魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画愛好家

ゴブリン教師、爆誕!?

 マノンらは、依頼先の村へ向かうという。


 ジャレスは、マノンたちに同行してくれと言われた。マノンではイノシシを担げないからだ。礼もしたいという。
 こちらとしては、ついでで手伝っただけなので、構わないのだが。


「ご迷惑をおかけしました」
 エルフの女性が、トラブルを起こしたことを村人たちに詫びる。


「いやいや。嬢ちゃんはよくやってくれたわい」
 作物を食べられる被害は解消したので、村はマノンをありがたがった。


「ショボい依頼だからって、あんたら冒険者ギルドが蹴ったクエストを、この娘さんはイヤな顔一つせず引き受けてくれた。ご自分の学業も大変だってのに」
 村長が嫌味を言う。相当に雑な扱いを受けたのだろう。


 しかし、ウスターシュ学長には怒られる。
「功績をあげたい気持ちは分かる。しかし、自分の身を守れぬ者に、冒険者は任せられん!」


「ごめんなさい」
 言い返さず、マノンは素直に頭を下げた。


「いいじゃーん。助かったんだからさー」
 ジャレスが、マノンの肩を持つ。


「部外者は黙ってなさいなの! これは冒険者学校の問題なの!」
 ウスターシュのカバンから、ピエレットがニョキッと身体半分だけ出す。


「へいへいほー」
 面白くない。ジャレスは「チッ」と舌打ちをした。


「本当はお説教したいところなの。とにかくケガがなくてよかったですなの。生徒は我々冒険者学園の宝なの。それ以前に、小さな命は、我々大人の財産ですなの」
 ピエレットも、頭ごなしにキレるわけではない。生徒を心底、気にかけているのだ。


「はい」
 だからこそ、マノンも素直に従うのだろう。


「今後は気をつけなさいなの」
 それだけ言うと、ピエレットはカバンに引っ込んだ。


「マノン・ナナオウギさん、キミの祖父ナナオウギからは、あなたは優しい人だって聞いています。功績を焦っていたのではないのよね?」
 ウスターシュとは対照的に、担任の先生はそっと語りかける。


「今のままでは、みんなに追いつけないって思っていたのは、事実です。けど、村が困っているのに、誰も手を貸さないなんておかしい」
 マノンの主張を、先生は黙って聞いていた。


「先生さんよぉ、マノンは自分の信念に従っただけだぜ。大目に見てやってくださいませんかねえ?」


「だから部外者は黙ってろなの!」
 ピエレット副担任は、ジャレスの横槍に不満な顔を見せる。


 ウスターシュは「ふーむ」と、態度を軟化させた。


「うっ……」
 突然、エルフ担任がうずくまる。お腹を押さえていた。


「どうなさった?」


「ええ、その」
 マノンがエルフの側に寄り添い、ヘソの下辺りをさする。


「もしかして?」
 エルフ担任はコクリと頭を下げた。


「何があった?」
 気になって、ジャレスも二人の側に。


「先生は去年結婚したばかり。となれば、可能性は一つ」


 おめでた、か。


「あの、すいません。騙し騙し仕事をしていたのですが」


「いえ、めでたいことですな。ご無理なさらずお体を大切になさってください。寒くなるといけない。今日はもうこの辺で」
 ウスターシュが、エルフ先生と同じ目線までしゃがみ込んだ。


「ありがとうございます。失礼致します」
 エルフ先生は立ち上がる。


「マノン生徒、先生についていってあげてくれないか?」


「……はい」
 一拍おいて、マノンは先生エルフに肩を貸す。


「おい、これ持っていってやんな」
 村長が、マノンにカゴを渡した。大量の野菜と、さっきのイノシシ肉だ。


「一番いい野菜を入れてある。急ピッチでさばいてきた。お子さんが生まれるってなりゃあ、精をつけねえとな」
 腰に手を当てながら、村長が威張る。


「ありがとうごさいます」


「いいってことよ。こんなもんしか、あげられねえんだから」


 村長とウスターシュが相談し、商談はまとまったようだ。エルフ先生のアイテム袋に、イノシシ肉を軽々と入れていく。


 マノンへの報酬は、イノシシ肉の代金で支払われた。


 ただ、それでも荷物は入りきらず、カゴも持って帰れない様子。


「待っておれ」と、ウスターシュは指を鳴らす。


 何もない空間から、白銀の馬車が現れた。まるで児童文学の世界だ。


 ウスターシュとマノンで、馬車に荷物を積む。


「これに乗って、先生を送り届けてくれ。その後で自分の下宿先に帰るがよい。荷を降ろせば、馬車は自動的に消滅する」


「ありがとうございます、校長。それでは」
 そう言って、マノンはエルフを連れて帰って行った。 


 二人の影を、ジャレスは見送る。




「察しのいい生徒だな。人払いだって一発で見抜きやがった」




「気づいていたか」と、ウスターシュもマノンの洞察力を評価した。
「その察しの良さが、あまりプラスに働いていない。そこが、あの娘の弱さだ」
 なにやら、含みのある言い方である。悪い予感しかしない。




「そうだ。お前、教師をやってみんか?」


「オレ様が?」


「ちょうど、教師枠に空きができた。軽い手続きが済んだら、お前を迎え入れよう」


「正気なの、学長?」
 すぐさま、ピエレットが反論した。


「彼女では、あやつらは荷が重すぎてな。彼女は身を固め、新たな命を身に宿した。ストレスから解放してやるべきだ」


「そのストレスが、オレ様に来るわけだ」


 魔王づかいの荒い男である。


「この男は魔物なの? そんな野蛮人に教師が務まるとでも思っているなの?」


「魔物だからこそ、得意な部分もある。砂礫公と呼ばれたコイツなら、我が校の問題児共をまとめ上げられると思う」
 ウスターシュは意見を曲げない。


「もし、断ったら?」


「国王に頼んで、砂礫公とは国交を断絶する。お前への資金供給もナシだ。辺境の地で寂しく暮らしていくがいい」


「横暴だぜ。共にこの地域に発生した魔王を滅ぼした仲だってのに」


「仲間だからこそ、お前に教師を頼みたいのだ。新たな時代に向けて、魔族に対抗できる生徒を、本当に人を大切にできる生徒を育てるのだ。お前ならできると信じているぞ」




 過大評価過ぎだ。本気でジャレスが子どものお守りに向いていると思っているらしい。




「考えといてやるよ」
 付き合いきれないと、ジャレスはその場を後にした。

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