魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

ぼっちアルケミスト ネリー

「ふざけやがって!」
 三人がかりで、生徒たちが襲いかかる。斧使いのドワーフ女子がリーダーだ。
 間にエミールが弓を構え、魔術師の少女が後衛で二人に筋力増強の術式を送り込む。


「油断しないでエミール!」


 エステルの呼びかけに、エミールはウインクで応えた。すぐに担任に向き直る。


「アタイの斧を、リードの剣と同じに思わないことね!」
 ドワーフの少女が、両手持ちの斧を片手で軽々と操った。
 男子にも劣らない腕力・筋力特化はドワーフの初期能力である。加えて補助魔法だ。どれだけの力量か。


 結果は分からなかった。
 担任が少女の懐に飛び込んで、アゴを蹴り上げてしまったからだ。


「当たらなきゃ意味がねえ」


 アゴを砕かれた少女が、あさっての方角を見つめながら夢の中へ。


 いつの間にか、エミールが矢を放っていた。


 だが担任は冷静に、魔法銃で矢を撃ち落とす。


「おい、そこのパーカー!」
 なぜか、担任がドワーフ少女の後方にいる、パーカーを着た少女に声をかけた。


「補助魔法なんてヤワな魔法なんて必要ねえ。お前さんの全力を使いな!」


 挑発を受けると、魔術師の少女はニッと笑う。パチンと、指を鳴らした。


 学校がグラグラと動き出す。なんと、壁の一部がひとりでに蠢き出した。
 レンガの影が人の形に剥がれる。
 教室の壁に、ストーンゴーレムが潜んでいた。


 リーダー格のドワーフ女子生徒が起き上がる。


「ネリー、そのゴーレムを使ってアタイをカバーしな! もう一度アタイの斧をこのクソ教師に――」








 言いかけて、女ドワーフの意識が吹っ飛んだ。
 ゴーレムのビンタによって。
 女ドワーフは地面でバウンドし、再び夢の世界へ。






「うっるっさいなぁ。クソはテメエだろーが。中途半端なドワーフのくせして粋がって命令してんじゃねーよ」










 ネリーと呼ばれた少女が、パーカーのフードを脱いだ。


「オイラは『錬金術師アルケミスト』志望のネリー・グディエ。人間より人形を操るのが得意な孤高ぼっち好き!」
 丸メガネの少女が姿を現す。
 桃色の髪、額に二本の角を生やした美人だ。


 彼女の素顔など、誰も見たことがなかった。
「いやー、アタイ学校なんてバカの行くところっしょって思ってた。前任者の『はい三人組つくってー』なんて拘束魔法のせいで、どれだけオイラが退屈していたか。人と合わせるのって面倒だっつーの! 一人で研究する方が有意義!」


 前担任の計らいを、ネリーは束縛魔法呼ばわりである。


「その点、アンタは面白そう!」
 ネリーは色の違う小型ペンを六本、両手の指に挟んだ。


 魔法石を使った、お箸サイズの杖である。

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