オレが攻略したいのは新人賞であってお前じゃない

しーとみ@映画ディレッタント

第5話 いつもと違う幼なじみの様子に、「取材」がはかどる

デー……取材の日を迎えた。

「おまたせー」

家から出てきたフミナを見て、オレは目を見張る。

上はブルーのストライプがあしらわれた、ノースリーブの白いブラウスだ。
紺と白い水玉のスカートである。丈も制服と比べると長めになっていて、いつものフミナと比べるとおとなしい。
随分と大人っぽいファッションで決めたんだなと。

服装が替わるだけで、こうも印象が変わるのか。

「どう?」
フミナは、くるっと回って見せた。

「いつものアホさが軽減した」
「そんな感想、ひどくない!?」

「あんまり似合っててびっくりした」

ガサツな一面しか見てなかったから、いつもと違うフミナで驚いている。

「ふふーん。わたしだってね、やればできるんだから」
そう言って、フミナは自慢げに笑う。

「今日はわたしの隠れた一面を、ショウゾーに見せつけてやるんだから」
「無理しなくていいからな」
「してないしてない。ほら、早く行こっ」



モールは、この辺りから一駅向こうにある。
駅全体が、一つの商業施設となっているのだ。

その気になれば自転車でも行けるが、一時間は掛かるし雰囲気が出ない。何より、この季節に自転車を漕ぐのは暑すぎる。

家族に車で送り迎えしてもらう手も考えた。しかし、せっかく二人きりなのだからと遠慮したのだ。



「いえーい。ついたー」
遊園地でもないのに、フミナははしゃぐ。

「ここの映画館、音が凄いんだよねー」

このモールの特徴は、設備の整った映画館である。

「今日見るのは、アクションじゃないけどな」
「そうなの? いつもド派手な映画しか見ないじゃん」
「まあついてきなって」


午前一〇時前、オレたちは館内に入った。


「おほー、映画といえば、コラボポップコーンだよね!」
謎フレーバーメニューを見ながら、フミナは目をキラキラさせている。

「ねえねえ、これにしようよ!」
フミナが、一番目立つ位置に書かれたメニューを指す。

「それ、児童向けアニメを見る人限定の特典だぞ」

オレたちが見るのはただの恋愛映画だ。

仮にアニメを見るとしても、ストロベリー・サワークリーム味なんて死んでも食いたくない。

「そっか。じゃあこっちのスペシャル味にしよっと。こっちは、ちゃんとわたしたちが見る映画の特典だね。ドリンクはメロンソーダで」

塩チョコバナナ味とか頼んでいる。
トウモロコシと塩とバナナか、絶対マズイだろ。
バターまでかけてもらってるし。
ほら、店員が青ざめてるぞ。

オレは無難に、塩味とジンジャーエールを頼んだ。

「うえええ。激烈に甘いぃ」
ポップコーンを口に入れた瞬間、フミナが沈んだ顔になる。

「かっくらうから、余計に甘いんだろ」

「ジンジャーエールちょうだい」
フミナはオレに覆い被さり、ジュースを取り上げようした。

「ええ、口付けちまったぞ」
「もう飲み干しちゃったよ。いいからちょうだいよ」

オレの席からジンジャーエールをひったくる。
チュウチュウと一口分飲んで返してきた。

「あんがと」
「お前ホント、そういうの抵抗ないんだな。もう一個買ってくる」

さすがに、フミナが口をつけてしまったものを、飲もうとは思えない。

「え、これは?」
フミナがオレの分のカップを差し出す。

「やるよ」
「そんなに汚いかな? わたし」

「いや、そういう問題じゃねーよ。ポップコーンも普通のが欲しいなら買ってくるけど?」

フミナはブンブンと首を振った。

オレは席を立ち、ジュースを買ってくる。


映画が始まった。


『ボソボソ』
『ヒソヒソ』


ささやきが直接伝わり、オレは耳をくすぐられる。思わず、背筋がピンと伸びた。

低予算の邦画だと思って甘く見ていたが、こんな効果があるなんて。

こういった抑えた演技は、映画館だと聞き取りにくい。レンタルして音量を調節してようやく分かるレベルになる。しかし、映画館の技術によって、クリアに聞こえてきた。

