それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

4-5

食事を終えて、二度目の取材を行うことに。
「どこに行きましょうか?」
「適当にブラブラしよう。考え込んでても、ロクなアイデアしか湧かないよ」
洋服売り場まで辿り着く。
高級な物から、手が届きやすい価格の物まで、様々なタイプの衣装を着たマネキンが、ショーウィンドウに並ぶ。

「うっふうん」とか言いながらポーズを変えるマネキンまで立っていて。

……って、マネキンって喋ったっけ?

「何やってんの、お前ら」
格安洋服売り場の試着コーナーの前で、湊とのんがファッションショーをしていた。セクシーポーズのつもりなのか、艶っぽい声を出してはしゃぐ。
「おや、珍しいね。こんな所で会うなんて」
「おお、しょーたじゃん。これ似合う?」
二人が穿いているのは、お揃いのダボッとした七分丈のパンツだ。
「そのパンツ、何て言うんだっけ?」
「しょーたも知らないのかー」
あいにくファッションの知識は苦手なんだ。今後の課題かな。

「これはなぁ、しょーた……ガチョウパンツだ!」

思わず、ガチョウが七分丈のパンツを穿いて走り回る映像が浮かんだ。
「ガウチョパンツだよ」
間違えたのんの代わりに、湊が正解を教えてくれた。
湊は肩の出たシャツに、キャメルカラーのガウチョを穿いている。
大胆にもヘソ出しという服装だ。
帽子のツバの上には、デカイサングラスが鎮座している。

のんはラグビーの選手みたいな柄のTシャツに、真っ白のガウチョだ。
例の日本一有名な選手のポーズで決める。

一歩間違えると一気にダサくなるファッションなのに、二人が着ると絵になるから不思議だ。

「二人とも可愛いです!」
「うん。正直、何も言葉が出ないと」

事実、とてもよく似合っていた。文句の付けようがない。
湊の私服姿は初めて見たが、こんなにセンスが良かったのか。
のんの方も、子供っぽさを残しつつ健康美を醸し出している。
湊のコーディネート力の賜だろう。

「見とれちゃダメだよ、福原」
「そうだぞー蹴るぞー」
なんで蹴られないといけないのか?

「問題。ガウチョとは、ズバリ何語でしょう?」
お返しとばかりに、僕は即興で問題を出す。

「ラテン語!」
「アメリカ語!」
どっちも不正解!

「ポルトガル語だ!」

「嘉穂たんも着ていかないかい? 買わなくてもいいから」
「そうですね。せっかくですし」
ガウチョが置かれているコーナーへと、嘉穂さんが向かう。アップリケが施されたベージュのガウチョをチョイスした。
鏡の前で、嘉穂さんがガウチョを腰に当てて考え込む。
「おお、似合うかも」
「ナイスな選択なのだ」
二人の反応もいい。
「これ、可愛いです。これにします」
実際、僕もこれは嘉穂さんにはピッタリだと思う。
「ちょっと着替えますね」と、更衣室へ。
その間、僕は湊とのんに包囲される。
「ところで、お二人は何をしていたのかな?」
大袈裟に湊が問いかけてきた。
「取材だよ。言っとくけど、やましい事なんてしてないからな」
「誰も聞いてないんだよなあ」
湊がニヤけ顔をする。
これは、墓穴を掘ってしまったか。
「昼飯は済んだのかー? オイラ達は先に食ったぞー」
「オシャレなバルで食事したんだ。前菜のバーニャカウダが最高だったな」
あれって、ニンニクが入ってたよな。女二人だから平気か。

「バーニャカウダは何語だ?」
再度、即興で問題を作り上げる。
「イタリア語!」
「ピエモンテ語!」
悔しい! どっちも正解するなんて!
確かに、イタリアのピエモンテを代表する料理だ。
二人のドヤ顔が、なおさら敗北感を煽る!

「ああ、僕らも済ませたよ」
「ここのご飯は全部おいしいからなー」
のんは至って普通の問いかけをしてきた。
コイツにとっては僕たちは普通に遊んでる風に見えたのだろうな。
「楽しんでるならいいけどさ。ウチら、邪魔しちゃった?」
「そんな事ない。二人だと会話が続かなくってさ。何を話していいか分からない」
「クイズの話でいいじゃん」
のんの言葉も、もっともなのだが。
「まあ、取材中だからね。でも、コツを教えるとそのまま答えになってしまうから、僕からは話しづらいんだよ」
「難しいな。もう告白はしたのかい?」
「すすす、するわけないだろ!」
「何だぁ。つまんない男だな、キミは」
ほっとけ! 僕はそういうんじゃないから!
「でも、腹減ってるなら言った方がいいぞー」
実に平和的なアドバイスが、のんから飛ぶ。こいつの脳では色恋ネタはまだ処理しきれないのだろう。

「あのー、お待たせしましたぁ」
嘉穂さんが、着替えを終えて僕たちに近づく。
なるほど、こうなるのか。

アップリケ満載で子供っぽい服でも、童顔の嘉穂さんが着ると実にフィットする。
ちょっと出ている足首もポイントが高い。
かわいい。思わず声が漏れそうになった。

「ホラ、ウチの睨んだ通りじゃないか」
「ホントですね。ありがとうございます、湊さん」
「さて、どうする? ウチら、着て帰るけど」
「値札見たら、セール中みたいでめっちゃ安いんですよ。買ってきますね」
語尾に音符でも出てきそうなトーンで、嘉穂さんがレジに向かう。
「わたしも、着て帰ることにしました」
ガウチョパンツのまま嘉穂さんが店から出てきた。
「あ、そうだ。あやせ先輩もいるんですよね!」
突然、嘉穂さんがスマホを出して、やなせ姉を呼び出す。
「あのですね、今からちょっと余興をしようかと思うんですけど、いかがですか? OKですか? はい。ではお待ちしています。西畑くんも是非ご一緒に」
笑顔で、嘉穂さんがスマホを切る。
「何をやる気だー?」
のんが聞くと、嘉穂さんがガッツポーズを取った。
「特別部活動です! 晶太くん」
嘉穂さんが、僕達に自分の考えたことを説明する。
楽しそうなアイデアに、僕も手応えを感じた。

「それ、面白いかも知れない」

実に面白い企画を、嘉穂さんはやろうとしている。
「でしょ? 課外授業で開放的になりますし」
「嘉穂たん、やるね。実に面白そうだよ」
「楽しみなのだ!」
今日の成果も兼ねて、ひとつクイズ番組をやってやろうじゃないか。
僕は、慶介に連絡を入れる。

「あ、慶介? デジタルビデオカメラ持ってるか? 小さいのでいいんだ。よかった。それで撮影してもらいたい。OKか。ありがとう」

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