転移先がゴミ屋敷だったので、掃除スキル最強の俺がキレイにする! 

しーとみ@映画ディレッタント

地下の落書き

掃除開始から一ヶ月目。四〇日もあった夏休みも、既に半ばを迎えていた。

一〇万体に増えたスケルトン軍団のおかげで、まだ半月残して、魔王城も九割は片付いている。

大規模フリマという大きいイベントも終了し、掃除も佳境に入っていた。

クヌギの割烹着姿も、数日で板に付いてきている。

一応、ダストバスターズは順調というべきだろう。ロゴもパイロンがデザインしたものに統一され、制服に新しく取り付けられた。

目覚ましい変化が起きているのはパイロンだ。自分で積極的に片付けをこなしている。

あと、残すところは地下だけ。ここにはひどい汚れが鎮座していて、どうしても俺自身が掃除しなければ気が済まなかった。

地下室のもっとも深い部分。石造りの床に、もう使われていない玉座。そこに、特大の落書きが描かれていた。

魔法文字だろうか?

クヌギですら読めない文字で、規則正しく文字が連なっている。

どんな洗剤を使っても、この落書きだけは落ちなかった。

パイロンは真琴と共に、服や小物を処分する為ダンジョンへ行っている。

二人がいない間に、掃除してびっくりさせてやろう。俺はそう考えていた。

「クヌギ、手伝ってくれるか?」

「任せろ、人の子よ。其に不可能はない」

「頼りにしてるぞ。クヌギ」

クヌギが、光の剣を構える。

魔力的な力が働いているなら、クヌギの力でどうにかなるだろう。俺はそう踏んでいる。

「ぬううん!」
クヌギが、光の剣を石造りの床に突き刺す。

落書きから緑色の光が迸り、稲妻が駆け巡った。

もしかすると、とんでもない事をしてしまったか? と俺はたじろぐ。


だが、それ以上何も起こらない。


剣を納めたクヌギも、とくに警戒していない様子だ。

「これで問題なかろう」
一仕事終えて、クヌギは袖で汗を拭く。

「二重三重に、魔法障壁が施されていた。よほど消してもらいたくなかったのだな」

クヌギはそう言うが、俺には思い入れのある落書きには見えない。

大事な落書きなら地下になんか書かないだろう。目立つ場所に堂々と書いているはず。

「悪いな、クヌギ。後は俺がやるから」
かなり消耗していたのか、クヌギは床にへたり込んだ。
「それにしても、ここだけ魔力障壁が凄まじかったのう。解除に一苦労した」

掃除を終えた俺は、クヌギの手を取って立ち上がらせた。
俺が手を貸さないといけないくらいヘバッてるのか。

「ただいまー」
玄関から、パイロンの声が。

「今お茶を」
無理をして、クヌギが立とうとする。

「お疲れのご様子ですね。私が代わりにご用意致します」
「かたじけない」

ヘトヘトのクヌギに変わり、真琴がお茶を沸かす。

外の天気がいい。今日は外でお茶をしようとなった。

「掃除ももうすぐ終わりそうだよね? なんか、何もかも順調で怖いよね」

「ああ、順調だ。地下室の落書きも消してやった」

「え」

パイロンが、カップを落とす。
同じように、真琴がお茶のセットを盛大にこかした。

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