耳元でささやかれる行為とは、こんなにも心臓が跳ね上がるのか。てっきり、サウンドの効果なんてないと思っていただけに。これは映画館で見た方がいい映画だった。

フミナの様子を見ると、オレと同じようなリアクションをしている。


「いやー、ドキドキしたね」
出口を抜けた途端、フミナが背伸びをした。

「内容もよかったな」
「最後はハッピーエンドで終わったから、後味良かったね」

最後まで気の抜けない展開が続き、もうダメかと思ったところで大逆転する。
それでいて無理のないシナリオだった。

「メシはどこにする?」
「ファーストフードでもいいよ」

なら、すぐそこのフードコートで、ハンバーガーかな。
このモールなら、ラーメンも捨てがたい。
カルビ丼などの看板が、オレを惑わせる。

「おっと、これは」

日曜のモールは混んでいた。
どこにここまで人がいるのかというくらいに。
何より子どもがうるさい。あちこちでギャン泣きしてるし。

「子どもキライ?」
「甥とは遊ぶからキライじゃないぜ。今日は話し込みたいから」

ちょっと背伸びして、お高めのレストランへ。

客はオレたち以外だと、数組の中年カップルくらいしかいない。

ドリンク付きのハンバーグセットを二つオーダーした。フミナは追加でスペシャルパフェも頼む。

「ヒロインが最後まで希望を捨てないタイプだったのも、好感が持てたね」

「だな。あのヒロインありきの映画だった」

ラストでは、館内の至る所から鼻をすする声がしていた。

「参考になった?」
「バッチリだ」

ここで、オレは思いとどまる。いかん、創作脳に偏りすぎた。大事なのは自然体である。これではいつも通りで、フミナの魅力を引き出せない。

「どうかした?」
フミナがパフェのクリームを崩しながら、オレに視線を向ける。

「あんな甘ったるいポップコーンを食って、よくそれだけ入るなーと」

「これは口直しだよ」
「口直しで追いスイーツかよ」
「欲しかったら言えばいいのに。はい。あーん」

フミナが、パフェスプーンで一口分のクリームをすくう。オレの方へ近づけてきた。

オレは仕方なく、銀のさじを受け止める。

中年のカップルが、二人とも熱い眼差しを向けてきた。
なんだよその期待を込めた視線は。
人の痴情を見ても青春なんて取り戻せませんよ人生の先輩方!

「もう慣れた?」
ンフフ、とフミナが白い歯を見せる。

「いや。こういうのは慣れないモノだな」
「まあいっか。あんまり慣れても、トキメかないもんね」

「あ、そうだ。渡すモノあった」
オレは、おもむろにカバンを開いた。
中から小箱を取りだし、フミナに渡す。


「え、なに? くれるの?」


オレは黙ってうなずいた。


「わーい! 開けていい? こんなにちっちゃいんだから、ゲームソフトじゃないよね」
破らないように、フミナは丁寧に小箱の包装を解く。

万年筆型のペンダントだ。

「センスがなくて悪いな」

「すっごいうれしい! ありがとう! ねえねえ似合う似合う?」
フミナがネックレスを付け、身をのりだしてきた。オレに胸元を見せびらかしてくる。

「似合ってるよ。ちゃんと」

オレが素っ気なくしてると、フミナはさらに迫ってきた。

「もっとよく見て!」

よく見ちゃったら、見えちゃ行けないモノまで見ちゃうんだよ!

「ホントは、もっと実用的なモノを用意しようと思ったんだがな」

けど、しおりは本屋でもらえる。
かといって、スイーツだとなくなってしまう。
それに、フミナは結構食べ歩く。とてもフミナの舌にかなうとは思えない。

「アリガトーッ! でも、なんで?」

「悪かったなって。オレがあの映画を見たいって言ったばかりに、遠くまで」

「感動したからいいじゃん。こっちも用事に付き合ってもらうし」

「なんだよ、お前の用事って?」

「これから、お買いものに付き合ってもらうからねー」

女子の買い物か。
いくら姉貴ので慣れているとは言え、大変そうだな。

「何を買いに行くんだ? ゲームか?」



「水着」

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