように。身近な人を助けられたらそれでいい」


「お前さんのジイサンは、Bランクの冒険者だったな」


 イチノシンは、実際には冒険者ランクSの称号をもらってもいいほどの達人だ。
 しかし、祖父は目の届く距離の人々を助けることを望んだ。


 ランクSともなると、「世界の守護者」として国から保護を受けるが、行動が制限される。
 それを嫌ったのだ。


「わたしが冒険者になるのは、祖父のような冒険者になること。そのために強くはなりたいけど、最強でなくてもいい」 


「お前さんの夢、そのうち叶うといいな。そのためにも、お前さんの中から、不遜公を取っ払う必要はあるが」


「方法は、あるの?」


「それは」と言いかけて、ジャレスは足を止めた。


 大樹の元まで辿り着く。
 随分と深くまで来た。


「あそこだ!」


 一際大きな木の側に、少女が倒れている。


「危ない!」
 なぜか、マノンは駆け出してしまった。


「待て、マノン!」


 マノンの近くにあった大木から、猛スピードでツタが伸びてきた。
 あっという間に、マノンと少女を縛り上げてしまう。


「トレントだと?」


 本来、トレントはおとなしい木の精霊なはずだ。
 しかし、ツタを伸ばし、ムチのように振るう。
 明らかに凶暴化していた。
 何をそんなに怒り狂っているのか。


 ツタは二人を絞め殺そうとはしていない。
 少女はただの人質、マノンの方から、魔力を吸い取っているようだ。


 こんな性質を持つ存在を、ジャレスは見覚えがあった。


 魔族だ。
 おそらく、魔族の仕業ではないだろうか。
 ジャレスは、そう思い始めていた。
 やはりおかしい。


 トレントの根元から、巨大なキノコが発生した。
 キノコは胞子を撒く。


 紫色の煙を、ジャレスはまともに嗅いでしまった。


 猛烈な眠気が、ジャレスを襲う。


「眠りの作用?」


 おそらく、この少女も同じ目に遭ったのだ。


 そう気づいたときには、ジャレスは深い眠りに落ちていた。


                            ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 ジャレスは、夢の中にいる。そう自覚できた。
 これは、魔王を殺した当時の夢だ。


 魔力で作られた牙城は焼けて崩れ、魔導の恩恵を授かる結界を作っていた塔は倒れている。


 辺り一帯には、無数の死骸が焼け焦げていた。
 ススと腐臭にまみれ、呼吸すら躊躇われるほどの異臭が立ちこめる。


 ジャレスとて、片腕は魔王の爪によってもがれていた。
 激痛と疲労感が、ジャレスにのし掛かっている。


 しかし、まだ終わりではない。


 眼前の魔王に、トドメを刺すまでは。


 心臓を打たれ、魔王は息も絶え絶えになっていた。




「グフフ、ジャレス・ヘイウッド。ワシを倒せば、ワシの力は貴様のモノとなる。その力で、貴様は何を得るかな?」


 死に直面しながらも、魔王は余裕で口をつり上げている。


「我が力、思うがままに使うがよい、ジャレス・ヘイウッドよ。貴様が我が力を行使すればするほど、我が魔王の意識が貴様をとらえ、次なる魔王へと作りかえるであろう!」


 魔王は、手に持った赤黒い結晶を、ジャレスに差し出す。




「さあ、この魔神結晶を受け取るがいい! 我の力が込められたこの石を! そして我は、貴様の中で永遠に生き続けるのだ!」






「黙れよ」






 ジャレスは、もう一度引き金を引いた。魔王の高笑いを止めるために。

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