星流夜

しーとみ@映画ディレッタント

第3話 飴と傘

弁解しようと思ったタイミングで、料理が運ばれてきた。

「こちら、『飴と傘』でございます」

前菜として運ばれてきたのは、爪楊枝に刺さった小さな料理である。

「シャケの皮ね」

食べようとしたヒカリを、「少々お待ちを」と店主が慌てて駐めた。

店主が用意した仕掛けが、もう一つ。

「霧吹き?」

テーブルに置かれたのは、百円ショップで見るような、小さい霧吹きだった。
中には水と、白い石のようなものが。

「霧吹きをシャケ皮の傘にかけて、お召し上がりください。こう、舐める感じで」

ボクは首をかしげつつ、霧吹きを皮に吹き付けた。
そのあと、舌先を近づける。

「ん、しょっぱい!」

「霧吹きには、塩味の飴が入っております。お好みの辛さで吹き付けてくださいませ」

料理の魅力は、それだけじゃなかった。
カチカチに固かった皮が、霧吹きをかけたことで、やわくなっている。

「美味しいです。シャケ皮の傘も、サイケデリックで」
ヒカルが、店主の料理を絶賛した。


「本当は、椎茸を傘に見立てたお料理をお出ししようと考えておりました。ですが、お嬢様の方がお嫌いだとお伺いしまして」

「へえ、流夜、覚えててくれたんだ!」
「そりゃあもう」

だって、ぼくたちの出会いも、こんな霧雨の日だったから。

「新入生歓迎会でさ、お花見やったじゃん?」

入社二年目のぼくたちが、場所取りとお弁当の注文を担当したのである。

渡された名刺には、「夜野 星」と書いてあった。
「よるの ほし?」と尋ねると、「やの ひかり」と読むのだそうな。

「タレントの森星もり ひかりと同じヒカリなんです」
と、彼女はハシャいでいたっけ。

「うんうん。花散らしの小雨が降ってたよねー」

しかし、予定が変更できず、強行した。

「ヒカリさあ、幕の内弁当の椎茸、食べられなかったじゃん」

あのとき、「もらっていい?」と尋ねて、ヒカリからもらったのである。

ヒカリの方も、「え、シャケ皮食べないの?」と、ぼくのシャケ皮をひょいとさらっていった。

ぼくは、ヒカリが食べるまで、シャケの皮が食べられるものだなんて知らなかったのだ。家族全員が食べないから。

それが縁で、ぼくたちは話すようになった。

二ヶ月後の六月、付き合うように。

「あれさ、作戦だったでしょ?」
意地悪っぽい笑みを、ヒカリが浮かべた。

やはりバレていたのか。

「まだまだ、お料理をお運びします。どれも自信作ですので、どうぞご賞味あれ」

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