魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

マノンの将来

「そのツバと白い鞘に桜の模様。『桜隠し』か。お前さん、『氷室ヒムロの里』の生まれだな?」
「よくご存じで」




 ヒムロのツバは、雪の結晶状の装飾が特徴的だ。
 複雑な装飾は、魔力を増幅させる機能が施されている。


 だからこそ、こんな芸当も可能なのだ。




 雪を周囲に降らせ、担任の視界を遮った。
 担任の死角へ刀を滑らせる。


 担任にヒットはしなかったが、わずかに皮製のズボンを裂いた。


「ほう。雪の結晶を身体にまとって、雷の力を刀に送り込む、か。太刀筋は悪くない」


 斬れた箇所は、マノンが切り込んだところとは、反対方向である。


「静電気だな、これは。刀に電流を流し込んだのは、剣はただの触媒で、本命の刀は雷そのものか。考えたな」


 その通りだ。
 雷魔法を刃に変えて、雪に反射させる。
 これが、マノンの攻撃方法だ。


 技を褒められ、マノンは嬉しく思った。




「だが、お前さんの本質はそこじゃない」




 それ以降、どれだけ攻撃しても、技が通用しない。
 刀も魔術も、担任に届くことはなかった。


 マノンの刀が、担任の銃でたたき落とされる。


「どうして、わたしの技が通じないの?」


「技に頼りすぎだ。静電気は偶発性が高い。自分でコントロールできれば別だ。が、そこまで巧みに操れないもんさ。それと、一発一発が弱すぎる。ザコ相手なら余裕で倒せる。けど、大物が出てきたときは、けん制にしか使えないだろう。目玉くらいなら潰せるだろうが」


 こうして、マノンのトレーニングは終わった。


 苦労して習得した技が、役に立たない。


 その事実に、マノンは打ちのめされた。


「そうしょげるな。地力を上げればいいんだ。お前さんならできるさ」
 ヒザをついて落ち込むマノンの頭を、担任の手が優しく撫でてくる。


「でも、わたしは筋力もない。エステルみたいに高い魔力も、体力もなくて」
「いいじゃねえか。お前さんにしかできないことがあるさ」


 担任から声をかけられても、マノンの悩みは消えない。


「どうした? なんか難しい顔をしてるな」


 やはり、担任に隠し事はできないか。


「今日、バイトしてたら、『この店を継がないか』って言われて」


 宿屋の夫婦は、よくしてくれている。
 接客だけではなく、料理も教えてくれた。恩はある。


 だが、自分は冒険者を目指していた。いつかは、ここを去らねば。


「わたし、どんどん冒険者稼業以外のことが上達していく。なんか、冒険者に向いていないのかなって。わたしは、何にもなれないまま、終わっちゃうのかなって」


「はーん。なるほどな」
 リンゴをかじりながら、担任は丘の下を眺める。


 人々の生活が見えた。
 暖炉の煙、鬼ごっこをする子どもたち。酒場に向かう兵士や冒険者。


 自分は一生、あの輪には入れないのでは。


「昔な、親になる予定だった子分がいたんだ。素質があってな。オレ様はいつか、そいつを後継者にって思ってた」


 担任の言葉は、全部が過去形だ。


「ところがな、もうすぐ嫁さんが出産だって時に、魔族が悪さをしてるって情報が入った」


 アジトを突き止めて、倒せば終わりだった。
 しかし、そのゴブリンは功を焦って、敵の魔法をまともに喰らったのだ。


「跡形もなく吹き飛んだよ。何も残っちゃいなかった。そいつの葬儀の翌日、子どもは無事に生まれた。今じゃ、そいつがオレ様の留守を預かっている」


 担任は鼻をすする。辛いことを思い出してしまったのだろう。


「つまりよぉ、これから先は、何が起きるか分からねえ。オレ様だって、魔王になりたくてなったわけじゃない。いつの間にか、魔王をやってる。だから、お前さんにだって、いつかは責任のある仕事が回ってくる。どうしようもなく、な」


「ありがとう、先生。わたし、これからもがんばってみる」
「ああ。今やれることに集中しな」




 担任が、またリンゴをかじろうとした。






 だが、その手が止まる。






「何か、様子が変じゃねえか?」


 複数の町人が、誰かを探している様子であった。


「行ってみよう」




 丘を降りて、事情を聞いてみる。


 一人の女性が、担任にすがりつく。


「娘がいなくなったんです!」


 いなくなったのは、前に犬を探していた少女だった。

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