ましろ・ストリート

しーとみ@映画愛好家

ましろ、館長の過去試合を振り返る

どういうわけか、ワコが早々と練習を切り上げた。

「最終調整前に、軽いメニューで終わるのか?」
「見てもらいたいビデオがあるんじゃ。参考になると思う」

蒼月流の道場の二階にある事務室にて、ましろと龍子はソファに座らされた。
今日のメイン特訓は、ビデオ鑑賞である。

ワコによると、大昔の試合を見せてくれるらしい。VHS付きのHDDレコーダーが用意される。

「おいおい、この時代にテープかよ。DVDレコーダーくらい売ってたじゃねーか?」
「何を言う。五年前と言えば、まだまVHSは現役じゃぞ。テープでしか見れん映画も沢山あるくらいじゃて」

確かに、職場の研修ビデオなどは、いまだにVHSが現役な所が多い。

「単にワコ館長が、機械オンチだけなんじゃないの?」
「ハードディスク予約くらい、ワシにもできるわい。娘らに教えてもらっているからのう」
からかわれたワコが激昂する。

「ワコ館長って、お嬢さんがいたんですか?」
「これでも二人産んだ経産婦じゃぞ」
心外だとばかりに、ワコはましろに向けて言い放つ。

「もっとも、二人の娘は格闘センスがなく、すぐに嫁に行ってしもうたが」
「それで、一番弟子の長谷川師範、つまり、茜の父親が後を継ぐはずだったんだよ」
龍子がワコの言葉を引き継ぐ。

しかし、長谷川師範は病に倒れ、龍子が蒼月を継ぐことになった。

「だとしたらさ、長谷川茜も、蒼月を継ぐ資格があったって事?」
「まあな。あいつからすれば、まずジゼルとの関係を清算したいんだろうな」

龍子が言うと、重い静寂が続く。
しばらく、ワコがテープの準備をする音だけがしていた。

「では、始めるとするかのう」
ワコが再生スイッチを押す。

内容はジゼル南武と蒼月ワコの試合だ。
映像も、今の技術のように美しくはない。が、凄まじい気迫は、映像を通して感じられた。
若かりし頃の蒼月ワコが、龍子にひけを取らない空中戦を披露する。

「これが若い頃のジゼル南武かよ、まんま長谷川茜じゃん」
「あの二人、ホントに親子なんだね」

ましろたちは、ジゼル南武の美貌に圧倒された。
モデルがリングに上がっている、それがましろの感想だ。これでプロレスラーだというのだから、恐ろしい。

「この当時から、モデルのオファーもあったらしいが、プロレス協会が離さなんだ。ジゼルを縛り付ける協会のやり方は異常じゃった。束縛が私生活にまで及んだのじゃからのう。ジゼルはそれだけの逸材であり、誰も手放そうとせんかった」

真剣勝負を望むワコに対し、ジゼルは常におどけてみせて、挑発をし続けていた。
ましろにはわかる。これが並大抵の体力や技術ではできないと。
プロレスの何たるかは、これまで龍子に何度も教わってる。

「あやつとの死闘は、壮絶じゃった。六〇分、お客を楽しませ続けた」

「どうして、そこまで」
「あやつも、長谷川を弔っていたのじゃ。みんなが、自分のために泣いているのが耐えられん男じゃった。だから、ジゼル南武だけは、あやつを笑って見送ろうとしたのじゃ」

「長谷川茜さんのお父さんって、どういう人だったんですか?」
「蒼月流きっての芸術品じゃった。強さの中に正しさ、品格を持ち合わせておったのう」

しかし、病には勝てず死んでしまった。蒼月流の全てを茜に託して。
残った肉親が、長谷川師範を捨てたジゼル南武だ。

「ジゼルも不器用でな、子の育て方を知らなんだ。じゃから、こんなふざけた興業を始めたのじゃ」
「ところで、ジゼル社長は、なぜ長谷川師範を捨てたんですか?」
ましろは疑問に思った。どうしてジゼルは茜と離れて暮らしていたのだろうと。

「捨てたのではない。捨てさせられたのじゃ」

「誰に?」
「当時の団体にだよ」と、龍子は言う。

「どうして、そんなひどいことを」
「ジゼルを売り出そうとしていた時期に、ジゼルが身ごもってしまったからじゃ」

二人は結婚の約束まで交わしていたが、会社側がジゼルの売り込みを優先した。
結果、ジゼルは茜と離ればなれにされてしまう。

ジゼルは運営の思惑通り、最強のレスラーとして育った。
だが、団体の以降を無視して渡米。興業を大成功させて自身の地位を確立した。
直後、海外の団体と勝手に契約をする。
帰国したジゼルは、自分を縛り付けていた当時の経営陣を全て解雇した。いわば乗っ取りだ。

ジゼルは目実ともに日本プロレス界のトップに上り詰めた。
これが現在の『ノーフューチャー』誕生秘話である。

「それじゃあ、長谷川茜が海外に進出した理由って」
「連れて行かれたのじゃ。自分が勢力を拡大している間、世間や団体から茜の存在を隠すために。見つかったら、利用されるかも知れんかったからのう」

龍子は全く会話に入ってこようとしない。
まるで何かを思い詰めているような眼差しを、ずっと画面に向けている。

龍子はヒザを叩く。「自主練してくる」

「わたしも付き合うよ」
「あんたは自分の試合があるだろ? 館長に付き合ってもらうから、あんたは帰んな。明日、撮影早いんだろ?」

龍子は練習に向かってしまった。

話を聞いた手前、ましろも追いかけない。

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