魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

ゴブリン先生、初授業

 気持ちを切り替えるために、席に着く。階段式の教室の一番前が、マノンの席だ。授業に集中したいからである。
 一向に、先生が現れない。始業のチャイムが鳴っても、状況は変わらなかった。


「なんだ、先生が来ないぜ」
 窓際にいるリザードマンの男子生徒が、教室を見回す。


 ノームの神官が、教室に入ってきた。この学園において一年生の学年主任を務めている。
 なぜそんな教師が、この落ちこぼれ教室に?


「おっほん。先日までお仕事をなされていた担任のマヌヴォー先生ですが、懐妊なされました。お産のため国に帰ることになります。今後は母国で育児のかたわら、お仕事をなさるそうで。退職願も受理されました」


 おー、おめでとー、と教室で拍手がわき上がる。


 マノンも手を叩いた。
 新しい命が生まれることは素晴らしい。
 彼女たちのような幸せこそ、マノンが守りたいものだった。


「で、ですね。今回新しい先生をお呼びしました。では、ジャレス先生」


「はいはーい」と、ドアが豪快に開く。


 小さな子どもかと思った。実際に現れたのはゴブリンだ。


 ゴブリンは「どっこいしょ」と、教卓の上であぐらをかく。 


「今日からお前らの担任になる、ジャレス・ヘイウッドだ。よろしくな。まあなんて呼んでもいいが、担任でいいや」


 言いながら、担任は膝をパチンと叩いた。


 生徒たちの反応が鈍い。


 それもそうだ。


 ゴブリンは、一応エルフ族と先祖が同じである。
 とはいえ、能力差は計り知れない。
 かたや冒険者から引っ張りだこの種族、かたやザコキャラである。


「ちょっと待てよ、おっさん」
 リザードマンの男子生徒が、机に脚を引っかけた。


 担任が出席簿を確認する。


「どれどれぇ? お前さんはたしか、リードだったか。何の用だ?」


「オレら、ゴブリンから戦闘を教わるのかよ?」
 リードと呼ばれたリザードマンが、敵意を露わにした。


「失礼ですね。こちらの方は……」
 言いかけた神官を、ゴブリン担任は「いいっていいって」と制する。


「気にくわねえヤツは出て行っていいぜ。オレは止めねえ」


「あんたを追い出すって選択肢は?」
 リードが、担任を挑発した。


「ほほーう。威勢がいいな。がきんちょは、こうでなくっちゃな」
 口元をつり上げ、担任はコクコクと頷く。


「ちょっとリード、やめなさい!」
 生徒代表を務めるエステルが、席を立つ。


「んだよ、生徒会長。こんなヤツの肩を持つのか?」
 不満に満ちた様子で、リードが担任を指差す。


「ゴブリンから教えを受けることに不服なのは分かります。しかし、問われるべきは資質でしょ?」
 エステルがリードを諭した。


 不敵な笑みを浮かべ、担任は大げさに肩をすくめる。
「いいぜ。オレを追い出してみろよ。ただし力尽くでな!」


 いきなり、担任が窓に向かった。
「今からオレは学校内を逃げ回る。オレを捕まえられることができたら、卒業させてやる!」


「マジか?」と、リードがやる気を出す。


「おお。校長に掛け合ってやるよ。第一、先生に勝つようなヤツならめでたく冒険者だろーが!」
 担任が、窓から飛び出した。


「上等だよ、やってやろうじゃねえか!」
 リードが後を追う。

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