魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

探索とハプニング

 続いてジャレスは、呪文学の授業へ乱入する。


 教えているのは、ピエレット副学長だ。一〇センチしかない身体で、異界の呪文を唱えている。


 ジャレスは、生徒たちのノートを勝手に覗き込む。


「違う違う、呪文ってのは論理じゃねえ。気合いだ!」
 胸元で印を結び、ジャレスは異界の文言を吐き出す。
 魔界で通じる言葉を用いて、『浮かべ!』と叫んだ。


 一部女子生徒のスカートが、フワリと持ち上がった。
 授業中の生徒も、同じ被害を受ける。


 男子らが、女子の痴態に釘付けとなった。


「落ち着きなさいなの! 自分の魔力で呪文を払えば、辱めを受けませんなの!」
 ピエレットが、女子生徒たちに指示を出す。
 ちなみに、ピエレットには呪文が通じていない。ジャレスの術式も、高位のエネルギー体である妖精には魔力量では敵わないのだ。
 構うものか。こっちだって、いくらなんでも妖精の肌着に興味はないのだ。 


「そうそう、精神を研ぎ澄ませ! でないと面倒になるぜ! ギャハハハ!」


 女子たちは魔力を集中させ、スカートを魔法で押さえる。
 エステルやマノンなど、三分の一は成功したようだ。
 しかし、ここのクラスはダメのようである。


「待ちなさい、このエロ教師!」


「それで下手人を捕まえられたら、衛兵はいらねえんだよ!」
 エステルに向かって振り返り、ジャレスは舌を出す。


「またあなたなの、ジャレス・ヘイウッド! 教育委員会に訴えるの!」
 ピエレットは追っては来なかった。後が怖いけれど。


「はいはいどうぞご自由にーッ!」


 こちとら所詮、雇われの身。
 どうしても教師をやってくれと言われてやっている。いつやめてもいいのだ。


 続いて保健室へ。適当なベッドに横になってやりすごそうと、カーテンを開ける。


 そこには、先客がいた。二人組のカップルがベッドでコトを起こそうとしている。


「ち、違うんです先生!」


「いいから続けろ。ごゆっくり」と、ジャレスはカーテンを閉めた。
 ここはダメだ。他を当たるとしよう。


 その後もジャレスは、化学室で標本に化けたり、音楽室でリュートを歯で奏でたりして、生徒たちを翻弄する。
 モンスター牧場で甲羅の付いたブタを大量に放した時は最高だった。


 一旦休憩のため、物陰に隠れる。


 バカな生徒たちは、まったく見当違いの場所を探し始めた。


 このスキに食堂へ。
 生徒のやる気を出せるかは、彼らの腹を満たせるかどうかに掛かっている。
 実は、この学園で最も気になっていた場所だった。


「小さいな」


 自分の知っている食堂とは、すこし小規模だ。
 購買の方が大きい。
 買い食いが中心の学校なのか。あまり人が集まっていない。


「ちょいとひとくち」
 厨房に上がり込んで、金を払う。
 勝手にカレーをよそって一気に腹へ。


「合格点どころか満点だ。なのになんで受けねえんだ?」


「立地よ。経費削減で年々土地を削られちゃって」


「へえ、苦労してるんだな」
 スプーンをくわえながら、オバチャンと談笑する。


「そうだな。ちょっと学長と掛け合ってみらぁ」
「できるの?」
「期待しないで待っていてくれよ」


 オバチャンと別れて、ジャレスはかくれんぼを再開した。
 だいたい回りきっただろうか。職員室や校長室は最初に回った。


 あとはグラウンドか。


「いたわ。あそこよ!」
 草原に出ると、エステルの声が上がる。


 ゼエゼエと息を切らしながら、マノンも付いてきている。


 他の生徒は、何割かはバテてしまったらしい。


「ギャハハハ! オレ様の勝ちだな」
 自分を親指で指さし、ジャレスは胸を張る。


「クソが。まだ終わってねえから!」
 リードが息巻く。


「おう。次の授業に移るぜ」
 ジャレスは革ジャケットを脱いだ。


「オレ様と、一対一で勝負しなよ」


 次は、生徒ひとりひとりの力量を探る。

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