それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

5-1

不意に、番組研の門が叩かれた。
「はい?」
僕が応対し、引き戸を開ける。

三年の女子が、僕を見上げていた。
ボリュームが重めのおかっぱで、まるで表情を隠すように大きな眼鏡をかけている。スカートの丈も、膝が隠れるくらいに長い。

「あ、聖城せいじよう先輩」
「お邪魔するわよ」
僕の脇をすり抜け、聖城先輩は部室へ入ってきた。適当な場所に正座する。
「三の一、聖城せいじよう 頼子よりこです。説明は必要かしら?」

「いえ、生徒会長」
僕は首を振った。

長戸ながと高校の生徒会長にして、クイズ研究部のエース。
本来部長を務めてもいい学年なのに、自分の腕を極限まで磨くため、聖城先輩は部長の座を、僕の姉に譲っている。

「あなたたちの元にやってきた理由は、分かるわね?」
生徒会長の問いかけに、無言で頷く。
「我が学園にクイズ研は二つもいらないわ。解散するか、吸収されてちょうだい」

コンパクトな要求だ。もっと回りくどく懐柔してくるのかと思っていた。

「お言葉ですが、僕たちはクイズ研とは違って、クイズの出題方法などを模索する部活でして、娯楽性を重視しているんですよ」
「それは、クイズ研究部でも可能なんではなくて?」

「できません」
ここは譲らない。実際に不可能な領域までなってしまったので。

クイズ研究部は、実戦的な出題法を要求される。
下手に娯楽性を設けると、かえって勝負勘などを削ぐ恐れがあって、練習にはならない。
問題の内容傾向にも注意が要求されるなら、尚更だ。

クイズ研がエンジョイ勢に歩み寄り、という案も考えていない。
聖城先輩までとはいかなくとも、クイズ研は真剣勝負を求める部活である。
そこに僕らみたく陽気な集団が加入しても、波風が立つだけだ。
クイズ研の邪魔など、僕たちにはできない。

よって、僕達が手を取り合う案はことごとく消える。

「また、僕は解答者いじりやツッコミも、番組研には必要だと考えてます」
これは僕が、解答者の緊張をほぐす、リラックスした姿勢でクイズに挑んでもらう事も考慮しているからだ。
「ご理解いただけましたか?」

「そうね。あなた方の意見はよく分かったわ。部の存続、検討してみましょう」
聖城先輩も、僕の考えに理解を示す。
異分子が入り込んで部内の空気が乱れるのは、生徒会長だって望んでいないはずだ。

「ならば、津田さんだけでもクイズ研に戻してもらうわけには、いかないかしら?」

僕は返答しない。どれが嘉穂さんにとっていい事なんだろう。

姉さんは「嘉穂さんは今のクイズ研にいると、潰される」と予想している。

だが僕は、そこまで嘉穂さんが弱い気がしない。ただ、時間は掛かるだろう。
嘉穂さんに必要なのは知識ではない。知識だけなら、幼少期から自分で十分取り込んでいる。

足りないのは、精神面だろう。

もっと場慣れとか対戦相手に負けない度胸、メンタル面の強化が必要だ。
メンタルを鍛えるなら、ここの方がいい。
現行のクイズ研では、分厚いプレッシャーに飲まれてしまう。

「え、でも……」
案の定、嘉穂さんは返答を渋る。それでいい。すぐに答える必要なんてないんだ。

「あなたにとっても、悪い話ではないと思うんだけど?」
「ですが、わたしはもう、ここが自分の居場所だと思っています。今更、クイズ研に帰るなんて」
「そんなに、福原部長がお嫌い?」
聖城先輩が、核心を突いてきた。

「そういうわけじゃ、ないんです」
分かっている。
こっちに遊びに来て以来、姉さんは嘉穂さんから頻繁に相談を受けていた。
嫌っていたら、そんな菅家になんてならないよな。

「じゃあ、何が違うというの? クイズだけなら、クイズ研の方が質も高い。こんな公私混同甚だしい、お遊びのような部活に留まる必要はないと思うんだけど? それともあなたは、遊んでる方がいいの? それで、大事な高校生活を過ごしてしまっていいと?」

「ですから、わたしは」
オドオドと口を開こうとした嘉穂さんを、何者かの溜息が遮る。

「あんたが嫌いだっていうのが分かんないのかなぁ?」

なんと、膠着した空気に風穴を開けたのは、やなせ姉だった。

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