それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

4-4

僕が語り出すと同時に、食後のコーヒーが運ばれてきた。

「全国小学生クイズ対抗戦って知ってる?」

三人一組による団体戦形式で行われる全国の小学生が集まるクイズの試合だ。
「知ってます。病室のテレビで見てました」
試合の話を振ると、嘉穂さんがちょっと悔しそうな顔をした。
「私も、体調が良かったら出たかったですもん。その試合」
コーヒーカップを両手で持ちながら、彼女は当時の心境を語る。

「六年生最後の夏、僕は予選第一問の舞台に立っていた」

団体戦一次予選は、○×問題だ。
二人から期待を寄せられていて、僕に任せていれば大丈夫、という空気があった。
しかし、当時の一回戦は、思いっきり選手をふるいにかけるような超難問が出たのである。
「覚えています。私にも分からなかったんですから」
すると、友達が○を選ぶ。が、もう一人は×だと言い出す。

「僕は、×と思う、と答えたんだ」

最初は○かなと思っていた。その時は。
議論しているうちに、×と答えた友達が正しい気がした。
そいつは誰よりもクイズが好きで、物をよく知っていたから。
僕は彼を信じて、×に決定した。

だが、正解は○だった。

僕が自分の我を通していれば、正解できたのに。

僕は満足していた。これが実力だ。仕方ないと諦めは付いていた。

二人は違う。
両者の持つストイックさが、お互いの失敗を許さなかったのだ。
友人が「お前のせいで負けた」と別の友人を責め始めた。
僕を誘導したのだと。
相手は「自分は間違ってない、あれが正解だと思ったから解答した」と反論し始める。
両者は譲らない。
真剣に、どちらもクイズに取り組んでいた。
いわゆるガチ勢というグループである。
三人で仲良くクイズを楽しめたらそれでよかったと、僕は思っていたのだけれど。
やめろ、やめてくれと、僕は何度も心で思った。
しかし、ケンカは止まらない。

「僕は、どっちも友達だと思ってた。楽しくクイズができれば、それでよかった。それなのに、ケンカは段々エスカレートしていって」
両者の肩を掴み、僕は強く仲介に入る。
でも、二人が言う。

『お前は悪くないから、引っ込んでろ』

「僕は、その言葉で心が折れてしまった。二人が僕を嫌いになったわけじゃないけど、僕は二人の間には入れない。そう感じてしまったんだ」

一番悪いのは、一番クイズに真面目に取り組まなかった僕だ。

自分の意見を通して、前に出て解答していれば、二人は争わずに済んだのに。

卒業後、僕たちは別々の学校へ行った。お互いの関係から逃げる形で。

たった一回のケンカが、僕たちの関係を壊してしまった。

「それ以来、僕は解答者側に立つのをやめたんだ。僕は、クイズに対してストイックになり切れない。あいつのようにはなれないって思った」

「連絡も、取り合ってないんですか?」
僕は首を振る。
「一人は慶介だよ。僕と同じ中学に進んだんだ。あいつとは家も近いし、すぐに和解できた」
ちなみに、僕と同じく○を出した方が、慶介だ。

「もう一人は、さっき本屋で会ったヤツだよ。あいつとは、まだ仲直りができてない。なんでいって会えばいいのか……」

クイズを続けてくれたのは嬉しかった。けれど、ストイックさがより増した気がする。

「本当に、福原くんの選択は間違っているんでしょうか?」
嘉穂さんが急に真面目な顔になった。
「だって、あの当時の大会って、知の甲子園化が過剰になっていた時期ですよね?」

前回優勝者が、授賞式で運営に向かって猛抗議したほど。

――今年の問題は難しすぎる。これではクイズが先鋭化していく一方だ。ビギナーに浸透しなくなって、層が先細りする。

彼のそんな発言が、ネットで議論を呼んだ。
三年経った今でも、クイズの難易度調節の論争が絶えない。

「だからって、晶太くんだけが苦しむのって、おかしいと思うんです」
しっかりとした口調で、嘉穂さんはそういってくれた。
どうやら、彼女を困らせてしまったようだ。
「ありがとう。嘉穂さん。そういってもらえるだけでも嬉しいよ」
安心させるように僕は告げる。
「もう大丈夫だから、少し元気が戻ったよ」

「わたしは、そんな……」

手をバタバタさせながら、不器用に嘉穂さんが笑う。

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