ましろ・ストリート

しーとみ@映画愛好家

ノーフューチャー、茜に牙を剥く

Aブロック第二試合は、屋上を貸し切って行われる事になった。
実況と解説まで、ぬかりなく配置されている。
スタッフの手際がいい。かなり前から仕込んできたようだ。

近づけない。相手はずっと背が低いのに、随分と大きく見える。

「来ないの。仕方ないなぁ。じゃあ、こっちから行くよ!」
ブレイクダンスのように、金剛院がマットに背中を付けて回転した。手の力だけで跳ぶ。
足踏みのような動きで、上から蹴りを浴びせてきた。

腕を回して受け流す。

滞空時間が長い。
蹴りながら、こちらの防御する腕を足場にして飛び跳ねるとは。

金剛院は器用でいて、技のクセが強い。
誰も相手にしたがらないわけだ。
余裕を持っているような表情も憎たらしい。

だったら、と、茜は金剛院の足を掴む。

「あれ?」と声を漏らし、金剛院が驚く表情を浮かべた。掴まれていない足で、茜の顔を踏んづけようとする。

顔を蹴られる前に、茜は金剛院の身体を、一本背負いの要領で投げ捨てた。
金剛院を顔から落とす。

『おっと、足で一本背負いです。これは痛い!』

追撃はしたいが、何をしてくるか分かったもんじゃない。

ぐるり、と身体を竜巻のように捻り、金剛院は跳ね起きた。
「あの足技に合わせて背負い投げなんて、よく反応できたね」

「格闘からなら、無理でしょうね」
その点、自分はカンフー映画などにも出ている。あのような奇襲など、受け慣れているのだ。

「君のような技のコンセプトは、アクション映画の殺陣を実戦に用いること。ジークンドーに近いのかな?」
「ジークンドーは実戦により近いわね。私の技は、殺陣側に寄っている」
茜は、腕を前に突き出して構える。

対する金剛院は、腰を低く落として、組み技を狙うような動きを見せた。

突進してくる金剛院をヒザ蹴りで迎え撃つ。低く構える相手には、これだ。ボマイエ。

だが、金剛院は止まらない。
ばかな。わざわざボマイエに当たろうというのか。

茜の膝が、金剛院の顔面を捉える。
だが。金剛院はインパクトの瞬間に跳んだ。茜の膝を抱えたままで。

「お返しだ!」
茜の足一本背負いに対抗してか、足をつかんでのスープレックス。

対処しようにも、無理な体勢でされるがままだ。
受け身を取り損ね、顔面からマットに落ちた。
失神してしまいそうな衝撃が走る。
喉から、言葉にならない嗚咽が漏れた。

『金剛院選手、覇我音選手の足をキャッチして、無理やり投げ飛ばしました!』

危うく、勝負を決められるところだった。ギリギリの精神状態で踏ん張る。

シンプルな強さで測定すれば、銀杏の方が上だ。

だが、金剛院と対戦した選手は口を揃えて言う。
「もう二度と戦いたくない」と。

銀杏とは全く逆のタイプだ。シンプルで無駄がない銀杏に対し、隙だらけ。
なのに金剛院の動きは、それすら武器にしているように思う。

油断をすれば食われる。
想像以上に、金剛院は曲者だ。

けれど、ここで負けたら一生ジゼル南武を越えられない。
気がつけば、喉を振るわせ、獣のような雄叫びを上げていた。

起き上がった拍子に、金剛院の顔面へ拳をぶつける。
相手を怯ませた程度だが、それでいい。
続けざまに、両手をマットについて逆さ向きに飛んだ。
空中で逆立ちの状態となった茜は、金剛院の後頭部へヒザを食らわせる。

