転移先がゴミ屋敷だったので、掃除スキル最強の俺がキレイにする! 

しーとみ@映画ディレッタント

パイロン・ネゥム ー魔王の娘ー

目が覚めると、俺は見知らぬ部屋にいた。部屋というか空間というか。

見た目は、大規模な図書館を思わせた。
書物庫より大量の本が、天井近くにまで積み上げられている。世界中の本棚を寄せ集めて築いた要塞、と形容すべきか。

不思議な景色だった。俺の世界では、まず見たことがない。

「ねえマーゴット、本当に大丈夫なの?」

能美いろは……らしき声が、俺の耳から聞こえてきた。

「実力はご覧になったはずです」
続いて、別の少女の声が。

「けどさ、また逃げられたら……」

二人の少女が、俺の側でヒソヒソ立ち話をしている。

俺が起きたことに気づいたのか、少女の一人が俺に顔を近づけてきた。

「起きた?」
能美いろは……によく似た少女だ。

「ここはどこだ?」
「私のお家だよぉ」

セミロングの茶髪を片方団子に結んだ少女が、俺に挨拶をする。
さっきまで、ウチの制服を着ていた少女だ。

今の衣装はまるで、悪魔じみている。フリルの付いたボンテージ姿で、実に仰々しい。


「お前、能美いろは、だったよな?」
ドレスに身を包んでいるのは、さっき俺に一服盛った少女だ。

起き上がろうとしたが、まだ頭がふらついて身体を起こしきれない。

「もうちょっと横になっててねー」
少女が俺の肩に手を添えて、俺を再度寝かせる。

「初めましてぇ。わたしの本当の名前はパイロン・ネゥム。魔王ザイオンの娘でぇす。能美いろはっていうのは、変装時の名前だよ」

おっとりした感じに反して、容姿は肩を出した黒のドレスだ。

俺に顔を近づけてきたが、顔より胸の方が近い。

想像以上だった二つの膨らみを意識して、俺はドキッとなる。

そのボリュームときたら、ドレスから溢れ出さんばかり。ワンピースのスカートは短く、ゆったりとしている。足下は茶色いローファーだ。

「ここは、パパが統べるお城、万魔殿パンデモニウム。魔界で一番大きな建物だよ?」

「なんだと? するとここは」

「魔界だね。異世界って言えば分かりやすいかな? わたしはいわゆる魔族だよ?」

あっけらかんと、少女は自身を悪魔だと言い放つ。

「イマイチ信じられん」

「そう? なんで?」

「全然怖くない」

異世界か。妙な浮遊感というか、場違い感はあるが。それでいて、妙に居心地が良すぎるのだ。

「あぁ……そうだよね……」
理由を言うと、パイロンはシュンとなって、おとなしく引き下がった。

「あまりに唐突すぎて、頭が冷静になってしまったのかもしれん」
落ち込んでいるようだったので、フォローを入れる。

第一、パイロンが人を驚かせるのが好きだとは思えん。

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