『あっとボマイエ! 逆立ち状態でボマイエを叩き込んだ!』

しかし、無理な体勢からはなったせいか、混合員は大して効いていない様子。

「いやあ、すごいねまったく。さすがジゼル南部の娘さんってところかな?」
頭を押さえ、金剛院は苦笑いを浮かべた。こんなときでもピエロを演じられるとは。

ジゼルの名を出され、言い返そうとしたが、茜は口を閉ざす。
金剛院の顔から飄々とした表情が消え、真剣な眼差しが光ったからだ。
立ち上がって、トドメの姿勢になる。

「覇我音ぇ!」
今度は、金剛院が叫んだ。拳を振り上げながら、こちらへと向かってくる。

身体を旋回させ、茜は上段後ろ回し蹴りを繰り出す。

だが、急ブレーキをかけ、金剛院はスウェーでかわした。恐るべき超反応だ。

『あっと、後方回し蹴りがスウェーで避けられた! しかし、覇我音選手の軸足が、真上に上がっている!』

宙に浮いたまま、茜は金剛院のむき出しになったアゴへと、カカトを落とす。

金剛院の脳天が、マットに突き刺さる。
衝撃で、身体が大きくバウンドした。

カカトに金剛院のアゴを叩き込んだ状態のまま、リングへと着地する。

これでダウンだ。
茜はゴングを聞くまでもなくロープを跨ごうとした。

「続行!」と、レフェリーが宣言する。

まだ相手は動く。
悟った瞬間的に、ローリングソバットを仕掛けた。

しかし、金剛院はソバットの脇をすり抜ける。茜の腰を掴んだ。高速バックドロップで茜をマットに叩き付ける。
ブレイクダンスのような動きで、金剛院が跳ね起きた。

まだ目の前を、星が瞬いている。
ここで起きなければ、負けだ。意地でも膝を立て、身体を起こす。

見れば、金剛院だって半分、死に体だった。目に力がない。
さっきの攻撃で、確実に仕留めるつもりだったのだろう。プロレスラーの根性だ。
半分死に体、つまり、半分は生きているということ。

こちらが倒さなければ、死ぬのはこっちだ。
やるか。できればこの技は決勝まで、いや、ジゼル南武と戦うまで温存しておきたかったが……。

身体を大きく横へ傾け、腰の辺りで右の掌打を構える。

「その構えは、蒼月流だね? どんな技かは分からないけれど」
「これは我が父直伝の技。蒼月流の中でも、長谷川の家にしか伝わっていない」
「それは見物だ。長谷川茜のとっておき。是非とも見せていただきたいね!」

金剛院がボクシングの構えを取って、突進してくる。打撃戦に持ち込む気だ。

さっきのバックドロップが、予想以上に効いている。脚に踏ん張りが利かない。

おそらく、これが最後の一撃となる。
だからこそ、試す価値があるのだ。

金剛院のストレートパンチが飛び出す。
頬を、パンチがかすめた。

捨て身のスウェーで、金剛院の懐をゼロ距離で捉えた。

ドン、と掌打を金剛院のみぞおちへと放つ。

金剛院の身体が、大きく、くの字に曲がる。まるで、跳ね上がるように。
茜は、さらに、グン、と手の平に捻りを加える。

膝が崩れ、金剛院の顔に、生気が失われていく。やがて、ぐにゃりと身体を倒し、動かなくなった。

『KOっ! 金剛院選手立てない。覇我音選手、準決勝進出!』

レフェリーに腕を上げられながら、茜はジゼル南武の姿を探す。
どこにもいない。
負けた刺客に情けはかけぬ、というのか。

『それにしても、今の技は何でしょう? 見たことありませんよ?』

「ありがとうございました」
茜は金剛院の腕を取り、立たせる。

「あはは、負けちゃった。完膚なきまでに倒すつもりだったのになぁ。やっぱり、さすがジゼル南武の――」
言いかけて、金剛院は首を振った。
「ごめん。違うね。キミは長谷川茜だからこそ強い。実際に戦ってみないと、分からないものだね?」

「ありがとうございます」
茜は、金剛院の気遣いに感謝した。

マイクを持って、金剛院はトップロープに登る。
「みんな! 今日は、ゲリラ興業だというのに、集まってくれてありがとう! これからも応援よろしくね! じゃあ、いつものいくよ」
言って、金剛院がマイクに向かって、「三、二、一」とカウントを数える。
金剛院と同じタイミングで、観客が一斉に、「ノオオオッ!」と、手を水平に伸ばす。

茜も、ノーフューチャーの一員だ。恥ずかしがりながらも、付き合う。

「フューチャァーッ!」
観客が一丸となって、胸でバツ印を付ける様は壮観だった。

茜は、すぐにポーズを解く。
「あの、金剛院さん」
声をかけようとしたが、金剛院に遮られる。

「いいよ。敗者に声をかけないでくれ。このまま行かせてよ」
金剛院は一人、マットを降りた。

一礼をして、茜も反対方向へ。
ともかく、あと二戦だ。
あと二戦すれば、ジゼル南武クソババアに届く。

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